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(三菱東京UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)
今月の質問 最近、中国全国の税関において、通関一体化の改革が実施されていると聞きました。その内容について教えてください。 |
税関総署が公布した「全国通関一体化改革の推進に関する公告」(2017年第25号)により、2017年7月1日から、全国の税関における通関一体化改革(以下「本改革」)が全面的に実施されることとなった。本稿では、その概要を紹介したい。
⒈背景
従来、中国の税関監督管理制度では、貨物輸出入の際、企業は輸出入地の税関で申告を行い、審査を受け、関税等を納付した後、貨物を通関という流れであった。これに対して、企業からは申告が輸出入地の税関(=通関を行う税関)に制限されると不便であり、また、貨物通関手続きが煩雑で非効率だと問題視されていた。
こうした状況を受け、税関総署は貿易の利便性を高め、通関効率の向上のため、税関監督管理体制の改革に着手した。2014年7月、一部の区域に対し、貨物輸出入を申告する税関について、当該区域内の税関を自由に選択できる「区域通関一体化」の改革が始まり、2015年5月までには中国全土をほぼカバーする五つの区域内(注)において区域通関一体化が実施された。
区域内であれば、税関を自由に選択できるようになったものの、全国において通関一体化が図られておらず、また、申告内容に対する審査基準が統一されていないこと、通関手続きの簡素化が行われておらず、通関に時間を要することなどの諸問題は依然として残されていた。そのため、税関総署は更なる改革に踏み出し、2016年6月、上海におけるパイロット企業の試行を経て、今年7月1日、全国の税関において全面的に実施される運びとなった。
⒉主な内容
本改革は、「二つのセンターの設置」、および「三つの制度の実施」を通じて、顕在化する諸問題を解決することを目指している。
「二つのセンター」とは、全国通関業務の一元化管理を行うリスク防止管理センターおよび租税徴収管理センターを指している。(表1)
「三つの制度」とは、革新的な通関審査制度・税収徴収管理制度・共同監督管理制度を指している。(表2)
表1:二つのセンターについて
表2:三つの制度について
⒊改革による影響
本改革が企業にもたらす最大のメリットは、貨物輸出入の際、需要に応じて全国の税関を自由に選定し、申告できることにある。例えば、広州企業の海外調達原材料が北京空港から入国する場合、改革前は原則的に北京空港の税関にて申告及び通関をしていたが、改革後は近隣の税関で申告ができるなど、利便性が向上する。また、企業所在地と貨物の輸出入地が異なる場合、以前は多くの企業が貨物輸出入地の申告代行業者に税関申告を委託していたが、本改革により企業自ら申告することが可能となったことで、コスト削減に繋がることも期待される。
その他、今までは貨物通関前に申告内容に対する審査が集中することが多かったが、本改革後は、通関前は主にオンラインによる安全性リスクチェックのみとなり、税金の計算も企業自らやることで申告から貨物通関までの所要時間が大幅に短縮される。また、貨物輸出入に対する通関審査では、今までは税関ごとに判断が異なることがあったが、改革後の全国貨物輸出入審査は同一基準によるもので行われ、類別・価格・原産地などを巡って税関との個別交渉が不要となったことで、効率性向上が期待されている。
ただし、本改革においては、企業自ら税関が算定した税金を基に納税することに変更されたことで、法令遵守に対する責任が高まっている。もし、税関の事後調査で問題が発覚した場合、企業は罰金や延滞金等が科されることや、税関の信用ランク引下げとなれば通関の優遇措置を受けられなくなる可能性がある。更に、これまで税関の書類審査などに従事していた税関職員が今後調査部門に再配置されることで、事後の調査頻度の増加や、調査の厳格化が考えられる。企業には通関申告に関する内部管理およびコンプライアンスの強化が求められる。
また、本改革の実行による通関監督管理センターの設置により、税関従来の組織が大きく変わったことで、通関現場では各部門間における連携不足や責任の所在が不明確になるなど、新たな問題が発生する可能性がある。その上、新通関システムの導入に当たっては、システム問題が起きる可能性もあるため、留意が必要である。弊室は引き続きその実施状況に注視し、関連情報をフォローアップしていきたい。
※注:当該五つの区域は北京・天津・河北地区、長江流域、汎珠江デルタ地域、東北地域、シルクロード経済地域を指す。
(執筆担当:何 薇波)
(このシリーズは月1回掲載します)
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