月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。7月末に「香港におけるBEPSへの対応に関する公開草案」に対するパブリックコメントを反映した「BEPSの取り締まり措置に関する諮問書」が交付されましたので、移転価格税制の変更点を解説します。
BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)と呼ばれる、多国籍企業による各国の税制の相違点や不整合を利用した国境を越えた過度な節税策に対応するための国際課税ルールの見直しがOECDで行われていることについては何度か触れてきました。
香港においても、2016年10月26日に「香港におけるBEPSへの対応に関する公開草案」(Consultation Paper on measures to counter Base Erosion & Profit Shifting)が公表され、特に移転価格税制について課税が強化される可能性がある旨は過去に解説してきましたが、2017年7月31日に、当該公開草案に対するパブリックコメントを反映した「BEPSの取り締まり措置に関する諮問書」(Consultation Report on Measures to Counter Base Erosion and Profit Shifting)が交付されましたので、移転価格税制に関する変更点の概要を解説いたします。
移転価格文書化の免除要件
公開草案では、OECDが推奨するマスターファイル、ローカルファイルおよび国別報告書からなる3層構造の文書化が採用される旨は過去に解説いたしました。マスターファイルは多国籍企業の事業概要等を記載する文書、ローカルファイルは個々の関連者間取引に関する詳細な情報を記載する文書、国別報告書は国別に合計した所得配分、納税状況、経済活動の所在、主要な事業内容等を記載する文書となります。
公開草案では、企業に過度な負担をかけることを避けるための免除要件を以下のように定めていました。
・以下の3つの条件のうちいずれか2つを満たす納税者に対しては、マスターファイルとローカルファイルの作成免除
①総年間収入が100百万香港ドル以下
②総資産が100百万香港ドル以下
③従業員が100名以下
・年間の連結売上が750百万ユーロ(約68億香港ドル)未満の会社は国別報告書の作成免除
このうち、マスターファイルとローカルファイルの作成免除要件については、納税者の負荷を軽減するべく、今回の諮問書で緩和されています。具体的には、以下の2つの免除要件のうちいずれかを満たしている場合には、納税者はマスターファイルおよびローカルファイルの作成が免除されることとなります。
⑴事業規模に関する要件(3つのうち2つを満たす場合)
①年間総収入が200百万香港ドル以下
②総資産が200百万香港ドル以下
③従業員が100名以下
⑵関連者間取引に関する要件
①資産の取引(金融資産および無形資産を除く)が220百万香港ドル未満
②金融資産の取引が110百万香港ドル未満
③無形資産の取引が110百万香港ドル未満
④その他の取引(サービス収入、ロイヤリティ収入等)が44百万香港ドル未満
これにより、事業規模がそれほど大きくない会社や、事業規模が大きくても関連者間取引(グループ会社間取引)がほとんど行われていないような会社に関しては、マスターファイルおよびローカルファイルの作成が義務付けられないこととなり、多くの納税者の事務負担が軽減されると思われます。
一方、国別報告書の作成免除要件に変更はなく、年間連結売り上げが750百万ユーロ(約68億香港ドル)以上の会社に関しては、国別報告書の作成が要求されます。
まとめ
香港特区政府は、香港の経済自由度を阻害しない範囲で、有害な税務慣行に対抗しようとするOECDの要求にも応えようと、当初の免除要件を緩和しつつ、一定の課税強化の姿勢を維持しているように思われます。この後、香港政府は改正法案を2017年末までに導入しようと計画しており、移転価格文書化の制度が開始されるのも時間の問題となりますので、上記の免除要件を満たさない可能性が高い会社に関しては、早い段階で文書化の準備を始めることが望まれます。
(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
フェアコンサルティング(香港)
東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコ、オーストラリア、ドイツを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
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