今号の香港ポストでは、コーポレート・ガバナンス・コードの概要から、香港のコーポレート・ガバナンスの特徴について簡潔に記述します。
(デロイト トウシュ トーマツ香港事務所 竹内 裕一)
コーポレート・ガバナンスとは
昨今のビジネスに関する、特に投資家・取締役の観点からの企業改革や企業不祥事が発生した際など、のニュース記事には、コーポレート・ガバナンスというワードが頻出しており、コーポレート・ガバナンスへの社会的な注目度・期待度が高くなっているといえます。コーポレート・ガバナンスは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み(日本のコーポレート・ガバナンス・コード参照)とされ、企業はこの仕組みを適切に運用することが期待されます。具体的な運用には、企業の取り組みを促進するような投資家のエンゲージメント活動や、企業内においても、取締役会のメンバーである取締役会議長や社外取締役、取締役会に監督される側の経営者のそれぞれが役割を全うすることが求められます。
ここ香港ではHong Kong Stock Exchangeにより、2005年からMain Board Listing RulesのAppendix 14、Growth Enterprise Market(GEM) Listing RulesのAppendix 15内に、コーポレート・ガバナンス・コードが採用され、香港の上場企業に対して施行されています。
コーポレート・ガバナンス・コードの必要性
コーポレート・ガバナンスが必要となる最大の理由は、会社所有者である株主が経営へ関与するのは主に株主総会の重要事項の決議および報告時等に限られ、一方で取締役に日々の意思決定および業務を委託する中で、株主と取締役の間は潜在的に利益相反が生じる恐れがあり、株主の権利を保護する点があげられます。
世界で初めてのコーポレート・ガバナンス・コードは、1980—90年代の数々の企業会計のスキャンダルの末に、1992年にイギリスでイギリスの上場会社を対象としてCadbury Reportが発行されました。
また経済協力開発機構(OECD)は、Principles of Corporate Governanceを発行し、その中で株主の権利、透明性のある開示の重要性、取締役会の責任等を提示し、各国の関連団体や会社等によるコーポレート・ガバナンス・コード作成の参考となることを通じて、クロスボーダー投資を促進させる役割を果たしています。
香港のコーポレート・ガバナンス・コードの特徴
香港は世界の主要な金融センターとして、また国際資本市場としての優位性を維持するため、コーポレート・ガバナンスは重要です。香港のコーポレート・ガバナンスを支える法制度として、会社法(Companies Ordinance (Cap. 622)、Securities (Disclosure of Interests) Ordinance, Securities (Insider Dealing Ordinance)などがあります。
香港のコーポレート・ガバナンス・コードは、香港における上場企業を対象に、イギリスのコーポレート・ガバナンス・コードを参考に作成されています。香港のコーポレート・ガバナンス・コードの特徴は、他国のコーポレート・ガバナンス・コードと比べ、幅広い領域をカバーするものの、経営者の義務およびアテステーションなどの負担は比較的軽いものとなっています。
香港のコーポレート・ガバナンス・コードは前述したとおり、コーポレート・ガバナンスの原則を定めたもので、主に以下六つの領域について⒜基本的条項と⒝推奨されるベストプラクティスが記載されています。
⒈取締役
⒉取締役とシニアマネジメントの報酬、取締役会の評価
⒊説明責任および監査
⒋取締役会による委譲
⒌株主とのコミュニケーション
⒍会社秘書役
香港の上場企業はコーポレート・ガバナンス・コードに定められている条項に従うことが望まれているものの、コーポレート・ガバナンス・コードに定められている条項と反する経営選択をすることも戦略として可能です。その場合、Comply or Explainルールに基づき、アニュアルレポートに反する選択をした理由を開示することが求められています。
おわりに
世界的に企業が取り組んでいるガバナンスの最適化や、企業の戦略的なリスクマネジメントがますます必要となってきている中、従来以上に取締役会等のガバナンスを担う機能が重要になってきているといえます。
(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
竹内 裕一(たけうち ゆういち)
Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所
リスクアドバイザリー部門
アソシエート・ダイレクター。日本国公認会計士の有資格者。
日本、香港、インドでの会計事務所での勤務を経て、2014 年3 月より現職。海外子会社のオペレーションリスクへの対応、不正対応、内部監査支援やS O X 法への対応支援を専門として、香港、中国華南に進出する日系企業に対してサービスの提供を行う。
連絡先: yuitakeuchi@deloitte.com.hk
サイト:www.deloitte.com/cn
※本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。