粤港澳大湾区 香港車輌の広東省乗り入れ規制の簡素化

粤港澳大湾区
香港車輌の広東省乗り入れ規制の簡素化

 広東・香港・マカオビッグベイエリアの「三つの中心」、「三つの関税区」という特殊性を鑑みると、「越境管理」の障害を減らすための最初の基礎的な作業は、香港側車輌の広東省への乗り入れ規制の緩和である。香港、珠海、マカオを結ぶ「港珠澳大橋」が近く開通するが、通行するには、広東省と香港両地のナンバープレートが必要である。当初、広東省当局は、両地のナンバープレートについて、3000の増発を計画していたが、結局、1万の増発を決めた。しかし、これでも香港側の需要を満たすにはほど遠く、広東・香港・マカオビッグベイエリア経済圏の需要は満たせないとみられる。(劉潤昌)

相互連結がビッグベイエリア建設の基礎的な任務

 広東・香港・マカオビッグベイエリア経済圏の建設で、まず解決しなければならないのは、相互連結問題である。昨年7月11日、習近平・国家主席の立ち合いの下、「広東・香港・マカオビッグベイエリア建設推進深化の枠組み協定」が締結された。同協定では、広東省は、科学技術・産業イノベーションセンター、先端製造業基地を建設し、香港は、国際金融センター、空運センター、貿易センターとしての地位を向上するとともに、世界のオフショア人民元業務ハブ、国際資産管理センターの機能を強化、マカオは、世界の観光レジャーセンターを建設するとし、三地の位置付けを明確に定めた。しかし、これは、各エリアでの発展の方向にすぎない。ビッグベイエリアの構築には、三地の協力が必要である。このため、ビッグベイエリアを形成するには、同エリアの発展を阻害する要因を探し出し、それを解決する必要がある。そこで、まず必要なのは、香港から本土に入る車輌規制の緩和ではなかろうか。

 広東・香港・マカオビッグベイエリアの発展は、一国二制度の優位性を発揮するものである。しかしながら、返還以降、一国二制度は香港とマカオを保護するものであると同時に、制限するものであることが証明された。同じ論理に当てはめると、一国二制度は、広東・香港・マカオビッグベイエリアの独自の優位性であると同時に、制限する要素もあるといえる。

 広東・香港・マカオビッグベイエリアは、ニューヨーク、サンフランシスコ、東京といった世界レベルのベイエリアを超える実力を有する。しかしながら、他のベイエリアは、「中心」が一つのみである。一方、広東・香港・マカオのそれは、「三つの中心」、「三つの境界線」、「三つの税関管理区」を有する。広東・香港・マカオのこの三つの中心は、表面上は、広東、香港、マカオの三つであるが、実際には、広東、香港、マカオは三つの「エリア」で、三つの「中心」ではない。「三つの中心」は、香港、広州、深圳で、マカオは除外される。マカオは、特殊な経済圏で、広東・香港・マカオビッグベイエリアの経済的な影響力は極めて少なく、「境界管理区」、「関税管理区」にすぎない。

相互連結はビッグベイエリア建設の基礎的な任務

 これまで、香港は珠江デルタの主導役で、深圳の幹部も、深圳が香港の「バッグオフィス基地」であると表明し、深圳空港は、香港空港を補完する役割にすぎない面があった。しかし、現在では、深圳の幹部は、「香港にあるものは、我々にもあるが、我々にあるもので、香港にないものもある」と述べている。実際、深圳も広州も、イノベーションの面では香港を大きくリードしている。

 とはいえ、向こう5〜10年という視野でみると、珠江デルタ域内の「一体化」を通じ、広東・香港・マカオビッグベイリアは、世界レベルのベイエリアの水準に達する必要がある。では、香港とマカオはどのようにすればよいのか? 一国二制度の下で、どのように、中国本土と融合発展し、越境管理の数々の矛盾を解決していくのか?

 香港と中国本土は過去40年の協力の中で、二つの体制がもたらしてきた障害を克服し、香港は一国二制度で得られる優位性を最大化すると同時に、一国二制度でもたらされる障害を最小化する必要がある。つまり、二つの制度がもたらす、香港と中国本土との連携の足かせを極力減らす必要がある。実際、広東・香港・マカオビッグベイエリアの「三つの中心」、「三つの関税区」という特殊性を鑑み、「越境管理」の障害をいかに減らすのかが、最初の基礎的な作業であり、これを突破できなければ、「ビッグベイエリア」構想は絵空事にすぎないであろう。

 香港と広州を結ぶ高速鉄道で、香港側と中国本土側の出入境審査を1カ所で行う「一地両検」が実施されるが、鉄道の「一地両検」だけでなく、香港の自家用の本土への乗り入れ規制簡素化も必要であろう。完全な「国民待遇」を享受できなくても、欧州のような簡素化は必要である。

香港側車輌の広東省への乗り入れ規制の緩和は経済効果大きく

 簡素化において、最も必要となる大きな改革は、「ダブルナンバー」制度である。香港、マカオ、中国本土は「ダブルナンバー」管理のうえで、香港から広東省に入る車輌と、広東省から香港に入る車輌の比率は概ね一致すべき、という大きな原則がある。しかし、香港、マカオは面積が狭く、本土の乗用車の受け入れは限定的である。一方、香港は乗用車が60万台程度でと少ないため、広東省にとっては、香港の乗用車受け入れは難しいことではない。実際、深圳だけでも乗用車は300万台近くで、香港の乗用車が本土に乗り入れても通行量への影響は限定的である。さらに、貨物車に至っては、香港は減少しており、広東省側は、今以上の乗用車を受け入れたととしても、貨物車の減少を補う程度にすぎない。

 そして、最も重要なのは、香港の乗用車が広東省に入ることでもたらされる経済効果が、支払うコストを大幅に上回ることである。経済効果の一つ目は、香港や海外の企業が深圳や広州だけでなく、本土の他の都市に拠点設立増加につながることである。二つ目は、各種経済・文化活動が活発化すること。三つ目は、香港の車輌自体、膨大な消費力があることで、生み出される経済効果は、本土の道路の管理コストを上回るであろう。

 また、本土側の香港、マカオ車輌乗り入れ規制の緩和は、ダブルンナンバーの闇取引を減らす効果も期待でき、広東省のナンバープレート管理部門の利益につながると考えられる。

(月刊『鏡報』2018年2月号より。このシリーズは2カ月に1回掲載)

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