〈83〉個人所得税の申告

〈83〉個人所得税の申告

 月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。香港の課税年度は4月1日から翌年3月31日までとなりますので、毎年4月初旬からが個人所得税の申告時期となります。今回は2018年1月に発表された、香港税務局(以下、IRD)と香港公認会計士協会(以下、HKICPA)の2017Annual Meetingの議題に挙がった事項のうち、個人所得税に関連する可能性のある部分について解説致します。

183日ルールと二重課税回避協定について

 最新のIRDとHKICPAの会合であるTax B28 Tax Bulletinの中で、以下の論点等について述べられています。

⑴全面的な二重課税回避協定(以下、CDTA)の下で、個人の税務上の居住地変更年度にどのように183日ルール()を適用するか
⑵香港以外の雇用の下でのストックオプションから得た利益および株式報酬および業績連動報酬に183日ルールを適用する方法。
⑶CDTAに基づく香港在住者としての資格条件

 このうち、本稿では⑴について具体例と共に見ていきます。

個人の税務上の居住地変更年度における183日ルールの適用について

 香港がCDTAを締結した管轄区域の居住者は、通常、当該課税期間に開始または終了するいずれかの12カ月の期間中に183日を超える期間香港にて雇用され、香港で就労を行う場合には、香港外の雇用主から発生した給与所得に関して、香港の所得税を支払うこととなります。

 HKICPAは、フランス・香港間のCDTAを例にとって、個人が香港非居住者から香港居住者に課税年度内にステータスが変更となった場合、IRDが183日間をどのようにカウントするかについて、IRDに説明を求めています。

(例)フランスの税務上の居住者である個人は、フランス雇用主との間に香港外での雇用契約があり、2015年4月1日以前は香港で勤務していませんでした。2015年4月1日から2015年1231日まで、彼は120日間香港に仕事のために滞在しました。この期間、家族はフランスに居住し、家と主な関連事項はフランスに残っていたため、その個人はフランスの税務上の居住者でした。2016年1月1日から、彼はフランスの雇用主からの要請で香港において長期駐在をすることとなり、家族と共に香港に移住しました。2016年1月1日から3月31日まで3カ月間の香港での滞在日数は65日です。フランス・香港間のCDTAの目的上、この個人は2016年1月1日から香港居住者とみなされました。

 ここで、2015年4月1日から2016年3月31日までの課税期間に開始または終了する183日間をどのようにカウントするかが問題となります。この点、フランスの居住者であった2015年4月1日から2015年12月までの香港滞在期間120日間が、香港居住者であった2016年1月1日から2016年3月31日の65日間に加えられる場合には、2016年3月31日に終了した12カ月間のうち香港滞在期間は183日を超え、フランスの居住者である一方で、120日の最初の香港滞在期間に香港で雇用を開始するという点で、彼は香港でも課税されることになります。

 IRDの回答は、この点についての経済協力開発機構(OECD)の解説にしたがい、このような状況では、香港の居住者であった65日目の第2の期間は、183日間のルールの目的のために数えられないと主張しました。したがって、フランス・香港間のCDTAの下では、この例の個人は、2015年4月1日から2015年1231日までの期間に香港で120日間の雇用を行うという点において香港で納税する義務はなく、彼はフランスの納税義務者であったことになります。

 IRDはさらに、2016年1月1日から2016年3月31日までの期間は、彼の雇用契約は香港外ですが、当該日数は、税務条例(IRO)のセクション8(1A)および8(1B)に基づいて、香港の税金計算に考慮されるとしました。

まとめ

 今回のHKICPAとの会合におけるIRDの見解については、各国の租税条約に照らして個別に検討する必要があり、日系企業の香港駐在員にも大いに関係する可能性があるため、疑問点がある場合には、実行にあたり事前に国際税務の専門家に相談されることをおすすめします。

…183日ルールとは、租税条約による規定の1つであり、租税条約を締結している2つの国で勤務したことによる給与がある場合に、その給与に対してどちらの国で課税するかの取り決めのことです。(183日ルールに関する詳しい説明をご覧になられたい方は、香港ポストバックナンバーNo・1333をご参照ください)

(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介
フェアコンサルティング(香港)
東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコ、オーストラリア、ドイツを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
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