株式市場暴落の意味

 株式市場暴落の意味

 2月5日、「NY株式が暴落した」との記事がネット上で見られた。同日のNYダウは終値ベースで前週末比1175ドル(米ドル)安の24345ドルと約2カ月ぶりの安値を付けた。翌6日の香港ハンセン指数も1134ポイントで5・2%の急落となった。株価急落の影響は私たちの資産運用にどのような影響があるのだろうか?
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)


米雇用状況は好調、景気も引き続き回復過程にあり、個人消費にも落ち込みは見られない。NY株の急落を受ける形で香港株式も急落したが、香港市場は「半分米国の影響、もう半分は中国の影響」を受ける。米国とはご存じのように香港ドルがほぼ固定相場制で1ドル=7・8香港ドルまでの1%の範囲で為替相場が統制されている。従ってドル経済圏の投資家にとっては為替リスクが小さいため、香港市場への投資活動が行い易い利点がある。

一方、中国の影響では、当然、香港経済が中国に依存していることと、多くの中国企業が香港株式市場に上場している点が挙げられる。中国本土にも上海株式市場や深圳株式市場が存在しているのは周知の通りであるが、これらの市場に上場している企業は主に本土市場に特化している企業群である。そして国際展開をしているグローバル企業は積極的に香港株式市場にレッドチップ(中国本土系企業)やH株(中国国有企業)として上場しているケースが多い。

香港のハンセン指数は12月末から1月24日まで19営業日連騰を続けていた。中国関連銘柄ではテンセント、バイドゥ、アリババといったIT関連3銘柄を買っていれば、強気相場に乗ることが出来た。ただ投資家はリスクに対して鈍感になっていた。NY株の急落はそのまま香港の株価にも連動し急落となった。しかしながら中国株の同時期の下落率は2%程度に留まった。直近の高値からの下落率も5%に満たない。NY株の9%近い下落率から見ると軽微である。中国株の下落率が低い理由は、それまで株価の上昇ピッチが緩やかであった点、そして中国景気に対して投資家の投資姿勢が慎重であった点が挙げられる。このことは後に香港株にとっても有利になるはずである。

ファンダメンタルズは良好

世界最大の投資会社の米ブラックロック社が言うように本当に今回の下げが「20%程度の調整」で留まれば健全な調整になる可能性が高い。つまりNY株、ダウジョーンズ指数で言えば、高値から20%下の21000ドル台、香港のハンセン指数で言うと26500ポイント近辺が目安となる。ただ今回の下落相場で微妙なのが急落の原因がはっきりしていない事である。筆者は金利と見ているが、金融当局である米連邦準備理事会(FRB)は判断しかねているようだ。そのFRBは1月31日まで開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を1・25〜1・50%に据え置くことを全会一致で決定しているが、同時に2018年内には3回の利上げ、そして19年には2回の利上げが実施されるとの見方を示している。これは一体どういう事を意味しているのか? 1回あたり0・25%の利上げを向う2年間で合計5回実施されると仮定すると1・25%の利上げが実行されることとなる。つまり現在の金利水準の1・25%に更に1・25%が上乗せされて2・5%となる計算である。

この金利の上昇は住宅ローンを抱えている消費者には結構な負担に感じるだろう。たかが1・25%であるが、ローン1000万円あたり12万5000円の支払いが、わずか2年後には25万円の支払いに負担が増加するということである。5%から6%に1%上昇するのと1%から2%に上昇するのとでは負担の度合いが違ってくる。実際にローンの支払いを考えてみると負担は一気に2倍に跳ね上がる。

調整は長引くか?

