昔の香港を記憶や記録に残したい
ひと口に「仕事人」と言ってもその肩書や業務内容はさまざま。そして香港にはこの土地や文化ならではの仕事がたくさんある。そんな専門分野で活躍する人 たちはどのように仕事をしているのだろう? 各業界で活躍するプロフェッショナルたちに話を聞く。
( 取材と撮影・武田信晃/月1回掲載)
今回紹介するのはミニチュアを製作している黎熾明(Tony Lai)さん。香港の昔の街並みなどをミニチュアで表現している。筆者が初めて見たのは2011年の工展会で、その完成度の高さに驚いた。
「元々は、建設会社でミニチュアの模型を作っていました」と黎さん。小さな模型は建設業界では重要で(完成するまで約半年かかるほど精巧に作る)、それは実際にミニチュアを作ることで設計者が気づくことなどがあるからだ。「小さいころから日本の文化に興味があり、就職してから約1年後の1988〜89年に日本語学校に留学しました」。当初は留学終了後、日本でモデリングの勉強をする考えだったが諸事情で断念。香港に戻って建設のミニチュアを再び作っていた。
「香港にはミニチュア協会みたいな団体があったのですが(現在は消滅)、2007年にそこにいた人から誘われたのがきっかけです」と話す。香港人は今でこそ歴史的建造物に関心を持ち始めたが、それはここ10年くらいのこと。それまでは発展重視で古いものはどんどん壊されていた。「昔の香港が好きなので、なくなっていくのは一抹のさみしさがありました」
建築物のミニチュアを作っていたスキルが生かされ、作品は素晴らしい出来映えだ。「インターネットなどで写真を調べるのが基本ですが、全ての角度がそろっているわけではないので、わからない部分は自分の記憶や想像で製作しています」。製作期間は大きさにもよるが1作品あたり大体4カ月。見るからに根気がいる仕事だが投げ出したくなったことはないのだろうか? 「大坑のファイヤードラゴンは製作が難しく、壊れてしまい5回も作り直しました。でも、記憶や記録に残そうと思って始めたのですから、辞めようと思ったことはないです」
素材はプラスチック、光ファイバー、紙などいろいろだが、香港では手に入れにくいものがある。「中国などから調達していますが、日本に行った時は東急ハンズやユザワヤなどで、ここぞとばかりに資材を買います」と笑う。
13年に会社を辞め、ミニチュア作りのスタジオを設立。そして15年からパートナーと一緒にミニチュア製作を専門とする会社「TOMA MINIATURES」を立ち上げた。展示会、ワークショップ、企業から依頼されたミニチュア製作などを行っている。最近では湾仔に出来た「奇華餅家(Kee Wah Bakery)」の旗艦店内に飾るミニチュアも黎さんが製作した。「18年に李錦記が創立130周年を迎えるのですが、今は彼らの第1号店のミニチュアを製作しています」
今年10月上旬には東京で日本では3回目となる香港ミニチュア展が開催された。今、ミニチュアを製作できる人は十数人いるそうで、その人たちの作品48点が展示されたが、多くの人が訪れ、大盛況だった。