「エコ・エキスポ・アジア2017」リポート

「エコ・エキスポ・アジア2017」
リポート

今年で12回目となった香港貿易発展局(HKTDC)、メッセ・フランクフルト(HK)共催、香港特区政府環境局共催のグリーンイノベーションを促進する世界有数の見本市「エコ・エキスポ・アジア」(以下、「エコ・エキスポ」)が、10月26〜29日の4日間、アジアワールド・エキスポ(亜州国際博覧館)で開催され、世界各国から335社、そのうち日本からは11社が出展、1万4029人の入場者が訪れた。今回は主に日本の出展者の取り組みについて紹介する。(編集部)

■移動可能なバイオマス発電プラント

移動できるバイオマス発電プラント。40フィートコンテナ1つ、20フィートコンテナ2つの中にバイオマス発電プラントを組み込んだプラントの模型

環境保護関連の展示は、浄水装置やら廃棄物処理装置など大型の設備を伴うのが多く、そうなると展示会場に実物を持ち込むことが出来ない…というケースが少なくない。実物を持ってこられない場合の展示はパネルや小型の模型だけということになり、見た目のインパクトは地味である。ただし、そういう中にあっと驚く技術が含まれていたりする。

日本からの出展が集まっている一角で、物静かな男性が1人座っている。その前に青い模型があるけれど、それが何なのかはよくわからない。手渡されたチラシも、後ろのパネルもパッとみただけでは何の展示かはわからない。じっくりと話を聞いてみると、これは移動可能なバイオマス発電プラントの展示であったのだ(!)。

日本プライスマネジメント株式会社技術営業部統括課長の朱偉さん www.price-management.jp

熊本県立大学の石橋康弘・教授が発見した耐熱性の高い可溶化菌により、希釈液などの補助剤を使わずに従来の4倍の効率によるバイオマス発電が可能となり、それを商業化したのがこの「日本プライスマネジメント」という会社。ブースにいた朱さんは中国人だが日本語が上手で、わかりやすく、淡々とこの発電プラントの特徴を説明してくれた。

この効率の良いバイオマス発電プラントを小型化し、40フィートコンテナ1本と20フィートコンテナ2本に収めることで、建築費や建設許可にかかわるコストが不要となり、全体で10分の1のコストダウンを実現した、というわけだ。

特に大規模な処理能力が必要とされない限り、この移動可能なプラントなら、簡単に移動させて設置・運用が出来て、輸出も楽だ。もし不要になれば別の場所への移動や売却も可能なわけで、今後の発展が非常に期待できる、実に日本らしい製品なのであった。

■「シラス」とは?

多くの来場者が取り囲む一角に分け入ると、オレンジ色のポロシャツを着た男性が、イーゼルに掛けられた画板に向かっている…。絵描きさんだろうか? 何かを描いているような…、よくみると彼の手に握られているのは絵筆ではなくて鏝(こて)であり、画板に白い泥のようなものを塗りつけ、自由自在な鏝さばきで美しい模様を作り上げたり、花の絵を描いている。左官職人のようだが、これが一体環境と何の関係があるのだろうか?

高千穂シラス株式会社の尾田謙さんと尹鶯さん www.takachiho-shirasu.co.jp/

話を伺ってみると、こちらは「シラス」と呼ばれるもの。2億5000万年前に火山から噴出された物質で、日本では鹿児島県や宮崎県などにシラス台地を形成している。そこから採掘し、天日干しにして、壁材として利用されているというわけだ。

似たようなものとして珪藻土(けいそうど)もあるが、こちらは海底や湖沼から堆積物を採取した後、焼成する必要がある。天日干しで利用できるシラスの方が建材としては環境への負担が少ないということになるわけだ。

それと、展示ブースには色のついた脱脂綿が入ったガラス瓶が2つ置かれていた。よくみると1つの瓶の底にはゴツゴツした白い固まり…シラスが入っていた。

ブースの人に勧められ、シラスが入ってない方のフタを開けて鼻を近づけてみると、激しく臭い! 脱脂綿にはアンモニアが含まれているらしい。次にシラスが入った方の瓶のフタを開けて鼻を近づけてみると…全く何のニオイもしない。シラスは火山のマグマで超高温焼成された「高純度無機質セラミック物質」であるため、消臭・分解、殺菌、イオン化などの機能を持つそうだ。

アンモニアを含んだ脱脂綿が中に入れられている瓶。右側はシラス入り。左側のフタを開けて鼻を近づけると強烈な異臭を感じるが、右側の方では全くと言っていいほど異臭は感じられない

