香港の酒文化の向上に一役
ひと口に「仕事人」と言ってもその肩書や業務内容はさまざま。そして香港にはこの土地や文化ならではの仕事がたくさんある。そんな専門分野で活躍する人 たちはどのように仕事をしているのだろう? 各業界で活躍するプロフェッショナルたちに話を聞く。( 取材と撮影・武田信晃/月1回掲載)
日本人や中国本土人、西洋人に比べれば、香港人はお酒を飲まない人たちだが、ここ数年はユニークなコンセプトのバーが相次いでオープンしているほか、香港人バーテンダーも育ってきた。SohofamaやOZU Barでバーテンダーを務める張寅傑(Kit Cheung)さんは「Spirit of Sprit」というバーテンダーの養成学校を開き、香港の酒文化の向上に一役買っている。
「最初はアートを学ぶため英国に留学していました。当時、中華系のレストランでアルバイトをしたのですが、現地の中華料理店はレストランとバーに分かれている店が多いんです。そこにいたバーテンダーをみてカッコイイと思ったのが目指すきっかけとなりました」
レストランは早く閉まるため、閉店後、バーに行き皿洗いから始めた。本当にバーテンダーになった彼は、ワーキングホリデーなどを利用してスペインやギリシャでも働いてから英国に戻りキャリアをさらに積んだ。2011年に約15年住んだ英国を離れて香港に戻り、バーテンダーとして働き始めたときこう感じたという。「当時の良いバーテンダーは西洋人しかいませんでした。なぜ香港人はいないのか…。そこで自分で学校を開いて香港人バーテンダーを養成しようと始めました」
香港は08年のワインの関税撤廃で、ワインブームに。それが日本酒、地ビール、ウイスキーへと続く流れとなり、香港人がお酒に関心を持つようになった。12年に張さんが学校を開いたときは、時代にのったピッタリのタイミングだった。
プログラムは1回だけのワークショップ(280ドル)、詳しく学ぶコース(3000ドル)、プロを目指すコース(8600ドル)の3種類。プロのクラスは1回3時間の授業を39回こなす密度の濃い内容だ。「カクテルを作る技術だけではなく、経営であったり、酒の歴史であったり、接客など、バーテンダーに必要なことは全て教えます」と話し、生徒には「Why?」と問い返して、答えを求めるという。
「しっかりと根拠を持ってもらいたい、本質を知ってもらいたいからです。もし私の作ったカクテルを飲んで『おいしい』と言っても、どこがどうおいしいのかという説明を求めます。プロになるのですから、根拠のない答えは通用しません」。この考えに至った理由は「英国でバーテンダーをやっていた時、お客の質問に答えられなかったのです。これはまずいと思い必死に勉強しました」という苦い思い出がそうさせるようだ。
さらに張さんは「僱員再培訓局(ERB)」という香港特区政府が行っている職業プログラムの中でバーテンダーのコースがあり、そこでも教えている。これもひとえに、正しいお酒の飲み方と楽しみ方を知ってもらいたい、すそ野を広げたいという思いからだ。これからは張さんに学んだという香港人バーテンダーがどんどん現れてくるだろう。