日本経済に元気がない理由
香港人で金融機関に勤める友人、キン・チョン氏の素朴な疑問「なぜ日本はいつまで経っても復活出来ないの?」、そして「なぜ日本人は元気がないの?」。日本にほぼ永住状態の弟を持つ親日家は、いつもこう疑問を呈してくる。私の答えは一応、自分なりの解釈として以下のように答えている。(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)
日本の政治を見るとよく理解できる。メディアは安倍政権の事を「右派政治」「日本のヒトラー」だの「独裁者」だのと宣う。筆者は安倍政権の支持者でも反対者でもないが、安倍さんのどこが右派?と大笑いしてしまう。こんな甘い右派は世界のどこを探してもいないだろう。一昨年末に韓国との間で従軍慰安婦問題について10億円を拠出。安倍政権は「戦時、日本政府が主導した従軍慰安婦は存在しない」と説明していたが、まったくもって意味不明。国際社会は「日本政府は従軍慰安婦問題で10億円を拠出して和解した」と伝えた。これがグローバルスタンダードだ。日本は墓穴を掘って間違ったメッセージを国際社会に伝えたのだ。その後の世界における慰安婦像の設置増加は見ての通りである。本来はこういう安倍さんの政策は、せいぜい中道政治と呼ばれるものだ。これについては親日家のキンも「日本の政治手法が良く分からない」「10億円の拠出は誤解を招く」と語っている。
ではなぜ安倍さんが「右派」と呼ばれるのだろうか? 憲法改正を掲げているからか? それとも靖国神社参拝を肯定しているからか? いえ、そもそも日本のメディアがほとんど左寄りだからだ。左から真ん中(中道)を見ると右に見えるからだ。北朝鮮のミサイルが飛んできたとしても「戦争反対」。生活保護の不正受給が蔓延しても「弱者救済」の看板を降ろす事が出来ない。米国ではとんでもない大統領が出てきたが、メディアは非常にバランスが取れている。FOXテレビやウォールストリートジャーナル等は共和党寄り、ABCテレビ、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト等は民主党寄りと、支持政党の棲み分けが出来ている。これらのメディアは平然と一方の政党あるいは対立候補者を名指しで批判する。
安倍氏は今回の選挙でも国会議員の定数是正の具体策には触れていない。安倍氏が本当に右派ならば、まずは国会議員の定数是正から始めるはずだ。かつて民主党の野田政権が解散時に「衆議院議員の数を80 議席減らす」という三党合意があった。もちろんこの数字は十分ではないと思うが、それでも「身を削る改革」の第一歩であったはずである。それを安倍さんは反故にしたのである。
身を削る改革を実行した上で、堂々と消費税増税を掲げればいいのだ。10%でも12%でも構わない。なぜならば財政再建が出来た暁には消費税減税を開始すればいいからだ。12%を8%、8%を6%に下げるべく改革を恒常的に実行していけばいいのである。そのための国会議員の定数是正なのだ。出来れば半分削減の衆議院議員240人程度が望ましい。自ら身を削る改革が出来れば、公務員改革にも着手することが出来る。毎年、年間30 兆円の人件費が掛かっている国家公務員、地方公務員の30%をカットすれば財源が生まれ、消費税を5%引き上げなくても済む。
その後は、かつて民主党が提案した「道州制」も実現可能になったはずだ。道州制が実現すれば全ての権限が地方に移譲されるから、日本政府の仕事は「外交と国防」だけで十分になる。極端に言うと日本政治に必要なポストは、総理大臣、外務大臣、防衛大臣。あとのポストは地方でそれぞれ決めればいいのだ。しかし残念ながら政治家たちは「失業を恐れて」自ら身を削る改革は出来ない。つまりみんな「自分ファースト」なのだ。
アンバランスな政治体系
日本人が選挙において今一番困っているのは「投票したい政党や投票したい人物が皆無」という事だろう。つまり右派と言われる安倍政権でさえ、本当は中道政治なのだから、左から真ん中まで「90度」の選択肢しかない。しかしユーロ圏では、フランスでは国民戦線のマリーヌ・ルペン党首やドイツではフラウケ・ペトリー党首のドイツのための選択肢という右派・極右が大きく票を伸ばしている。フランス国民やドイツ国民に多くの選択肢を提供しているから政治がホットになる。言わば「左派から右派まで180度の政治」を行っているからだ。友人のキンは、この件では大きく同意し、それが日本人、日本が変わらない主因だと大きく頷いてくれた。
