ユダヤ人コミュニティーでもビットコインの過熱投資はやまない。9月1日に1ビットコインが4904ドル(米ドル)を付けた。その後3300ドル割れにまで下落し落ち着いたものの、引き続き投資家・投機家の期待は膨らむ一方である。なんといっても数年前までは200ドル台だったのだから。ビットコインの今後はどうなるのだろうか?
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)
年初から急上昇を続けてきたビットコインは7月中旬には一時2000ドルを割れて調整局面に突入したかに見えた。しかし米利上げの延期や北朝鮮のミサイル問題がクローズアップされて5000ドル台が視野に入ってきた。ビットコインはなぜこれだけ重宝されるのか? あるいはなぜ投機の対象となっているのだろうか? 香港人の友人で米系金融機関に勤めるコモディティー(商品)ファンドのファンドマネジャーは次のように見ている。「そこにはビットコインの持つ性格がある。ビットコインの性格は基本的にインフレに強い。これは発行枚数が予め2100万枚と決められていて、それ以上は発行しないからだ」
確かに7月時点で約1600万枚の発行枚数であるため、今後も発行枚数は増加していく。しかし供給過剰になることはないと言われている。一定の時間を置きながら等間隔でビットコインが発行されているからだ。2040年に上限の2100万枚に達すると見られていたが、現在のペースで行くと、もっと早い時期に上限に達すると言われている。そして前述のファンドマネジャーは続ける。「ビットコインはネット上の仮想通貨であるが、多くの企業が決済通貨としてビットコインの使用を認めている」。最近では通貨としての価値も確固たるものとなっていることから、これら2つの価値(商品と通貨)を巡って売買されている。そこに個人投資家やヘッジファンド・マネジャーが投機家として市場参加している。これがビットコインが大きく値を飛ばしている理由である。
つまりビットコインは基本的にゴールドの代替を果たしている可能性が高い。インフレに強く換金性が高いというのはゴールドの専売特許であったはずである。最近になってビットコインに同調し、各国でも仮想通貨を創設して、これらの投資家を取り込もうという動き出て来た。仮想通貨がビットコインだけでなく、イーサリアム、リップル、ライトコインと人気を分散させている。現在のところビットコインに「適正価格」というものが存在しないから、一体どの価格水準が適正な価格なのか皆目見当が付かない。そういった部分もビットコインに対する人気となっているのは間違いない。
ただこれら仮想通貨の目的は、元々各国の紙幣発行の乱発がやがてハイパーインフレとなって、通貨の価値を維持するのが難しくなると考えられていたからだが、各国の中央銀行が管理下に置く事が出来ていないという点ではゴールドと同じ境遇にある。
なぜ金ではなくビットコインなのか?
2003年に1オンス=350ドル台であったゴールドの価格は、11年には高値1900ドルを付けた。実に5倍に上昇したのであるから、既に行き過ぎた相場であると投資家は誤解しているかもしれない。しかしながらゴールドには代替通貨という役割と貴金属というモノの役割の2つが存在する。モノの価値はインフレ時に上がる(逆に言えば通貨の価値が下がる)。
1980年に旧ソ連のアフガニスタン侵攻時に高値800ドル台を付けた。この時のドル建てで見た米国の物価水準と現在の物価水準を比較すると約3倍の違いがある。つまりゴールドをモノとして見た場合、本来の高値は800ドルの3倍の2400ドルが「正しい高値更新」という事になる。この水準は未だに達成されていない。まず当時と比較して近年はゴールドの代わりになる金融商品が多く存在しているため、世界のマネーがゴールドに一極集中しなくなっている。ゴールドに流れる資金の大部分がビットコインに流れたのかもしれない。投資においては手垢の付いていないビットコインは過去の経験則というものが当てはまらない分、投機の対象となりやすい。
北朝鮮問題は予測不能
最近のビットコイン(仮想通貨)とゴールドの価格を支える要因として北朝鮮問題が取り上げられる。本当に北朝鮮は米国に盾突くことがあるのだろうか? もし金正恩・党委員長の側近の利権者が自分たちの個人的利益を最優先するあまり、金委員長をマインドコントロールしているとしたらどうだろうか? 例えば「大陸間弾道ミサイルに核の搭載が可能になり、米国本土を爆撃出来る体制が出来上がるとすると、北朝鮮は米国と戦っても戦争に勝利することが出来る。先制攻撃を行って大きなダメージを与えてしまえば、米国の最新兵器を無力化することが出来る」などと金委員長に吹き込んでいたとしたらどうだろうか? 金委員長が対米国の戦争を本気で考えていても不思議ではない。ただラッキーなことに米国も本当は北朝鮮問題どころではない。