すでにシラスは国内外のさまざまな場所で利用され、幼稚園や産後ケア施設でも利用されている。日本の自然が育んだ素材と日本の職人の技が合わさって、環境に優しく、人に優しく美しい住環境を提供できるのがシラスなのである。

■ごみ処理装置ではなく「資源化装置」

こちらも実物は大きすぎて会場には持って来られない設備に関するブースであり、2つの装置が展示されていた。

1つは加水分解乾燥装置で、化学薬品などを用いず、高温高圧の水蒸気を使用して廃棄物を分解する。プラスチックなどが多く含まれている廃棄物の場合は石炭の代替となる燃料が出来る。食物残渣などであれば堆肥や有機肥料や飼料を作ることができる。高温高圧で作られた資源は無菌状態で、この装置の燃料として再利用もできる。

もう1つは廃プラスチック油化装置で、廃プラスチックを釜に入れ、無酸素状態で熱するとプラスチックが溶けてガス化する。そのガスを触媒経由で抽出し、冷却すると油が出来るという仕組みのもの。携帯電話の油化による希少金属(レアメタル)の回収前処理にも利用できる。

株式会社伸光テクノスの常務取締役、長澤健太郎さん www.shinko-mfg.co.jp/

話を伺っているうちに気になったのは、このような装置を開発するようになった経緯だ。会社の歴史を聞いてみると意外な回答があった。

そもそも、愛知県一宮市は織物産地として有名で、その歴史は平安時代に遡る。伸光テクノス社の母体は、繊維機械メーカーとして繊維加工の設備を作っていた会社で、先に紹介した加水分解乾燥装置などは糸染めの工程と似ており、廃プラスチック油化装置もそれらの事業で培われた経験が応用されているそうだ。人がいる限りなくならない産業を考えた結果、糸染め用の機械で培ってきた技術を利用して、この分野に進出したらしい。

日本の古くからの産業が、このように新しく生まれ変わることもあるのだ。技術と経験の再利用によって、ゴミを資源に再利用する…。このような事業転換は、今後、日本の他の産業でも行われるのかもしれない。

■林業という「エコ」システム

エコ・エキスポの会場は「環境」がテーマではあるものの、近寄って見れば廃棄物の見本や、処理の装置などが並んでいて、若干殺伐とした雰囲気でもある。

豊永林業(株)、吉野銘木製造販売(株)、奈良県農林部、奈良県産業振興総合センターの皆さん www.houeiforestry.com
豊永林業のウェブサイトは必見。トップページにアップされている動画を見ると、吉野で行われている林業についてよくわかる

そうした中に、ひときわ目立つ明るく和やかな一角があった。奈良県の吉野からやってきた豊永林業さんのブースである。立派な割り箸、木工作品、樹齢350年の大きな木板…。そうした木材たちが放つさわやかな香りが周囲に立ち込めていたのだ。

ブース担当者が木板を見せながら説明してくれたのだが、奈良県吉野の木材は年輪の間隔が特別細かくなっている。これらは木を密集して植え、成長に従って間伐を行うことによって作られるもので、長い年月をかけてじっくりと育てられた木材には良質の油分がたっぷりと含まれている。それがあのさわやかな香りだったのだ。

ただ、この展示が「環境保護」とどのようなかかわりを持つのだろうか? 伺った内容を要約すると、奈良の林業はすでに500年の歴史があり、植林から伐採に至るまで人の手が多く入ることで維持されており、マメに枝打ちを行うことで良質の木材となる。これらの木材は人に優しく、例えば割り箸などは間伐材の木皮(こわ)材から作られるものであり、防腐剤などの化学薬品も含まれず、建築材に使われればシックハウス対策、抗菌作用などの効果もあり、廃棄される木材はバイオマス発電に利用され、循環型の消費が完成しているということだった。

つまり、奈良の林業は生産から加工、消費に至るまでの「エコシステム」が成立しており、その上で自然環境にも、人にも優しいという自然と人間の共生を実現した「エコ」な産業でもあるのだった。

■「ICETT」とは?

