中国経済—今月のポイント
①中国経済は安定的に推移している。これは、当局が融資拡大ペースを抑制するのに良好な環境である。
②中国当局は、より穏健で中立的な金融政策を通じ、金融リスクの抑制と景気の安定成長維持の間のバランスを取ることを望んでいる。
中国人民銀行、中立的な金融政策
個人消費と不動産投資の伸び加速を受け、 人民元レートとバスケット構成通貨は依然として連動しており、自由な値動きとなっていない。こうした通貨制度の下、資金流出は中国人民銀行のバランスシートの資本負債項目の中の資本項目における外国為替資金規模および負債項目における商業銀行預金(または備蓄通貨、もしくはベースマネー)の減少につながる。
中国ではここ数年の資金流出を受け、人民銀行の外国為替資金残高が13年末から16年末までの間に4兆5000億元減少した。しかしながら、備蓄通貨および人民銀行のバランスシートの規模は外国為替資金座高の減少に伴って減少していない。その理由は、人民銀行が商業銀行向け融資を提供し、外国為替資金残高減少がもたらす資産縮小の影響を相殺しているためである。実際、人民銀行の公開市場操作により備蓄通貨およびバランスシートの規模は膨らんでいる。
人民銀行の備蓄通貨は13年末から16年末までの間に3兆8000億元増加。また、銀行および銀行以外の金融機関の債権は6兆9000億元増加し、人民銀行のバランスシートの規模は2兆6000億元増加した。
人民銀行の公開市場操作により、金融市場の環境は緩和され、短期の資金調達コストである7日物レポ金利および国債金利はともに下落した。仮に、人民銀行の操作がなければ、備蓄通貨、バランスシートの規模は外国為替資金残高の減少に応じて減少し、金融環境は引き締まるはずである。
しかしながら、人民銀行はここ数カ月、穏健で中立的な金融政策を強調するとともに、外国為替資金残高減少に伴う備蓄通貨の減少を容認している。今年1〜5月、備蓄通貨は9400億元減少し、同期間の外国為替資金残高の減少額(3930億元)を上回った。人民銀行による銀行および銀行以外の金融機関に対する債権は1090億元増加したものの、一部の資金は人民銀行で増加した預金における政府部門の資金によるものである。
人民銀行の備蓄通貨(ベースマネー)の減少に伴い、市場金利は今年の初めから顕著に上昇。7日物レポ金利は昨年末の3%を下回る水準から、足元では約3・4%に上昇している。同期間の2年物国債利回りは3%から3・5%に上昇。広義の通貨供給量(M2)の前年同期比伸び率は昨年12月には11%を上回っていたが、今年5月には9・6%まで鈍化している。
中国では景気が安定推移しているため、政府はより穏健で中立的な金融政策を実施することで貸出の伸びを抑えることが可能である。今年1〜3月期の国内総生産(GDP)前年同期比伸び率は6・9%で、2015年第3四半期以来の高い伸び率を記録。他の足元の経済指標でも、鉱工業生産や固定資産投資は力強い伸びを示している。これは、ここ数年の資金流出、人民元安、経済構造の転換に対応すべく、当局が景気を支える策を講じ、貸出の伸びが加速したためである。貸出の伸び加速により、企業や個人の社会全体の資金調達額を示す社会融資総量の対GDPの比率は、13年末の179%から今年3月末には213%に上昇した。
当局は短期の貸出の伸び加速による金融リスクを注視しており、金融市場でデレバレッジを積極的に推進している。当局としては、金融リスクの抑制と景気の安定成長維持の間のバランスを取るよう望んでいるようで、景気の安定に伴い貸出の伸びを抑えることで金融リスクを抑止しようとしている。とはいえ、融資の伸びを過度に抑えることで景気が大幅に鈍化するのは避けたいところだけに、人民銀行の金融政策は中立を維持するであろう。これは、金融市場の資金供給が十分であることを意味する。
全国金融工作会議で金融安定発展委員会の設置を決定
中国では先に開催された全国金融工作会議で、政府が国務院金融安定発展委員会を設立すると決定。金融業の監督効率を引き上げ、システミックリスク管理を強化する。ここからは、リスク防止、金融業のデレバレッジが今年下期の主要な目標の一つであることがうかがえる。6月末時点のM2の前年同期比伸び率は9・4%にまで鈍化。また、A株市場では信用買い残高の流通株ベースの時価総額に占める比率は2・1%と、2015年末の2・8%に比べて低下している。
一方、6月の経済指標は軒並み良好で、製造業購買担当者景気指数(PMI)は改善し、小売売上高の前年同月比伸び率は市場予想を上回り、1年半ぶりの高い伸びを記録した。四半期ベースでも、4〜6月期のGDPの前年同期比伸び率は6・9%と、市場予想を上回った。これは、デレバレッジが進むと同時に、実体経済が安定を維持していることを示し、デレバレッジ政策の初期的な効果といえる。今後は、景気の急減速を回避すべく、引き締め政策はさほど強化されないと考えられる。こうした状況はA株の安定に資するであろう。A株市場では、バリュエーションが相対的に合理的な水準にある大型株への資金流入が続き、大型株は中小型株をアウトパフォームすると予想される。
(恒生銀行「中国経済月報」6/7月号、「滬港通/深港通専」7月20日付より。このシリーズは2カ月に1回掲載します)