《120》脱走犬TT とCaanさん
旅立ち前の最高の24時間
TTという犬がこの世を去った。恐らく10歳くらいだろう。最期はたくさんの愛に包まれた1日を過ごした。フェースブックでこの犬のことが話題にのぼっていたのは数カ月前。元の飼い主に子犬の時から庭につながれ、ただ番犬として利用されていた。亡くなる数カ月前、ガリガリな体で家を脱走し、郵便配達の男性のお供を1日中していたという。しかし、どこに行くにも付いてくるため、いささか困っていたようだ。
ある日、そんなTTが飼い主の妻をかんだため役所が殺処分するらしいという話を知ったCaanさん。Caanさん宅にはすでに猫2匹と犬1匹がいたので、一時的な里親を探してTTを避難させる一方、新しい引き取り先も探していた。そして、去勢手術、狂犬病予防接種、基本的な身体検査を行い次のステップの準備をしていた。その間も、CaanさんはTTを散歩に連れ出し、おいしいものを食べさせ、たっぷり愛情を注いでいた。TTも彼女が大好きだった。
しかし、間もなくTTの様子がおかしくなった。食欲もなく、力もない。地元の獣医師によると急遽輸血が必要ということで、私の犬のうち1匹が血液ドナーになる予定だった。ところが、どうも様子を聞くと、輸血は一刻を争うようなので、すぐ夜間病院に連れて行くことを勧めた。私が駆けつけた時、目にはまだ生命の力があったが、体が弱り、腹水もたまっていた。心臓もしくは癌の病気と思ったため、夜9時を回っていたがすぐに病院へ運ぶ。前出の獣医師はろくに触診をしなかったのだろう。実は身体中に腫瘍があり、触ればすぐわかったと思う。TTは末期癌に侵されていることがわかったのだ。
夜間病院では即刻安楽死を勧められたが、CaanさんはTTを家に連れて帰り最期の夜を過ごし、翌日地元の獣医師に安楽死を依頼することを決めた。しかし、夜間病院から帰るタクシーの中でTTは獣医師の予告通りの最期の症状が現れ苦しんだ。タクシーはまた病院へ戻り、TTは注射を受けて亡くなった。Caanさんは翌日も同じ服を着ていた。「 たったの1日しか家で一緒の時間を過ごすことができなかったけれど、TTは幸せだったと思う。TTは死期を知っていて、 最期を看取ってねと、ほほ笑みながら私の目を見たの」と言って写真を見せてくれた。遠回りしたけれど、私たちは出会う運命だったという彼女。ひどい運命だが、彼らの過ごした24時間は最高の時だったに違いない。