「フード・エキスポ2017」リポート
(1)日本出展者・前編
今年で28回目となった香港貿易発展局(HKTDC)が主催するアジア最大級の食品展示会「フード・エキスポ」は、8月17〜21日の5日間、香港コンベンション・アンド・エキシビション・センターで開催され、世界各国から1542社余り、そのうち日本からは331社余りが出展し、過去最大となった。今後の出展を予定している日本の企業や団体も多いそうだが、その前にまず参考のため視察に訪れて、それから…というケースも少なくないと聞く。そんな「これからの出展者」のために、これから2回にわたり、トレードホールの日本の出展者の取り組みを紹介する。(編集部)
■モール温泉掛け流し養殖すっぽん
フード・エキスポの出展者には、さまざまなスタイルがあり、単に商品を展示するだけでなく、日本から多くの食材を持って来たり、その場で調理し、試食してもらったりする。そうした中で、ただ小さな紙皿に黄金色の液体を注いで置いているブースがあった。
近づいて話を聞いてみると、これは「すっぽん」のスープであると言う。試飲してみると、豊かな旨味が口中に広がり、生臭さや雑味はなく、非常にスッキリしている。すっぽんスープの中でも極上の部類であろう。
そもそも華人の皆さんはコラーゲンが多く含まれる食材を好む。すっぽんは低脂肪、低カロリーで、コラーゲンを多く含むため、今後が期待できる商品でもある。
ブースに飾られたタペストリーやポスターを見ると「青森県東北町モール温泉掛け流し養殖」と書かれている。株式会社東北すっぽんファームの甲地慎一(かっち・しんいち=写真中央)さんに、詳しく話を聞いてみることにした。
「父が温泉を掘り当てたのですが、最初はとらふぐの養殖を考えて、泉質の成分分析を依頼したところ、すっぽんの養殖に適しているのが判明しました。すっぽんの赤ちゃんはデリケートで、一般的には1000匹を養殖しても、育つのは200匹くらいしか残らないよとも言われていましたが、私たちの温泉では1匹も失うことなく、元気に育ちました」
一般的な温泉は火山性で刺激が強すぎるため、すっぽんの養殖には不向きだが、甲地さんの温泉は「モール泉」という植物起源の有機質を含む低刺激の泉質で、すっぽんの養殖に適しており、地下水をボイラーで加温するのではなく、温泉水を掛け流しにするため、常に新鮮な水質が保たれており、低コストかつ衛生的でもある。このようにして育てられたすっぽんは、生きも良く栄養価が高く、香港には冷凍されて出荷される。
甲地さんの温泉は、人間も入ることが出来るもので、有名な温泉ソムリエからも高く評価された優れた泉質なのだという。将来は「温泉すっぽん」が、青森県の温泉、観光業を盛りたてるきっかけになってくれるかもしれない。
■百年養蜂はちみつ
香港で「はちみつ」は、チャーシューの照りと甘味を加えたり、バーベキューに塗ったりするので潜在的な用途は広い。香港は暑くて汗をかきやすいので、体の保水性を高めるために、日本人よりも抵抗感なくいろんなところで、はちみつを使用するのではないかと思われる。
近藤養蜂場のブースには、はちみつを使ったさまざまな商品が置かれていたが、今回注目度が高かったのはドリンク系の商品で、その中でも「ゆず茶」は取材時の3日目には既に売り切れていた。
「お湯で割って飲んだり、ジャム代わりにパンに塗って食べたりするのですが、ゆず茶は早々に売り切れてましたね」と、有限会社近藤養蜂場大阪支店長の山下卓郁(やました・たかふみ=写真中央)さんは語る。なぜ、ゆず茶の売れ行きはそんなに良かったのだろうか。
「ゆず茶は、韓国でもポピュラーな商品だったので、使い方がわかりやすかったのかな…と思います。私たちのゆず茶は、ゆずを細かくミンチ状に刻んでおり、砂糖ではなくはちみつを使い、甘さは控えめとなっています」
そういえば、香港でもしばらく前に韓国ブームがあり、瓶詰めのゆず茶がよく売られていた。先行して韓国のゆず茶が香港で広まっていたため、受け入れられやすい商品だったのだろう。
取材中にも多くの客が近藤養蜂場のブースに集まっていたが、これは商品が優れているのもさることながら、まずはブースの皆さんが明るく元気よく接客をしていた影響が大きかったのではないか。多くの客が「ここのはちみつを食べたら、こんなに明るく元気になるんだ」と思ったのではないか。明るく元気な接客が、言葉の壁を越えて好印象を与えているように見えた。
■今回、最も注目を集めた出展者
岐阜県立岐阜商業高等学校は、2014年度から2016年度において、文科省から社会の第一線で活躍できる専門的職業人を育成するため、先進的で卓越した取り組みを行うスーパー・プロフェッショナル・ハイスクール(SPH)の研究指定を受け、卒業生が出資した10万円を資本金に「株式会社GIFUSHO」を設立、全校生徒約1200名が株主として2000円ずつ出し合い240万円の増資を行い、学校のオリジナルグッズの企画販売や、他企業との共同で商品開発に取り組み、授業の一貫としてビジネスを行っている。
このような取り組みだと、所詮は学生のお遊び…と思われるかもしれないが、同校では約2000万円の売り上げ、およそ200万円の利益を出しており(!)、利益は卒業生への記念品購入や、地域の幼稚園、特殊支援学校への書籍の寄贈などに使われているそうだ。つまり生徒たちに給料は支払われていない(!!)。
「人件費がかからないのがウチの会社の強みでして(笑)、形として、会社は学校の外部にあり、生徒たちはそこで働いているのではなく、インターンとして参加している…ということになっています」と、LOB(リーダーオブビジネス)部顧問の後藤有喜先生が、取り組みの概要を説明してくれた。
株式会社GIFUSHOでは「岐阜の活性化を高校生の手で」という経営方針があり、地域貢献に繋がるビジネスを考えている内に、地元の十六銀行からの誘いを受け、フード・エキスポに参加することになったそうだ。
今回は商品の販売が目的ではなく、今後の商品開発のためのテストマーケティングとして参加しており、岐阜から持ってきたあられなどのお菓子を来場者に試食してもらい、アンケートを集めていた。不慣れながらも英語を使って、一生懸命に感想をヒアリングする姿は、立派な「国際的ビジネスパーソン」であった。
そして、彼女たちのセーラー服姿は、会場内でよく目立っていた。日本のJKカルチャーは世界に、特にアジア圏で知られているが、本物の日本の女子高生が制服を着て香港にやってくるのは非常に珍しいことなので、注目を集めていたのであろう。
これは他のブース…先に紹介した近藤養蜂場などでも見られた現象であるけど、フード・エキスポではたくさんの来場者が訪れてごった返すので、出展者は特徴のある衣装を着用して目立つ方が有利である。ブースの装飾や展示などは人が多くなってくると、なかなかじっくりとは見てもらえない。特徴のあるユニフォームを着ていると、人が多い中でも目立つし、移動中でも目に留まるので、覚えてもらいやすい…というメリットがあるのがわかった。
■「ゆずすこ」とは?
