第50回
メークアップ・アーティスト兼
化粧品店経営
コスメ評価は自身でテスト
ひと口に「仕事人」と言ってもその肩書や業務内容はさまざま。そして香港にはこの土地や文化ならではの仕事がたくさんある。そんな専門分野で活躍する人たちはどのように仕事をしているのだろう? 各業界で活躍するプロフェッショナルたちに話を聞く。
( 取材・武田信晃/月1回掲載/写真提供・郭嘉頣さん)
第50回を迎えた今回の仕事人は、元イヴ・サンローラン(YSL)でトップのメークアップ・アーティストを務め、現在、化粧品店「Carrie Carries」を経営する郭嘉頣(Carrie Kwok)さん。香港のビューティー市場をけん引する女性の1人だ。
「最初はファッションデザイナーになりたかったんですが、成績が足りず上の学校に進めなかったんです。(ファッション業界に近いということで)化粧品の専門学校の短期課程を受けました。するとなぜだかほかの人よりも上手にできたのです」と美容部員になるきっかけを話す。うまくできたのは才能があったからだ。その後、ランコムの美容部員として2年半働いたが、スキルアップをするためロサンゼルスのメークアップの専門学校に7カ月間通った。
香港に戻ってからはフリーランスとして順調に仕事をしていたものの、「雑誌、広告、ブランドのイベントなどいろいろなところでメークの仕事をしましたが自分にはフリーは合わないと感じたんです」という。
ランコム時代の元同僚からジョルジオ・アルマーニ(同ブランドとランコムはロレアル傘下)での仕事を紹介され、「シニアのポジションでビューティーアドバイザーやPRの仕事をしていました。数年後にはロレアル傘下のYSLのトップのメークアップ・アーティストになりました」。
30歳になる前にYSLの首席化粧師にまで上り詰めた郭さん。そこではお客に化粧をしながら、部下のトレーニングもしていた。そのスキルが買われて香港知専設計学院(HKDI)でもメークの先生として指導。「HKDIで教え出して2年くらい経過したころに自分のブログを開設しました。そして次の年くらいに、友人から化粧品の販売を手伝ってほしいと言われて、それがビジネスをするきっかけとなりました」
2014年に「Carrie Carries」という会社を設立。郭さんが良いと思った化粧品を選び、ウェブサイトや小さな化粧品店に売り込んで販売を始めた。「最初は私の貯金をつぎ込みました」。翌15年、尖沙咀にあった多くのコスメブランドが1フロアに集まる「FACESSS」に出店しないかと誘われ店を構えるようになった。今では4店舗を展開する。「美容部員から会社を設立するまでになったことは本当にラッキーだったと思います。会社のオーナーについて? 発展させなければというプレッシャーはありますね」。
Carrie Carriesで販売する商品は必ず郭さんが試してから決める。「あるコスメブランドの商品を扱うとしたら、すぐに全製品を売り出すことはありません」と「郭さんが薦める品」という信頼が基本になってビジネスをしているだけに評価基準は厳しい。
「今後はもっと有名になりたいとか、ブランドをどんどん大きくしたいという気持ちはあまりないんです。それよりはコンセプトショップのような店を作ることができたらいいなと思っています」