第52回
(日本編その3)水産物・中華食材販売店
ひと口に「仕事人」と言ってもその肩書や業務内容はさまざま。そして香港にはこの土地や文化ならではの仕事がたくさんある。そんな専門分野で活躍する人たちはどのように仕事をしているのだろう? 各業界で活躍するプロフェッショナルたちに話を聞く。
(取材・武田信晃/月1回掲載)
日本での商売は何より信用が大事
香港に日系スーパーがあるように、日本にも中華系のスーパーや食材店がある。東京・赤羽で中華食材と魚を扱う「魚豊」のオーナーの王美英さんは1996年1月20日に東京に来た。「日付まで覚えているのは、その日は生涯で初めて雪を見た日でもあったからです」
元々は福建省生まれ。夫の親族を頼って85年に香港に移り住み、不動産関係などの仕事をしていた。90年に兄と弟が留学している東京に遊びに行ったとき、東京は香港と同じ自由の街だと感じたという。「その後、紆余曲折があって私が1人で日本に住むことになり、夫と子供は香港に住み続けたのです」
最初は日本語もちゃんと話せないまま必死で働いた。昼は中華料理店で働き、夜はスナックの手伝いといったダブルワークはざらで、そのほかにもお好み焼き店や魚河岸でも働いた。「日本人は良い人ばかりで、みんな優しくしてくれました」。その結果、中華料理だけではなく、日本のやり方で魚もさばけ、肉じゃがのような素朴な日本料理、お好み焼きも作れるようになった。
飲食関係で働いたのは理由がある。「父は肉屋、母が魚屋だったからです。小さいころから本物を見る力が養われましたし、当時の中国は貧しかったので、肉まんなどを作って近所の人に配ったりしていました」
2014年になると、ある中国人が経営している赤羽の店を売りたがっているという話が舞い込んできた。それが現在の店だった。これまでの経験を踏まえて王さんは店を買うことを決断する。販売しているのは、築地から仕入れる魚をはじめ、中華料理に使う調味料、火鍋などに使う材料、餃子などの冷凍食品。さらに料理が得意な王さんらしく、肉まん、ちまき、醤猪耳、鹵鴨爪などの中華メニューの販売も始めた(100〜800円)。「店頭での販売と注文の割合は半々って感じ」だそうだ。
売れ筋は肉まんで「1日平均80〜100個も売れます。全て手作りです」。本場の味が食べられるということで評判を呼び、遠くは大阪、九州などからも注文がくる。タブレットに微信(WeChat)をインストールして注文を受け付けるなど、やり方は現代的。「日本でのビジネスは衛生面に気をつけるほか、何より信用が大事ですね」。そのために王さん自ら常連さんのところまで届けることもしばしばという。
店は深夜0時に閉店し帰宅するが、早朝5時には一度起きて、築地に電話をして魚を注文する。そして再び眠りに入るという多忙な毎日だ。
店の賃貸契約満了は約1年半後。「年齢も重ねたし香港に帰ろうか迷っていますが、こっちにも家があるので、二女が香港に戻ることに反対しているんですよ」と笑った。
【魚豊】
所在地:東京都北区赤羽1-23-6
電話: 080-7962-8868
営業時間:11:00~翌0:00(水曜定休)