中国税務
―― 国家税務総局による非居住者企業の所得税源泉徴収の関連事項に関する新公告の公布
中国国家税務総局は2017年10月27日に「非居住者企業の企業所得税源泉徴収に関する問題についての公告」(国家税務総局公告2017年第37号、以下「37号公告」)を公布しました。2009年における「非居住者企業 所得税源泉徴収管理暫定弁法」(国税発[2009]3号)、以下「3号通達」)の 公布以来、非居住者企業の企業所得税源泉徴収に関する法規の初めての大改正になります。37号公告は、非居住者企業所得税源泉徴収の徴収管理についてより明確なルールとガイダンスを提供したものになり、これまでの実務で把握した問題の一部を解消すると同時に、法規としての実行可能性を高めました。
(デロイト トウシュ トーマツ香港事務所 フローラ 曽)
37号公告は2017年12 月1日から施行され、37号公告における一部の条項は、37号公告の施行日以前に発生した未処理の所得にも適用されます。37号公告のキーポイントは下記の通りになります。
・源泉徴収義務者に対する契約書届出要求の取り消し
|・配当金の対外支払にかかる源泉徴収義務の発生時点(実際の支払日)の明確化
・非居住者企業が自ら企業所得税の納税申告を行う場合の申告納付期限の明確化
・源泉徴収義務者による未納税額が「源泉徴収済み・未納」と「源泉徴収義務未履行」のいずれに該当するかを判断するためのガイダンスの提供
・課税所得額の計算にかかわる外貨換算ルールの調整
・源泉徴収にかかわる各税務機関の間の責任分担および業務連携の明確化
・課税所得額の計算にかかわるその他事項の明確化
37号公告と同時に公布された解説では、実例を交えて詳しく説明しており、そのキーポイントについて、Q&A形式で説明していきます。
Q1:3号通達の規定により、源泉徴収義務者は契約の締結または修正を行った場合、締結日または修正日から30日以内に契約書の届出を行わなければならない一方、37号公告に類似の規定がありません。源泉徴収義務者に対する契約書届出要求が取り消されたのでしょうか?
A1:はい。3号通達による源泉徴収義務者に対する契約書届出要求は取り消されましたが、所轄税務機関はこれまでと同様に、源泉徴収義務者に対して、契約書または関係資料の提出を要求することができます。
3号通達の規定により、源泉徴収義務者は源泉徴収事項にかかわる契約を非居住者企業と締結する都度、契約の締結日または修正日から30日以内に、所轄税務機関にて「企業所得税源泉徴収にかかわる契約書登録届出登記表」、契約書のコピーなどの関係資料を提出しなければなりません。3号通達の廃止に伴い、上述の届出要求の取り消しと同時に、「企業所得税 源泉徴収にかかわる契約書登録届出登記表」も廃止されます。(注)
ただし、留意点として、37号公告の規定により、以前と変わらず、源泉徴収義務者は契約書などの関係書類を保管しなければならず、所轄税務機関は、源泉徴収にかかわる契約書などの資料の提出を源泉徴収義務者に要求することができます。なお、非居住者企業納税者およびその源泉徴収義務者は依然として、その他の法規による資料提出要求に留意する必要があります。
Q2:中国国内の居住者企業が非居住者企業の株主に配当を行う場合、国内居住者企業による利益分配の決定と実際の配当金支払いのどの時点において企業所得税の源泉徴収を行うべきでしょうか?
A2:国内居住者企業は、実際に配当金を支払う時点で企業所得税の源泉徴収を行います。
「国家税務総局:非居住者企業の所得税管理に関する若干の問題についての公告」(国家税務総局公告2011年第24号)第5条の規定では、中国国内の居住者企業が非居住者企業に配当金などの権益性投資収益を支払う際、利益分配を決定した日と実際に配当金を支払った日の内、より早い時点で源泉徴収を行わなければなりませんでした。
一方、37号公告では、非居住者企業が源泉徴収の対象となる配当金などの権益性投資収益を取得する際、納付税額に対する源泉徴収義務の発生日は、配当金などの権益性投資収益の支払日とされました。この改正が行われたのは、配当金は企業の税引後利益を 株主に分配した結果であり、源泉徴収義務者の原価・費用に計上すべきではなく、「支払期限の到来」に該当する状況が発生しないため、実際の支払日を源泉徴収義務の発生日とするのが妥当とみなしたからです。
この新規定は、37号公告の施行前(すなわち、2017年12月1日以前)に発生した未処理の所得にも適用されます。実務では、国内居住者企業による利益分配の決定日よりも実際の配当金支払いが遅いケースはよく見られます。その場合、 従来の規定により、源泉徴収義務者は利益分配の決定日に源泉徴収を行い、そこから7日以内に源泉徴収した税額の納付を完了しなければなりません。新規定により、源泉徴収義務の発生時点は配当金の支払日となったため、源泉徴収義務者にとって、従来よりも有利な規定になります。
まとめ
37号公告は、非居住者企業の企業所得税源泉徴収についてより明確なガイダンスを提供したものであり、租税徴収管理実務の改善に寄与するものです。37号公告は従来の規定と比べて大きな改正であるため、取引を完了しているが、まだ税務処理を行っていない各取引当事者、および源泉徴収の対象となる取引を行っている最中または行う予定がある場合は、37号公告の内容を詳しく把握した上で、取引に及ぼす影響について分析するとともに、対応措置を取ることで税務リスクの低減を図るよう検討する必要があります。例えば、交渉中の取引について、各当事者は所得税の申告と納付などの事項について明確に約定し、契約書に反映することに留意が必要です。
※注…当該措置は、「国家税務総局:税務システム「放管服」(すなわち、権力を委任し、規制を強化し、サービスを向上する)改革のさらなる深化および租税徴収環境の改善に関する若干の意見」(税総発[2017]101号)第2条第1款第4項「非居住者企業所得税源泉徴収にかかわる契約書届出手続きの取り消し」の要求に応えたものであり、源泉徴収義務者における納税申告手続きの簡素化、および納税管理上の負担の低減に寄与するものになります。
(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
フローラ 曽(Flora Zeng)
デロイト トウシュ トーマツ香港事務所
日系企業サービスグループ シニアマネジャー中国税理士
中国における税務と移転価格専門サービスで10年超の経験を有する。2016年10月より現職。多数の日系企業に対し中国への投資・再編・クロースボーダー業務と移転価格同期資料の作成、移転価格調査抗弁、移転価格ポリシーの構築、移転価格調査による二重課税問題の解消等に関する助言を行い、日中APAもサポートしている。
連絡先: flozeng@deloitte.com.hk
※本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。