トランプ問題の方が余程、厄介な問題である。先日も米国は債務上限問題で議会が紛糾しかけていたがトランプ大統領は「上限撤廃」を示唆した。結果、一時的にドルは急落して1ドル=107円台に突入する始末であった。トランプ氏の失言は容易にマーケットを崩してしまい世の中を不安定にしてしまう事が証明された。その時の気分で対北朝鮮で空爆に踏み切ろうものならば、在日米軍は恰好のターゲットとなるだろう。必ずしも性能が高いとは言えない北朝鮮のミサイルが日本本土の一部にでの着弾しようものならば、日本人は核武装の議論に踏み切るはずだ。米国も日本の核武装を望んでいない。せっかく70年も掛けて、日本を、日本人を骨抜きに教育してきたのだから、ここで日本が自衛に走る事は、ゆくゆくは在アジア米軍の撤退を意味し、米国のプレゼンスは低下するどころか、なくなるだろう。その時だろう。ビットコインが1万ドル、金価格が1オンス5000ドルに跳ね上がるのは…。
ジェリー:仮想通貨は、あくまでバーチャルなんだから手に取る事は出来ないんだよね。これまでお金は触れることが出来るものと見てきたけど、常識が変わってきたよね。
トム:簡単にはバーチャル通貨は受け入れ難いだろう。やはり頭の構造改革が一番難しいよ。頭の構造改革といえば、まだ日本国内も暑さが続いているようだけど、夏の高校野球中継見てた?
ジェリー:もちろんよ。エアコンの良く効いた部屋で、かき氷にシャービックまで食べながらの観戦。あの暑さの中で甲子園で観戦している人たちが気の毒に見えたものね。
トム:わしだったら甲子園ではやらないぞ。近所に京セラドームがあるから夏はそこで高校野球大会を行えばいいんだ。
ジェリー:何を言っているのよ。伝統があるじゃないの。高校野球の伝統を軽んじたらいけないわよ。
トム:でもなあ、伝統を重んじるだけに犠牲にしているものも大きいぞお。時代が変わっても、頭だけがついて行ってないんだよな。その点、京セラドームはいいよ〜。冷房効いているし、ドームだからもちろん降雨で試合の順延の心配はないよ。
ジェリー:確かに地区大会で熱中症で倒れた球児は数知れず、応援団の中にも救急搬送された方がいたそうね。
トム:大阪のウォーターフロントの活性化にもなるぞ。京セラドームの近くにはUSJもあるし、海遊館もあるだろう。
ジェリー:そうねえ、アベノミクスよりは良さそうね。
トム:ははは、「泡のミクス」と一緒にしないでくれないか。101回大会からは高校野球は京セラドームだ。超満員の観衆で埋まるぞ。京セラドームだったらわしも見に行く。
ジェリー:うんうん、苦労の嫌いな人が言うセリフだわ。
【仮想通貨】
仮想通貨とは法定通貨に対して特定の国家による価値の保証を持たない通貨のこと。逆に言えば各国通貨当局がコントロールをすることが出来ない通貨である。米国財務省の一部門は仮想通貨を「本物のお金」の対義語と位置づけ、欧州中央銀行(ECB)は「制御出来ないが特殊なバーチャルコミュニティで受け入れられた電子マネー」と定義付けている。日本では昨年の新資金決済法の下で「物品を購入し、若しくは借り受け、又はサービスの提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる。また不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値のあるもの」と定義付けている。
筆者紹介
沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。
2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資で
マルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な
関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損を
しなかった理由」等多数。 (URL: http://www.icg-advi sor.net/)
※このシリーズは月1回掲載します