株式会社高橋商店は、かねてから粕漬けを製造しているが、製法が似ている柚子胡椒の生産にも着手し、2008年に液状の柚子胡椒である「ゆずすこ」を開発。その後、テレビ番組で紹介されるなどして大ブレイクした。入手まで3カ月待ちという時期もあったそうで、日本では既に有名な商品である。
そもそも「ゆず」は中国原産で、日本で最も多く栽培されている植物だが、近年は欧州で注目されるようになり、世界的に「yuzu」で通じるらしい。そうした背景の下で「ゆずすこ」は世界に普及し、フランス料理のソースや、カクテルに使われるなどして用途も広がり、既に20カ国へ輸出。香港でも販売されているそうだ。
今回の取材で何よりも驚きだったのは、ブースにいたのが高橋商店の小野恭子さん(写真)1人だけだった…ということである。小野さんは、本人いわくカタコトの英語しかできず、通訳は共同出店している他のブースの人に、たまに助けてもらうだけで、専用の通訳は雇っていなかった。それでもフード・エキスポへの参加は可能で、手応えのある商談が出来たそうだ。今までの海外進出の経験の蓄積があるからこそ可能なのだろうが、「コツ」さえしっかりつかめば、フード・エキスポへの参加は決してハードルが高いものではない…と思わされる事例であった。
■バイオマス発電による乳酸菌メロン
フード・エキスポで日本のフルーツを扱うブースは多いけれど、こちらは小さなブースでメロンとブドウだけを扱っていた。他の商品は見当たらない。産地を大きく打ち出すわけでもなく、ブースにいる人たちも、生産者や農協の人でもなく、果物販売の代理店という風にも見えない。
何度か通りかかって、ずっと気になっていたので、思い切って話しかけてみると、こちらはバイオマス発電を利用し、農薬不使用で有機肥料と乳酸菌を使い栽培されたメロンなのであった。
「ブドウの方は知り合いが作っているものなんですけど、弊社の本業は再生エネルギーでして、こちらのメロンは弊社のバイオマス発電技術を用いて、温度調整をした温室で栽培したものです。一般的にメロンの旬は7月から8月なのですが、弊社の技術と農業とのコラボで、1年を通じてメロンの栽培が可能となりました。そこで今回、販路拡大のためにフード・エキスポに参加しました」
ところが、ブースに用意された説明資料を見ても、バイオマスのことは全く書かれていなかった。
「消費者の受け止め方を考えて、バイオマスのことは書かなかったのですね。環境に優しい発電方法として、良い方に理解していただければ良いのですが、良くない方に理解する人もおりますから…」
こちらのメロンを栽培した温室では、森林組合から調達した木材チップで発電しているが、バイオマス発電には廃棄物を利用する方法もあるため、誤解を招かないように説明を避けたのだろう。
でも、再生可能エネルギーの技術とのコラボで生産したメロンが出展されていたというのは、これからの日本の農業や食品輸出を考える上で非常に有意義な発見であった。
■大橋量器
枡(ます)は、そもそも計量器として使われ、日本では1300年以上の歴史があるそうだ。岐阜県大垣市は、木曽川、長良川、揖斐川をはじめとして、15の一級河川が流れるため、古くから水運に恵まれ、良質の木材が集まる好立地にあった。そこに名古屋から枡作りの技術が伝わったのが大垣の枡作りのルーツとされ、現在大垣の枡の生産量は全国で80%のシェアを占めるという。
大橋量器は1950年に創業、10年ほど前からデザイナーとのコラボを始め、5年ほど前から海外展開に積極的に取り組んでいる。
今回の出展では、多くのバイヤーから好感触が得られ、初日から販売を希望する声が多く、企業や日本食レストランのロゴを入れて売り出したいとの要望もあったそうだ。近年の日本の食文化、日本酒の普及と共に、枡も海外進出しやすい環境が整っているのではなかろうか。日本食品の海外進出が、他の日本製品の進出のチャンスも生み出しているのだ。