中国の第3四半期の成長率は前年同期比6・8%となり、また今年の成長率は金融情報提供会社のブルームバーグによると6・8%に達すると見込まれている。昨年末時点では6・5%という予想であったが、上方修正された。しかも前年(2016年)の6・7%の成長率を上回るのは2010年以来となる。
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)
北朝鮮有事でも中国株を買う!?
米ゴールドマンサックスやバンクオブアメリカも中国の成長率を上方修正する動きが出ている。思えば15年央から16年初に掛けて上海を中心とした人民元安、そして中国株安に世界の投資家が大いに慌てた事があった。あの時は米国がドル(米ドル)高嗜好に動いて資本の流入を促進し、ドル高、米株高を演出していた頃であった。お陰で米国は他の先進各国よりも先に量的緩和政策の「出口戦略」に辿りつくことが出来た。一方でそのとばっちりを受けたのが中国であった。さすがに米国は資本主義国家で金融戦術に長けた国である。経済規模が米国に近づいてきても中国は資本主義の運営ノウハウでは当然米国に叶わなかった。一時期、人民元の急落に見舞われ、中国の金融当局は人民元を必死で買い支えする状況に追い込まれた。
人民元安は投機で国内に流入している外国人投資家や国内の資産家の不安も煽り、一時は「中国金融当局の買い」対「国内資産家・海外投機家の売り」の対決構図となった。14年初には1ドルが6元割れようかという水準にまで高騰したが、その人民元高により中国企業の競争力の低下が懸念された。輸出増で経済規模を拡大してきた中国にとって輸出の阻害要因となる人民元高は看過できない。しかも輸出産業のほとんどが巨大な国有企業であったため構造改革など出来ない。やがて中国の企業業績が心配され始めて、今度は中国国内から海外へのキャピタルフライトが心配され始めた。市場の雰囲気は大きく変わり、人民元売り、中国株売りに動いた。
そして人民元相場はその後も下がり続け、17年初には1ドル=7元割れの水準にまで売り込まれた。一方の米国は14年初はNYダウ平均がまだ16000ドル台であった。相場に勢いがなく、2年後の16年2月には16000ドル割れ寸前となる場面もあった。米国はポスト・リーマンショックの金融政策である利上げに向けてドル高を演出しながら資本を集め、株価を下支えしていた。
中国の金融市場
中国政府は国内からの資本の逃避を恐れ、人民元が国際通貨としての地位を獲得するという大儀をいったん棚上げにして非公式に資本規制を行った。海外で活発にM&Aを行っていた中国企業は人民元を外貨に交換出来ない為、外国企業との契約を履行できない状況に追い込まれた。仕方なく国内のビジネスに専念することになったのだ。それらの資金は海外逃避できなくなった分、再び国内の不動産バブルとなって不動産価格を押し上げた。しかしそれが奏功し株価も持ち直す契機になったのだ。
15年6月頃には人民元相場がまだ高値圏の1ドル=6・20元で推移していたが、この頃が株価のピークで上海総合株価指数は15年6月8日に5166ポイントの高値を付けていた。その後の人民元安に伴い、株価は急落し16年1月の2730ポイントまで約半値の水準にまで下落した。転機は16年末の人民元相場の底入れからである。奇しくも米国ではトランプ大統領が誕生し、ドル安政策を取った。新興国の通貨は対米ドルで、急回復し通貨の安定で新興国株も急騰した。今度は人民元もその恩恵を受ける形で1ドル=7元割れ寸前から今年9月に入って6・55元にまで回復した。
そしてここに来て、これまで上昇相場を演じて来た欧米市場との対比で中国株に割安感があるとの判断が台頭してきた。香港の機関投資家の間では今後の人民元相場の見通しを「強気」として、中国国内への資金の還流・流入を期待する機運が高まってきた。今度はその恩恵を中国株が受ける番である。特にA株への投資を推奨する機関投資家が目立つ。A株は上海株式市場と深圳株式市場の両方で人民元建てで取引が行われている株式を指す。中国国内の投資家は現時点ではそれほど熱狂的にA株投資を行っている訳ではないので、海外投資家の視線は自然とこのA株に関心が集まってくる。つまり本気で中国株投資を行おうというのだ。これには多いに賛成出来るところがある。なぜならば人民元安や株安で大きな調整が起こった為に海外市場との比較で割安感がかなり有るからである。