欧州は80年代、左派政治の台頭で移民政策に非常に寛大であった。友人の英国人弁護士は「移民の受け入れは大失敗であった」と言うし、人材派遣会社を経営している友人のフランス人オーナーは「早くイスラム教徒を追い出すべきだ」と語る。これらは全て80、90年代に移民政策を取っていた弊害である。いったん国内に定着した移民は第二世代、第三世代と受け継がれて国内の土着民となる。今となっては国外追放しようにも出来ない。だからフランスでも英国でも右派が台頭してきた。
日本の政治に国民が関心を持てない理由は「選択肢がない」からだ。これは良い、悪いという問題ではなく国民の選択肢をメディアが奪っている可能性が高いのだ。第二次安倍政権では、最後はモリトモ問題に終始してしまった。もちろん政治家としての資質が問われていたのだから、連日メディアが取り上げたのも致し方ないだろう。しかしその間に他の重要課題が見過ごされた。つまりプライマリーバランスの問題である。2020年に歳入額と歳出額が少なくとも同じか黒字化する事を国民に約束していたが、17年の時点で早々に白旗を挙げた。つまり財源不足・財政赤字が解消されない訳だから消費増税に対する布石とも解釈出来る。
人気の小池さんも活躍が期待されている訳だけど、都政で挙げた実績は皆無で、国政に参加している希望の党も不透明な部分が多い。新しい物には「ご祝儀」が付きものだけど改革が実行出来なければ「希望の党」が「気泡の党」になって消えゆく運命になりかねない。
トム:カタルーニャ自治州の独立運動は熱かったよなあ。みんな本当にスペインから独立したがっているの?
ジェリー:スペイン2番目の大都市バルセロナを含んでいるこの州はスペインの経済規模の20%を占める訳だから、スペイン経済にとっては独立は大ダメージよね。
トム:東京が日本のGDPの20%前後だから、東京が日本から消える計算かあ。
ジェリー:日本から東京が消えたら大不況よ。もし東京が独立したら日本経済は立ち行かなくなるでしょ。
トム:大丈夫だよ。東京無しでもやっていけるって。日本には大阪もあるし、名古屋も福岡も札幌もあるんだよ? 政治的な機能を移転するまたとないチャンスだって。
ジェリー:何を呑気な事言ってるの?
トム:香港人のアンケート調査見たろ? 訪問したい都市の上位は東京ではなくて、大阪、北海道、福岡だろ? 香港人は「コンクリートは見飽きた」って言ってたぜ。
ジェリー:もし東京が独立したら、東京スカイツリーも、東京ドームに行くのにもパスポートが必要になるのよ。
トム:それは面倒くせえなあ。山手線に乗るのにパスポート携帯するかあ。
ジェリー:いくら改革と言っても東京都の独立は小池さんも言っていないし、公約しても実現できないだろうから。
トム:じゃあ、日本ではどの都市が独立する可能性があるんだろうか? そういえば山田君の友人が冗談半分に無人島で独立してタックスヘイブンを創るって言ってたよなあ。
ジェリー:タックスヘイブンはもう無理よ。マイナンバー制度になったから。
トム:あれ? 独立しても納税義務は発生するの?
【右派・左派】
「右派・左派」という言葉は、元々はフランス革命時の議会で、当時の国王に「議会の議決を国王に与えるべきかどうか?」を決めるべく議長席から見て右側に賛成派(国王派)、そして左側に反対派(反国王派)が座った。つまり伝統を守るべきだという人達(保守派)と大きく変えるべきだ(革新派)という人達が左右に分かれて座ったことから、保守派が「右派」、革新派が「左派」と呼ばれるようになった。日本では1950年に軍隊を持たないという日本国憲法の維持(平和主義)を尊重する「左派」と、憲法を改正し戦前のような再軍備を肯定する「右派」に分かれて定着したと言われている。第二次安倍政権で憲法改正論議が再燃し、メディアからは安倍政権は右派と見られていた。
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。
2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資で
マルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な
関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損を
しなかった理由」等多数。
(URL: http://www.icg-advi sor.net/)
※このシリーズは月1回掲載します