月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。近年、日本企業の香港進出は一段落しつつあり、進出企業の中には既存組織または既存事業のストラクチャーを変更した上で活動している会社が増えてきました。今回は、香港で実施される事業再編にどのような方法があるのかの概要について解説いたします。
事業再編手法の概要
香港で採用される事業再編としては、以下のような手法が挙げられます。
①株式譲渡
②事業譲渡
③合併
④減資
⑤休眠
⑥会社清算
⑦登記抹消
①株式譲渡
株式譲渡は、株式を相手方に譲渡することで経営権を譲渡する方法です。他の手続と比較して手続が容易ですが、会社全体を取得することになるため、不要な資産、会計帳簿に記載されていないような偶発債務および簿外債務まで引継いでしまう可能性がある点がデメリットとなります。
②事業譲渡
事業譲渡は、会社の事業の全部あるいは一部を他の会社に有償で譲渡する方法です。株式譲渡とは異なり、事業を行うのに必要な人・物・権利等を選定して譲受できますので、不要な資産や簿外債務を引き継いでしまうことがない点でメリットがあります。ただし、取引先や従業員と改めて契約を結ぶ必要がある等、個別に契約や権利の移転をする必要がある点で、株式譲渡と比較して事務手続が煩雑になります。
③合併
合併は、二つ以上の会社が、契約によって一つの会社になる方法です。合併は個別の移転手続をすることなく、当然に事業は買い手に承継されることになりますので、事業譲渡のように、契約関係、権利義務、従業員等を承継させるための個別の手続が必要ありません。香港においても、裁判所の認可を必要としない簡便的な合併手続が２０１４年３月に施行された新会社条例で認められるようになりましたが、合併会社（存続会社）と被合併会社（消滅会社）はいずれも香港法人であること等が要求されているため、在香港日系企業で合併を採用できる企業はそれほど多くないかもしれません。
④減資
減資は、企業が資本金を減らす方法です。①から③までの事業再編とは性質が異なりますが、会社の資本金を減少させ、過去の欠損填補に充てることにより将来の配当原資を確保しやすくしたり、余剰資金を株主に返却するできる手法という意味で、事業再編の一種と言えます。
合併と同様、従来の会社条例では、減資の実行にあたっては原則として裁判所の許可も必要とされていましたが、２０１４年３月に施行された新会社条例では、裁判所の許可を得ることなく減資が実施できるようになりました。これにより、在香港日系企業でも比較的よく減資が行われているようです。
⑤休眠
休眠手続は、会社を存在させながら、営業活動を一時的に休止させる方法です。昨今、家賃や人件費の高騰等の理由により、既存の事業を中国や別の国に移管する事例がよく見受けられますが、事業移管により実質的にペーパーカンパニーとなった香港法人を一時的に休眠状態にして、将来の香港法人の活用方法を検討する場合等に使用されます。
休眠会社となった場合、年次報告書の提出や会計監査が不要となる等、法人の維持運営コストが削減できるため、香港法人を存続するかどうかを検討している会社や、当面は社名や銀行口座を保存しておきたい会社が一時的に休眠手続を利用しているようです。
⑥会社清算および⑦登記抹消
会社清算および登記抹消手続は、いずれも香港法人を閉鎖する方法です。両者の相違やメリット・デメリットについては紙面の都合上今回は割愛しますが、会社を存続することを断念し、会社を閉鎖する場合にいずれかの方法が採用されます。
まとめ
事業再編を行うには一定のコストが発生しますが、再編を行った結果として、現状の無駄なコストを削減できたり、合法的に税額を節減できる場合もあります。いずれの事業再編手法にもメリットとデメリットがあるため、各社が置かれている状況をよく分析した上で、どのような再編を行うことがグループ全体にとって最も適切なのかを慎重に検討する必要があります。
（このシリーズは月１回掲載します）
筆者紹介
フェアコンサルティング（香港）
東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコ、オーストラリア、ドイツを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
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