北朝鮮問題はプラス
日本は北朝鮮のミサイル問題で一時、円高に悩まされたが、日本に着弾する事があれば円を買う余裕は海外投資家にはないだろう。円高に動いていた理由も北朝鮮有事で対外債権国の日本が海外から資産を引き上げ(つまり円高・ドル安)るからだと言われているが、本当に日本が対外資産を売却するだろうか? 例えば実際に日本が米国債を売却して円転しようものなら、日米関係が破たんし日本は一気に窮地に追い込まれるはずである。北朝鮮有事になれば一体どの国が日本の国債など買うだろうか? 一方でその時中国はどうなるのだろうか? ネガティブな大相場が終焉し、しかも「金融鎖国」を行っている中国は恐らく無傷だろうから、中国株や人民元を買うことは理に適っていることになる。しかも北朝鮮と戦争状態になれば、商品価格がプラスに転じるので資源国の株式相場は盛り上がり、これら国々(ブラジル、豪州、NZランド、カナダ等)と取引の多い中国経済の下支えになることは間違いない。
中国にとって北朝鮮の存在などどうでもいいから自国経済の復活に全力を尽くす。北朝鮮有事は中国にとってはピンチにはならない。そういう観点から物事を見ると、中国株安、人民元安、成長率の低下が一巡した中国への投資は面白い。中国株はあまり騒がれていない今だからこそ買い場かもしれない。
トム:香港人の間でも格闘技熱が高まってきたよな。街を歩いているとボクシングジムをよく見かけるようになったもんな。もともと血を流したり、痛みが伝わってくるような格闘技は香港人向けではなかったような気がするね。
ジェリー:それって香港人のボクシングチャンピオン、テックス・チョーの影響ね。22連勝の中華圏最強のボクサーよね。つまり香港人も血を流そうが、痛さが伝わって来ようが勝てばいいのよ、勝てば。それがボクシングブームの火つけになったのよね。でもボクサーってストイックよね。
トム:でも「僕さ〜」っていう顔じゃねえよな。アハハハ。マジで蟹江敬三かと思ったよ。
ジェリー:香港人の英雄なんだから、悪口言ってると毒を盛られるわよ。地場レストランのセットランチには気を付けてね。
トム:じゃあ、行かねえよ。マクドナルドで我慢だ〜。
ジェリー:でも香港には娯楽が少ないんで、エンターテインメントが増えるのはいいことよね。ここは食文化だけで他の文化で自慢できるものは少ないのよね。それはさておきボクサーは減量が大変なのよね。試合が近づくと食べても代謝させないと、体重が増えてしまうでしょ。サウナやランニングで新陳代謝して、ずっと減量に苦しむのよね。
トム:そういえば、「ラッスンゴレライ」と「ダンソン・フィーザキー」はどこにいったのだろうか? 新陳代謝が早いのも考え物である。
ジェリー:さあ〜どこに行ったのでしょうね? 延べ「35億人」に見られたら当然飽きられるでしょうね。
【中国A株・B株】
中国では海外からの投資が自由に内外へ移動できない制約があるので、日本株や欧米諸国の株式のように自由に売買することができない。従って中国国内の投資家と中国当局に認可された一部の外国人機関投資家(QFII)が買うことのできるA株と、国内と海外の投資家が自由に売買できるB株とに分けられている。A株は人民元建てで売買され、B株は上海証券取引所では米ドル建て、深圳証券取引所では香港ドル建てで売買されている。中国では資本規制があることから、主にA株の方が売買が活発で取引量も多い。そしてA株の方がB株よりも人気化する分、割高になる傾向にある。同じ企業が発行している株式でもA株とB株では価格が違う。今後、中国当局は時期を見てA株とB株の統合に向けて市場改革を推し進めて行かなくてはならない。資本主義のおいしいところ取りは世界の投資家から批判の対象となっている。
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。
2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資で
マルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な
関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損を
しなかった理由」等多数。 (URL: http://www.icg-advisor.net/ )
※このシリーズは月1回掲載します