既存ディスプレイ技術を代替しうるMicro LEDのポテンシャル

既存ディスプレイ技術を代替しうる
Micro LEDのポテンシャル

 SMBC経済トピックスでは、アジア地域において注目されている産業や経済の動向を紹介します。今回のトピックスはMicro LEDです。足元で、液晶パネルから有機ELパネルにディスプレイの一部がシフトする中、5〜10年後のディスプレイとしてMicro LEDに対する注目度が高まっています。Micro LEDは、理論上の性能では液晶パネルや有機ELパネルを上回ります。現時点では量産技術は確立していませんが、目先5年では産業・軍事用AR/VR、車載、ウェアラブル向け、5~10年後の長期ではスマートフォン、PC、TV向けのパネル需要を液晶パネルや有機ELパネルから代替する可能性も出てきています。こうした中、大手パネルメーカーやLEDメーカー等は、Micro LED技術を有する企業の買収や研究開発を積極化しています。また、家電メーカーや完成車メーカー等のユーザー側の動きも活発化しています。長期的にパネル関連業界の競争環境が様変わりする技術革新のポテンシャルを有するため、Micro LEDの量産化等に向けた動向が注目されます。 (三井住友銀行 企業調査部<香港駐在> 神谷 直良)

Micro LEDの構造的な特徴 

Micro LEDは、薄型ディスプレイパネルの一種です。液晶パネル・有機ELパネルといった既存ディスプレイパネル方式と同様のバックプレーン(ディスプレイパネルの一部分で、ガラスやフィルム基板の上に画素を駆動させる電極等が形成されたもの)の上に約10ミクロンの赤・緑・青のLEDチップが高密度に敷き詰められた構造を有します。

液晶パネル・有機ELパネルとMicro LEDを比較すれば、Micro LEDは、液晶パネルはもちろん有機ELパネルと比べても構造がシンプルで、理論上は更なる薄型化・軽量化・省消費電力化やコスト低減が可能となる他、画面の反応速度も高くなっています。また有機ELパネルの課題である画質の経年劣化もありません。形状面では、有機ELパネルと同様に折曲げや巻き込み(フレキシブル、ローラブル)も可能です。

Micro LEDの技術的な課題と需要見通し

ただし、Micro LEDを既存ディスプレイ並のコストで量産する技術は、現時点では確立していません。特に、数百万個のLEDチップをウェーハから取り出してディスプレイパネルのバックプレーン部分に高密度に配列させるMass Transfer工程(注1)を高い効率で行う方法が確立しておらず、生産コストの低減に向けては最大の課題となっています。

このためMicro LEDの搭載先としては、まず目先5年間においては、産業・軍事用のVR/ARディスプレイや、車載向けモニター(Micro LEDよりも画面の精細度を落とした「Mini LED」)等、反応速度や軽量性等のディスプレイ性能が重視され、家電製品ほど低コストが求められない機器が想定されます。

5〜10年後の長期でみれば、低コスト生産に向けた量産技術が確立した場合には、スマホ・タブレット・TV向け等においてMicro LEDが既存ディスプレイ方式を置き換えて拡大し、ディスプレイパネルメーカーの競争環境を大きく変化させる可能性もあります。

関連業界における大手プレイヤーの動き

足元で、最終製品やディスプレイパネル、LEDといった関連業界の大手メーカーが、Micro LED量産技術の確保に向けて動いています。

大手ディスプレイパネルメーカーにおいては、足元ではMicro LED技術を有する企業を買収した先もある他、技術部門トップが開発プロジェクトを主導する先もある等、積極的な動きがみられます。加えて、ウェアラブルへの搭載に向けて家電メーカーがLEDメーカーとの共同開発を進める他、欧州完成車メーカーがサンプル品(精細度を落としたMini LED)の評価を始める等、ユーザー側の動きも活発化してきています。

長期的には、ディスプレイパネルメーカーの競合環境を大きく変化させる技術革新の可能性があるだけに、日系メーカーを中心とする部材・製造装置メーカーの間では、ディスプレイパネルメーカーやLEDメーカー等との共同開発を始めている先や、Micro LEDのサプライチェーンに入り込むことを模索している先も少なくありません。既存ディスプレイパネル関連企業にとっては脅威となりうる一方、技術シーズを有する企業にとっては、販路拡大の機会につながるとみられます。

※注1…Mass Transfer工程:Micro LEDのチップは小さいため、通常の半導体チップをウェーハから切り出すスライサーの刃では厚過ぎて切断できない。また、ロボットアームでつかむとチップの角・側面が損傷してしまう。このためMass Transfer工程では、レーザーや空気圧を用いてウェーハからチップをくり抜いてウェーハ下に置かれたバックプレーンに付着させる等の方法が検討されている。こうした方法で数百万個のチップを正確に配列させるのは難度が高い。

※注2…Micro LED生産において、パネルメーカーがバックプレーン部分、LEDメーカーがLEDチップをそれぞれ生産する。チップをバックプレーンに配列させるMass Transferを行い完成品にして販売する工程をどの会社が担うかといった商流は、確定していない。

(このシリーズは2カ月に1回掲載します)

〈筆者紹介〉
神谷 直良(かみや なおよし)
三井住友銀行 企業調査部 香港駐在:2006年より企業調査部(東京)で電機・通信業界等を担当。2014年より香港に赴任し、現在は主に台湾・韓国・中国(華南地域及び香港)の電機業界の調査や情報発信を手掛ける。

 本資料は情報提供を目的としたものであり、何らかの取引を誘引するものではありません。本資料の情報を、法律、規制、財務、投資、税務、会計の面でのアドバイスとみなすことはできません。また、情報の正確性・完全性を弊行で保証する性格のものではないほか、内容は経済情勢等の変化により変更されることがあります。なお、本資料の一部または全部を無断で複製・転送等することは禁じております。

 

Share