#107中国進出におけるCEPAの優位性

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(三菱東京UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)



今月の質問
最近、CEPAで新たな協議が締結されたと聞きました。その内容について教えてください。また、中国進出にあたり、CEPAの枠組みでの進出には依然優位性があるのでしょうか?


6月28日、香港政府と中国商務省は「中国本土と香港の経済・貿易関係緊密化協定」(以下CEPA)の枠組みの下、新たに「投資協議」と「経済技術提携協議」に調印した。「経済技術提携協議」は即日発効、「投資協議」は2018年1月1日から施行され『香港サービス提供者』の自由貿易・投資範囲がさらに拡大されることとなる。

 一方で、外商投資企業の中国進出のハードルは年々低くなりつつあり、中でも、自由貿易試験区(以下自貿区)では、一般地域と比べさらに低い条件での市場参入が可能である。

 本稿では、CEPAによる開放の歴史を簡単に振り返りつつ、新たな協議締結による開放分野、およびCEPAの優位性について考察する。

⒈CEPAについて

 CEPAは、香港原産の製品と香港サービス業の中国本土でのビジネス拡大を目指した、香港と中国本土間の自由貿易協定である。2003年の本文調印以降、10の補充協議が追加され、うち、貨物貿易では、2006年1月からすべての香港原産貨物に対しゼロ関税を適用することに同意済みである。サービス貿易分野においては、補充協議で徐々に開放を進め、2014年には、CEPAの枠組みを基盤に「広東省と香港のサービス貿易の自由化を基本的に実現する協定」(以下「広東協定」)を調印し、香港企業に対する広東省域内でのサービス貿易自由化を基本的に実現した。また、当該開放措置は、翌年調印された「サービス貿易協定」によりすでに中国本土全域に拡大している。

 なお、香港政府によると、中国本土市場への進出にあたり、『香港サービス提供者』認定を取得した香港企業はこれまでに1800社を超え、企業合計で約60億人民元の関税節税を享受したようだ。

⒉CEPAで出るか自由貿易区で出るか

 外商投資企業の中国進出にあたっては、通常、「外商投資産業指導目録」に基づき投資可否を判断するが、2013年上海に初の設置以来、今では全国11カ所に拡大した自由貿易試験区(以下自貿区)では、独自にネガティブリストを採用し、一般地域と比較して外商投資企業参入のハードルを下げることでさらなる投資誘致を図っている。

 当該ネガティブリストは、今回のCEPAの新協議公布に先立って更新されており、外商投資企業投資プロジェクトのうち、27項目の特別管理措置がネガティブリストから削除され、より一層参入条件が緩和された。しかしながら、CEPAと自貿区ネガティブリストを比較すると、サービス業での中国進出形態条件では、左図の通り、いまだCEPAに若干の優位性がある。

CEPAと自貿区ネガティブリストにおけるサービス業での進出条件比較(抜粋)

⒊CEPAにおける2つの新協議内容

⑴投資協議
 「投資協議」は、CEPAのネガティブリストを、従来のサービス業から、製造業、鉱業および固定資産投資といった非サービス業にまで初めて拡大したもので、香港企業は、ネガティブリストに記載された26の指定項目以外の非サービス業への投資において、中国内国民待遇を享受可能となる。また、CEPAの枠組みでは、中国は香港に「最恵国待遇」を与えるとしていることから、中国が自国の領域内で、第三国にさらなる待遇を提供する場合には、引き続き香港に対しても自動的にその待遇が与えられる。

 特定産業への進出形態に関する今回の「投資協議」の内容と自貿区ネガティブリストを比較したものは左図の通りで、いずれもCEPAの枠組み下での優遇が見られる。

CEPAと自貿区ネガティブリストにおける特定産業(非サービス業)への進出条件比較

⑵経済技術提携協議
 「経済技術提携協議」は、香港企業向けの具体的な参入措置を示す「投資協議」と異なり、香港と中国の経済および技術に関する提携を強固にするために、CEPAおよび各補充協議に基づき締結したものである。

 当協議では、香港と中国の結びつきを重視した、より緊密な協力方針を示しており、専門職業サービス、金融サービス、観光サービスおよび科学技術革新など、多岐にわたる分野での提携強化を強調している。また、当協議の「一帯一路」および「粤港澳大湾区」プロジェクトに関する章では、香港が当該プロジェクトに参加するにあたり、共同プラットフォームと相互情報交換システムの強化等、中国とより緊密な協力を推進することを奨励している。

⒋まとめ

 CEPAによるさらなる中国マーケットの開放は、香港企業の中国投資に様々な優遇を与え、両地域間の貨物およびサービス貿易をより一層便利かつ自由なものとしてきた。自貿区ネガティブリストが外商投資企業に対する制限をさらに開放することにより、CEPAによる外商投資企業の中国への進出に対する優位性は薄れつつあるものの、今回の「投資協議」におけるサービス産業以外の分野に対する開放は、両地域でのさらなる投資自由化に向けた一つの重要な進展といえる。

 また、CEPAの更新は、中国政府が「第13次五カ年計画」で掲げる中国の香港に対する支持強化と、「一帯一路」および「粤港澳大湾区」における香港の国際金融、物流・貿易センターとしての地位確立という、中国の国家発展に向けた戦略に合致しており、中国政府が香港を特別な場所として重視する姿勢が垣間見られる。外商投資企業が新たな開放分野で中国という巨大マーケットへの進出を検討するにあたっては、香港サービス提供者としてCEPAの枠組みでの進出の優位性を確認し、積極的に香港拠点を活用した投資スキーム構築をすることも一つの選択肢として考えられるであろう。
(執筆担当:エンジェル・フォン)
(このシリーズは月1回掲載します)

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