中文大学に研究学会
くすぶる独立志向
香港中文大学で先ごろ「香港独立研究学会」が設立された。昨年秋に再燃した大学などでの独立宣揚活動は下火になったものの、依然として過激な勢力がくすぶっていることは否めない。昨年末に発足した英国のNGO組織などが香港に批判的なリポートを発表しており、特区政府などは外部からの干渉にも神経を尖らせている。
(編集部・江藤和輝)
中文大の関係者が情報交換するフェースブックページ「CUHKシークレッツ」で1月12日、香港独立研究学会の幹事・会員を募集するメッセージが投稿された。同学会は会費40ドルを徴収し、チラシ配布やフォーラム、セミナー、映画会の開催などを活動内容とする。設立準備委員会メンバーはメディアの取材に対し「異なる立場の学生の加入を受け入れるが、討論するのは『香港独立』実現の可能性」であり、「校内で学生に『香港独立』を討論ひいては宣揚する場を提供する」ことが設立目的であると明言した。中文大はこれについて「学生会代表に詳細を確認する。基本法は香港が中華人民共和国の一部であることを明記しており、中文大が関係するすべての活動は基本法の原則を順守して行わなければならない」と指摘。中文大理事を務める劉国勳氏は学会の名を借りて「香港独立」を主張するのは「羊頭狗肉」「研究ではなく独立宣伝」と批判した。
昨年末には独立派の学生が模倣銃所持で逮捕される事件もあった。立法会で議事妨害を抑制するための議事規則改正に関する審議が行われるのに向け、12月11日夜から議事堂前で民主派が改正を阻止する集会を開催。デモ隊が議事堂周辺でテントを張るなどして抗議活動を行う中、デモエリアで12日午後8時半、16歳の男性が模倣銃を所持していたとして逮捕され、香港島中区警察署に連行された。中高生による香港独立組織「学生動源」は同日、フェースブックで逮捕者がメンバーの1人であることを認め、他のメンバーが警察署に赴いて事情を確かめていることを明らかにした。
あるメンバーは逮捕者が葵涌循道中学5年生の劉康氏であることを確認。11月に行われた『明報』主催「学生記者計画」の式典に林鄭月娥・行政長官が出席して記念撮影を行った際、劉氏は画面に「香港独立」と表示したスマホを掲げたため学校側から警告を受けるという事件があり、その後「学生動源」と「香港民族陣線」のメンバーらが学校に乗り込み学校側に謝罪を要求するとともに校門付近で独立宣揚活動を行う騒ぎとなった。
学生動源といえば2016年春節(旧正月)の旺角暴動を主導した本土派組織「本土民主前線」が独立宣揚の後継者として育成していた組織だが、その本土民主前線は瓦解の危機に瀕している。本土民主前線は12月18日、フェースブックで梁天琦スポークスマンが現職を辞任し組織を脱退したと発表。これから裁判への対応に追われることや家族と過ごしたいという本人の希望によるものだという。本土民主前線は旺角暴動の被告である黄台仰・元召集人と李東昇氏が公判に出席せずに逃亡し指名手配されているほか、募金の受け皿と財務管理を行っていた「チャンネルi(HK)」は会社登記処に登記抹消の申請が提出され、火炭にある本土民主前線の本部は人の出入りがなくポストには郵便物がたまっていた。創設者の周俊健氏も行方不明となっている。
高等法院(高等裁判所)は1月22日、旺角暴動で起訴された梁天琦氏ら6人(20〜29歳)の審問を行った。梁氏は暴動罪2件と暴動煽動罪、警官襲撃罪で起訴されたが、警官襲撃罪以外は否認。襲撃された警官はひざ、腕、耳を負傷し2%の永久傷害と断定された。襲撃の様子はメディアの映像で裏付けられ、裁判官はこの件は深刻として保釈を取り消し即時収監を決定。残り3件については審尋が続けられる。他の被告5人のうち暴動罪と警官襲撃罪で起訴された黄家駒氏も暴動罪を認め、即時収監。否認した警官襲撃罪は処分保留となった。
外国勢力の干渉も続く
香港では内部からの独立宣揚だけでなく外部からの揺さぶりにも新たな動きが見られている。林鄭月娥・行政長官は1月16日の記者会見で、英国のNGO組織「香港監察(ホンコン・ウオッチ)」が発表したリポートを批判した。香港監察は香港への入境を拒否された英国保守党人権委員会のベネディクト・ロジャーズ副主席らが昨年12月に設立したもので、メンバーにはほかに元英外相のマルコム・リフキンド氏、英上院議員のデビッド・オルトン氏、同じく上院議員で自由民主党のパディ・アシュダウン元党首、労働党のキャサリン・ウエスト氏、元地方検察官のジェフリー・ナイス氏らが名を連ねている。1月15日に「香港20年:自由、人権、自治が攻撃を受けている」と題するリポートを発表。立法会議員の資格喪失、「セントラル占拠行動」学生リーダーの判決見直し、高速鉄道の「一地両検」などを挙げ「香港の法治には警鐘が鳴っており、中央は引き続き香港の高度な自治権を削ぎ、中英共同声明に違反する」と指摘した。
これに対し特区政府が16日朝に非難声明を出した後、林鄭長官は「リポートは香港に対する根拠のない不公平な論評で、外国の機関が国家の内政と香港事務に干渉しているというのが事件の本質」と批判。特に香港監察の主要メンバーが外国の国会議員であることから「非常に不適切な干渉」と指摘した。同リポートはアシュダウン氏が昨年11月に来港した後に書かれたものだという。外交部駐港特派員公署も「香港監察は偏見に満ち、リポートは事実を歪曲しており、反論する価値もない」との声明を出した。
また米国の人権機関フリーダムハウスは1月16日に発表したリポートで香港の自由度が低下したと指摘した。同リポートは世界209カ国・地域を対象に自由度を100点満点で評価したもので、香港は昨年の61点から59点に低下し、02年以降で最低。順位も昨年の107位から111位に後退した。リポートは「香港統治に対する中国共産党の影響が高まり、民主自決などを提唱する運動が弾圧されている」と述べ、一部の社会活動家の投獄、立法会の議員資格喪失や議事規則改正、国歌法の適用を評価引き下げの主因としている。
これに対し民主建港協進連盟(民建連)の葛珮帆・議員は「米国でも違法行為を煽動したり、犯罪を教唆する言論、騒動を起こす者は憲法の保護を受けない。彼らはダブルスタンダードで香港を批判している」と述べ政治目的と指摘した。フリーダムハウスは米ワシントンに本部を置き、運営資金の66%は全米民主主義基金(NED)、米国際開発庁、米国務省など米政府の予算で賄われている。特にNEDは「セントラル占拠行動」の黒幕として知られている。こうした外国勢力による干渉・プロパガンダは内部の過激勢力を直接・間接的に支援しており、依然として香港は安定を脅かされているといえる。