「美食博覧(フードエキスポ)」前編

 8月17日~21日(一部19日まで)湾仔にあるコンベンション&エキシビションセンターにて開催された「美食博覧(フードエキスポ)」。香港貿易発展局が主催する同イベントは、今年で28回目を迎え、29カ国・地域からおよそ2000もの企業・団体が出展。会期中はおよそ50万人が来場した。日本はパートナーカントリーとして位置付けられており、今回は過去最多となる338社・団体が出展した。日本貿易振興機構(ジェトロ)が主催するジャパンパビリオンは、213企業・団体が出展、7年連続の出展となった。華やかな雰囲気のジャパンパビリオンブースはひときわ目立ち、初日から多くの人々が来場。試飲、試食をしながら「アツい」商談が繰り広げられた。主に畜産品、水産品、 調味料、日本茶青果物、日本酒、 菓子関連など種類は多岐にわたり、出展面積は1350平方メー トル(合計150コマ)と広範囲に及んだ。

ジャパン・パビリオンのテープカットの様子

斎藤農林水産大臣、開幕式に参列

トレード・ホール内のジャパン・ パビリオンステージで行われた開幕式には、来港していた齋藤健・農林水産大臣が登壇。斎藤大臣は、「日本の生産者の情熱や事業者の皆さんの努力の結果としてこれまでエキスポには多くの日本産の農林水産物が出展されてきた。日本食品の安全性や美味しさは世界に類をみない素晴らしいもの。魅力を味わってほしい」と述べ、テープカットに参加した。

インタビューに答える斎藤農林水産大臣

その後の記者会見では、前日に行われた林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官、およびソフィア・チャン食物衛生局局長との会談について言及、日本産農林水産物・食品の輸出促進に向けた意見交換を行ったことにも触れ、「輸入規制については、従来が話をしているように粛々と判断してもらいたいと思っている。早期の緩和撤廃をお願いしたいと伝えている」と述べるに留まった。

華やかなジャパンブースで日本食文化を発信

パートナーカントリーとして位置づけられているジャパンブースでは、初日から様々なイベント、セミナーが行われた。日本食材を使用した調理デモンストレーション&日本酒マッチングのセミナーなどが開催された。

「和食器がつくる新しい空間」を発信する日本食文化コーナーでは、香港の一流ホテルやミシュラン星レストランを担当する山口陶器による美しい器の展示や、燗付師の五嶋慎也さんなどによるセミナーも開催。和食器が織りなす空間や新たな楽しみ方を提案した。

国産和牛の統一マークを刷新、外国産和牛との差別化

国産和牛を出展していたブースで新たに刷新された和牛統一マークを目にした。このマークは2007年より「和牛統一マーク」が制定され、本物の日本産の和牛には 「和牛統一マーク」がつけられることが義務付けられてきたが、昨今の外国産の和牛を使用したブランド商品の乱用により価値が損傷されることを防ぐために、新たに和牛統一マークができたものだ。これまでマークには「WAGYU」という文字のみだったが、新たなマークには大きく「JAPAN」。国産を前面にアピール、外国産の和牛との差別化を図っていく。

2016年の農林水産物輸出統計(農林水産省)によると、香港は輸出額全体の約4分の1の1853億円(前年比3・3%増)となり過去最大の輸出額に。さらに香港向け水産物の輸出額は世界第1位の800億円、第2位の米国(349億円)の2倍以上、牛肉においては、米国向け輸出額の約2倍である40億円(前年比25%増) に達しており、今後の輸出の拡大がさらに期待される。

出展企業インタビュー①
株式会社ごとう醤油 代表取締役 五嶋隆二氏

香港限定販売の「抹茶醤油」

ジャパンブースでひときわ地元の飲食関係者やメディアなどが集まっていたのが福岡県から出展していた大正2年創業の老舗醤油醸造元「株式会社ごとう醤油」。醤油に使う原料は大豆福岡県産「ふくゆたか」、小麦は福岡県産「ちくごいずみ」、食塩は長崎県産「崎戸塩」といった九州産のこだわったものを厳選している。同社の代表的な商品といえば2年前に大ブレイクした「プリンと醤油でウニになる!? プリン専用醤油」(15年4月発売)、「かき氷専用醤油」(15年7月)。これらは、商品の企画・販売を手がけるYK STOERS株式会社とともに共同開発をしたもので、老舗の醤油醸造元が作った画期的な商品と、当時メディア大きく取り上げられ話題になったものだ。九州ならではの甘口醤油の特性を活かしながら鹿児島県奄美大島産の黒砂糖を加え、上品な甘味を実現した「プリン専用醤油」は1万本以上が売れるほどの人気ぶりだった。「醤油はどこの家庭にもある商品。だからこそ市場規模が大きく、遊び心のある商品が受け入れられたと思う」と当時を振り返りながら五嶋氏は話す。

その同社が今回香港で開催されたフードエキスポに合わせて商品開発をしたのが「抹茶醤油」。日本では未販売のものだ。商品開発経緯について、五嶋氏は、「香港の知人から、日本の抹茶を使った醤油を作ってほしいという話が来たのがきっかけ。抹茶ブームが続く香港市場で、日本の食材を代表する「抹茶」と「醤油」を使った商品を作ることで、さらに日本の食材の美味しさを知っていただきたいと思った」と話す。商品開発まではおよそ1年、出来上がったのはフードエキスポが始まる2週間前。製造過程のなかで、特に困難を極めたのは抹茶醤油の「色」。抹茶と醤油を合わせると、緑から黒に変色してしまう。それだと抹茶醤油とは言い難いので、「緑色の醤油」になるよう何度も試行錯誤開発を重ねてきた。試食させてもらうと醤油の味より先に、抹茶の風味が口の広がった。想像していたものより、抹茶の味が主張しすぎることはなく、醤油とのバランスが良い。「深緑色の醤油は、馴染みのない色ではあるものの、香港人が好むサーモンなどの赤身の魚の上にかけたり、ドレッシングとして使うなど、見て楽しめる醤油として展開していきたい」と五嶋氏。香港人のリクエストによってできた商品なので香港のみの限定販売で今後展開していく方針だ。

2013年12月に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、世界的に知名度が高まりつつある抹茶。香港では和食人気も手伝い、抹茶のスイーツは進化し続けブームを巻き起こしている。こうした流れのなかで五嶋氏は「日本食の文化を海外に効果的に発信し続けていくためにも、従来のものから時代に合わせた創作の在り方は、これからも必要不可欠になってくる。これまでの日本の食文化を良い意味で覆す商品を今後も作りながら、新たな発見をしていただきたい」

(このシリーズは月1回掲載します)

【楢橋里彩】

フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。
ブログ http://nararisa.blog.jp/

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