実はこの金利上昇に対する「市場の変化」は英ロンドンで見られていた。昨年11月までの1年間でロンドンの商業不動産価格が急落に見舞われていたのだ。ロンドンの不動産市場の中でも落ち込みが大きいのがテムズ南岸のサザーク地区。21・1%下落している。またロンドンブリッジ駅やシェークスピアのグローブ・シアターのある同地区も同様に21%も下落している。英国の不動産はこの1年で急落している。英国はブレグジット(EU離脱)という問題を抱えていた側面もあるかもしれないが、恐らく金利上昇に最も敏感に反応していた市場なのかもしれない。08年の金融危機以降、世界の主な中央銀行が協調する形でゼロ金利政策や量的緩和政策を実施してきたが、その間に不動産市場はバブル気味に推移してきた。主要国の主要都市では不動産投資ブームに沸いた。それはそうだろう。金利負担がほぼ無いに等しい形でお金を借りることが出来たのだから、不動産価格がここまで上昇しても不思議ではない。香港の不動産の平均価格もとうとう香港人の年収の19倍の水準まで上昇した。

さてこの株式市場の調整は続くのであろうか? そして不動産市場にも調整の波は押し寄せてくるのだろうか? 前述の通り、金利負担が大きくなることを考えると、なかなか強気にはなれない。当面は横ばいか20%程度の調整場面があるのかもしれない。FRBは、ジャネット・イエレン議長に変わり、新しく就任したジェローム・パウエルFRB議長は2月5日の就任後の声明で「米国の金融システムは約10年前に始まった金融危機の前よりも、より力強くなり、回復力も増した。われわれはこれを維持するつもりだ」と述べている。仮にFRBの認識が投資家の認識と大きく乖離している場合は、再度株式が急落する可能性もある。中央銀行の仕事は物価の安定と市場との対話と言われている。その市場との対話がきちんと出来るかどうかも、プロの機関投資家は注視しているのである。



トム:暴落と言えば、やっぱり1987年10月19日のブラックマンデーだよな。1日で21%も下落したのだからな。

ジェリー:ビットコインも負けていないでしょ? 1日で20%の乱高下なんか日常茶飯事よ。

トム:でもコインチェック?だったかな。どうして何百億も盗まれるんだよ? また盗まれたコインが他の口座にどんどん転送されているんだって?

ジェリー:そりゃあ、「犯人」だって現金化したいでしょ? ビットコインでモノを買っても「犯人」が特定されてしまうから、分からないように小出しに送金してるんでしょ。

トム:つまりコインは「絵に書いた餅」って訳か?

ジェリー:今のところは現金を引き出す方法も限られているから仕方がないわよね。

トム:しかしなんでみんなこんなところに預けていたんだろう? 金融庁も慌てて捜査を開始したようだけど、コインチェックは登録申請していない会社だったんだろう?

ジェリー:でも「登録申請中」っていう『抜け道』があったらしいの。でも結局、登録許可が下りていない時の出来事だったらしいわよ。やっぱり難しいよね。

トム:そんな抜け道があるんだったら、わしも理論的にはビットコインの仲介業者が出来るってことだろ?

ジェリー:でも今は金融庁が目を光らせているし、投資家にも注意喚起を行っているでしょ。これだけメディアで報道されていると、誰でも業者になれる時代は終わったね。

トム:アメリカでゴールドラッシュの時に儲かったのは、金を掘り当てた人ではなくて、宿場や飲食店を経営して財を成した人だそうな。集客を見込んだ冷静なビジネスだったよな。わしも西九龍駅前で中国国歌でも斉唱しようかな。

ジェリー:ゴマを擂るんじゃないよ。香港人に袋叩きにされちまうよ。


【暴落】

 暴落とは、物価、株価をはじめとする相場などが急激にかつ大幅に下がること。価格が急騰し相場が過熱状態にある場合に起こることが多い。直前に大きな相場が形成され、チャート理論的に天井を打っている可能性が高い場合、わずかな悪材料にも過敏に反応し暴落する。今回のケースでも米企業業績が好調、雇用情勢も改善、個人消費も順調という中での暴落だった。米10年物国債の利回りの上昇ピッチが速まり、株式市場から債券市場に確定利回りを求める投資家が多くなる、つまり株式市場から資金が逃げて行くのではないかと疑心暗鬼になった投資家からの売りが一斉に出て来た。

筆者紹介

沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資でマルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損をしなかった理由」等多数。 (URLhttp://www.icg-advi sor.net/)

※このシリーズは月1回掲載します

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