63歳、ジャッキーの挑戦

中国映画界の発展に貢献

12月7日から香港で公開される『英倫對決』のポスター(写真提供・Intercontinental Film Distributors (H.K.) Ltd.)

9月に、国慶節映画の1本として中国本土で公開され、スマッシュヒットを飛ばした米・中合作のサスペンス・アクション『英倫對決/The Foreigner』が今月、香港で公開される。原作はスティーブン・レザーの小説『チャイナ・マン』。英国での爆弾テロによって最愛の家族を失った元べトコンの主人公を演じるのは、成龍(ジャッキー・チェン)。2012年に公開された『十二生肖(ライジング・ドラゴン)』を機に、とりあえず本格アクションからの引退宣言している御年63歳になった彼だが、近年その活躍はとどまることを知らないのである。

 香港出身の彼だが、05年の『THE MYTH/神話』を機に活動拠点が中国本土になっており、それ以降は作品の傾向が大きく変わっている。いわゆる本土のスタッフ・キャストとともに、「本土の観客の感性に合わせた作品」の制作である。その2年前の『新宿事件(新宿インシデント)』では、日本に不法入国した中国人の犯罪というスキャンダラスなテーマを描き、上映中止になったことを考えると信じられない状況ではある。

 ただ、ジャッキーのような優秀な映画人が本土に渡ったことにより、01年に世界貿易機関(WTO)加盟を機に自由化の波が訪れた中国の映画産業は、明らかに急速な発展を見せた。その事例として、12年前の『THE MYTH/神話』の興収が1億元で年間2位のメガヒットだったのに対し、今年の旧正月映画として公開され、日本でも今月末から公開される『功夫瑜伽(カンフー・ヨガ)』では、17億元超えという結果を残している。

 一方、先に挙げた「本土の観客の感性に合わせた作品」という意味では、設定やストーリー展開、果ては笑いのセンスに至るまで、それまでの香港製作の作品とは異なることもあり、香港におけるジャッキー映画の興収は年々、下降傾向をたどっている。1997年、『警察故事4之簡単任務(ファイナル・プロジェクト)』で打ち立てた大記録5700万香港ドルとは、ほど遠い数字になっており、上映劇場の減少や『絶地逃亡(スキップ・トレース)』のように劇場未公開になっているのが現状だ。このように本土と香港の温度差がさらに開いていくなか、定期的に香港公開されていきそうなのが、今回の『英倫對決』のようなハリウッドとの合作だろう。

今では老人キャラが泣かせる

 『ゴールデンアイ』『カジノ・ロワイヤル』といった「007」シリーズを手掛けたマーティン・キャンベルが監督し、事件の鍵を握る大物政治家を演じるピアース・ブロスナンと共演。すでに全米や欧州などでも公開され、話題になっているのがジャッキーのアクションと高い演技力である。ジェイソン・ボーンばりにムダのない動きでテロ集団に立ち向かうと同時に、すべてを失った男の哀しみを体現。同時期に公開され、狂言回しとなる謎の老人役を演じた『レゴ®ニンジャゴー ザ・ムービー』もそうだったが、師匠役を演じた『ベスト・キッド』以降、どこか寂しげな老人役が完全にハマリ役になっているのだ。現に、本土では今月、ジャッキー初となるSFアクション『機器之血』が公開されるだけでなく、東野圭吾原作『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の中国版リメーク『解憂雑貨店』も連続公開され、そこではオリジナルで西田敏行が演じた雑貨店店主を演じているのである。

 そのため、今後の待機作に『ベスト・キッド』の続編が予定されているのは納得だが、『シャンハイ・ヌーン』シリーズ第3弾、アーノルド・シュワルツェネッガー&ジェイソン・ステイサム共演のロシア映画といった、アクション大作がしっかりあるところにも注目したい。

 14年にドラッグ所持などで逮捕されていた息子・房祖名(ジェイシー・チェン)を主演作『鉄道飛虎(レイルロード・タイガー)』でしれっと復帰させたり、極端すぎる共産党擁護発言をしたりと、私生活ではファンも首を傾げるような言動も見られるジャッキーだが、それも含めて、とにかく目が離せないといえるだろう。

筆者:くれい響(くれい・ひびき)
映画評論家/ライター。1971年、東京生まれのジャッキー・チェン世代。幼少時代から映画館に通い、大学時代にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。卒業後はテレビバラエティー番組を制作し、映画雑誌『映画秘宝』の編集部員となる。フリーランスとして活動する現在は、各雑誌や劇場パンフレットなどに、映画評やインタビューを寄稿。香港映画好きが高じ、現在も暇さえあれば香港に飛び、取材や情報収集の日々。1年間の来港回数は平均6回ほど。

 

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