日中関係の改善 ・発展に期待

 経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。
(インタビュー・楢橋里彩)



在香港日本国総領事館

総領事兼大使 松田邦紀さん

【プロフィール】
1959年福井県生まれ。東京大学教養学部教養学科卒業後、82年に外務省入省。96年に在ロシア日本国大使館一等書記官、98年に在ロシア日本国大使館参事官に。2001年には大臣官房海外広報課長、03年に(財)日本国際問題研究所主任研究員兼研究調整部長、翌04年、 欧州局ロシア課長に就任。その後、 在イスラエル日本国大使館公使、在デトロイト日本国総領事館総領事、人事院公務員研修所副所長を経て、15年9月より現職。

——2018年の香港・マカオ経済の見通しについてお聞かせください。

昨年以来の世界経済の成長を受けて17年の香港の経済成長率は16年の1・9%を越える3・7%が見込まれており、今年も安定した成長が見込まれています。ただし高騰し続ける不動産価格など懸念することもあります。香港特区政府にはこうした懸念に今年の大きな課題の1つとして対応することを期待しています。マカオについては、16年はマイナス成長であったものの17年はカジノを含む観光収入が増加に転じるなど、通年で成長がプラスに好転することが見込まれています。

——日中関係の変化による香港への影響と総領事館の役割は何でしょうか。

日・香港関係は、一国二制度の下で日中関係の影響を受けるということは過去にありましたし、今後もあるでしょう。現在、日中双方の努力により両国関係は改善の基調が強くなっていると思います。昨年11月に安倍晋三・総理と習近平・国家主席の首脳会談なども行われましたし、今年は日中平和友好条約締結40周年という節目の年でもあるので、日中関係、日・香港関係のさらなる発展を期待しています。そのためにも総領事館としては、日中関係のプラスの動きを香港の政財界や教育文化指導者、また日本の関係者に知っていただく機会をつくっていきたいと思います。具体的には、一帯一路における香港の役割、粤港澳大湾区の動き、昨年11月に調印された香港・アセアンの自由貿易協定(FTA)などの今後の動きをしっかり伝えていかなくてはいけません。

——日本の貿易拡大と香港での総領事館の役割についてお聞かせください。

17年末現在で香港は日本の食の輸出先として13年連続、最大の市場になっており全体の約1/4を占めています。この香港市場の重要性を再認識すると同時に今後はより戦略的な取り組みをしていく必要があると考えます。従来は香港にある日本食レストランに日本の食材を売ったり、在留邦人や日本食を好む個人向けの消費を念頭においたプロモーションが多かったのですが、今後は香港に多くある中華レストランにどのように日本の食材や日本のアルコール類を売り込んでいくかが重要なポイントになるでしょう。また香港にはイノベーション・科学技術の発達、高齢化、環境・ごみ処理など様々な問題があります。こうしたものに日本がもつノウハウを生かすなど、新しい取り組みも必要になると思います。

——香港からの訪日客数は昨年220万人を超え、 ますます日本熱は高まっていますが、見解を教えてください。

単純計算して香港の3人に1人が日本に行っているわけです。また、日本から香港へ訪問者数も16年は109万人だったのが昨年は123万人と、ともに伸びており、大変喜ばしいです。ただし、香港をはじめ海外からの訪日客が増加しているなか、人を受け入れるインフラと人材不足などの課題はありますね。日本全体として至急やらなければいけないのがインフラ整備。ホテル、モール、アミューズメント施設を質量ともに充実させることです。さらに輸送手段、例えば商業機に加えて個人ジェットの受け入れ体制やハイヤー、レンタカー、バスなども来日者の所得水準にあわせたきめ細やかなインフラ整備をしていくのも大事になってきます。

——今年3回目を迎える「日本秋祭in香港—魅力再発見—」はすでに構想を練っているそうですね。

動いていますよ。昨年は企画・ 運営の段階から香港のビジネスパートナーを絡めていったことで、大きなイベントになり香港の人々の期待やニーズに応えられたという手ごたえを感じています。例えば香港特区政府康楽文化事務署とともに黒澤明監督の映画12作品を上映した「世界クラシック映画回顧展2017—仁義—黒澤明の道」やセントラルにある繁華街・蘭桂坊(LKF:ランカイフォン)での「LKFジャパンカーニバル」、海洋公園での「ハイブリッドカー工作教室」など、秋には香港で日本の面白いことをやっているという認識の共有はできたと思います。今年も楽しみにしてほしいですね。

(この連載は月1回掲載します)

【楢橋里彩】
フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。
ブログ http://nararisa.blog.jp/

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