公益財団法人・国際環境技術移転センターは略称を「ICETT」と書き、「アイセット」と読む。三重県四日市に本拠があり、過去の公害の経験を教訓とし、日本の環境技術やノウハウを開発途上国へ伝えることを目的として1990年に設立された団体。この27年間で、環境省、経済産業省、JICAなどからの事業を経て、途上国から来た2500人以上に研修を行った実績を持つ。

公益財団法人・国際環境技術移転センター(ICETT)地球環境部事業企画課主査の田村麻紀さん www.icett.or.jp/ ウェブサイトが非常に充実している。環境分野での国際進出を考えている人、環境保全に関する人材育成に関心がある人にぜひご覧いただきたい

そのほか、現地調査に基いて専門家を派遣し、技術指導、セミナーなども行っており、近年は環境ビジネスの支援、ビジネスマッチングにも取り組んでいる。

環境保全の分野において、「教育」が重要であるとよく言われる。単に設備を導入するだけでなく、携わる人々へ環境に対する意識啓発を行い、技術やノウハウを伝えることがなければ、環境保全は完成しないからだ。

ICETTはすでにそれを27年間も継続してきたわけで、今後、日本の企業が環境分野で国際進出する時に、心強い支えとなってくれるのではないだろうか。

■香港の若者が作ったソーラーカー

2015年のオーストラリアのレースに出場したSOPHIEⅤ(写真の車)は完走できなかったものの、2017年のレースに出場したSOPHIEⅥは見事完走し4位の成績を収めた。IVEがソーラーカーの制作に着手したのは2009年。香港製ソーラーカーは、制作開始から8年で世界の檜舞台に躍り出たのだ ■Ive Solar Car  www.facebook.com/sophie.ivety

会場の一角に電気自動車が集められた場所があり、乗用車、大型のバス、スクーターなどが並ぶ中に、ステッカーがたくさん張られたスポーツカーがある。SOPHIEVという名前の車で、世界的に有名なソーラーカーによるオーストラリア縦断のレースに出たらしい。ところで、この車はどこの自動車メーカーが作ったものなのだろう? 車には香港の区旗が…香港のメーカー? 後ろのパネルを見ると「工程学科」と書かれている…。話を伺ってみると、こちらは職業訓練局の管轄下の「香港専業教育学院」 (Hong Kong Institute of Vocational Education=IVE) で学生と教師が一緒に作ったソーラーカーなのであった。

強い太陽光があれば、バッテリーを搭載せずに時速100kmでの走行が可能。バッテリーを搭載すればフルチャージで300kmの走破が可能。モーターには日本のミツバ製を採用 https://youtu.be/saJzxtjHeOg こちらで2015年のレースの様子が見られる

香港での車の使われ方は通勤に用いるものが少なくない。そのため実際には運転せず停まっている時間が長い。その時間を利用して太陽光発電で充電することができれば…というのが、そもそもの着想であるらしい。

ところが取材で非常に気になったのは、「なぜ香港人がソーラーカーを自作したのか?」ということ。失礼とは思いながら正直に言った。香港でモノづくり…というのはあまり聞かない。フリーポートの香港だから、必要とあらば優れたものを外国から買ってきた方が早い…というのが今までの香港人の考え方であったはずだ。

率直に、しつこく、ブースにいた若者に理由を聞いてみた。すると、たどたどしく振り絞るような声で、「みんな、香港に…貢献したいのです。自分の能力を使って。香港の空気は良くない。エネルギーの問題もある。自分が住んでいるところを、愛しているから、まずは自分たちで貢献したいのです…」と言うと恥ずかしそうにして、それから技術の話に戻ると饒舌になった。

ロールバーとサスペンションとホイール以外はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)で作られ極限まで軽量化されているが、オーストラリア政府のテストに合格しており、公道での走行が可能。SOPHIEⅥからはロールバーをCFRP製のバルクヘッドに変更し強度を増しながらさらなる軽量化が実現したそう

彼らのソーラーカーは軽量化のためクーラーはついていない。だから車内の温度は最高で50度を超える。ドライバーは過酷なレースに耐えるため、週末の度に山に登り、野を駆けて厳しい鍛錬を重ねた。学生たちは睡眠時間も削って製作に取り組んだ。2015年のレースの記録ビデオを見ると、厳しいレースに耐えつつ、香港の旗を掲げて奮闘する若者たちが映し出され、「香港人がんばれ!」と泣き顔で叫ぶ女子の姿があった…。みんなが香港のために心を1つにしているのだ。

他の展示ブースでも同様であったが、香港人はとても前のめりに情熱的であった。いま香港人が香港のために貢献できること…、それを環境分野に求めた人たちが集まるのがエコ・エキスポなのであろう。

政府関連ブース周辺にいた環境局のゆるキャラ「大嘥鬼」(Big Waster)。汚染物質をモチーフにしたようだが来場者に大人気で、記念写真撮影に人々が殺到していた
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