中国での半導体メモリメーカーの動き
SMBC経済トピックスでは、アジア地域において注目されている産業や経済の動向を紹介します。今回のトピックスは「中国での半導体メモリメーカーの動き」です。半導体メモリは通信・コンピュータ関連機器に搭載される主要な半導体製品です。特にデータを長期保存するNAND型フラッシュメモリは、データ大容量化を背景に市場成長を続ける見込みで、メーカー各社は市場シェア拡大に向けた技術開発競争を続けています。こうした中で、中国半導体メモリメーカーが、中国政府の支援を得てNAND等の生産能力を拡大する見込みです。中国メーカーが実際の産出量を引き上げるには特許の確保や生産プロセスの調整等が必要で、これには時間を要する見込みですが、日系を中心とする半導体製造装置・部材メーカーにとっては投入量の拡大に伴う売上拡大が見込まれるだけに、中国メーカーの戦略・技術動向が注目されます。
(三井住友銀行 企業調査部<香港駐在> 神谷 直良)
半導体メモリ業界の概要
半導体メモリ(以下、メモリ)は、データを記憶・保持する機能を有し、プロセッサ(演算処理)半導体と並ぶ主要な半導体製品です。主にスマートフォン、PC、サーバー等の通信・コンピュータ関連機器に搭載されます。メモリの種類としては、主にDRAM とNAND型フラッシュメモリ(以下、NAND)があり、DRAMは一時的にデータを記憶する機能(電源を切るとデータが消失)、NANDは長期間データを保持する機能(電源を切ってもデータが残る)を有します。
市場動向をみれば、DRAMは、2016年の市場規模は約410億米ドルで、主な搭載機器であるスマートフォンの台数成長ペースの鈍化等に伴い市場は成熟化する見込みです。一方でNANDは、16年市場規模約350億米ドルで、情報端末等での保存データが大容量化する傾向にある上、スマートフォン向けに加えてデータセンター用サーバー向けの需要も拡大しているため、市場成長が続くとみられます。
競争環境をみれば、DRAM・NANDともに、回路微細化等、トランジスタ回路の集積度を向上させる技術がメモリメーカーのコスト競争力ひいては市場シェアにとって重要になります。NANDでは、微細化の技術的な限界が近づく中で、メーカー各社はトランジスタを数十層に積み上げて回路集積度を引き上げる新たな技術(いわゆる3D NAND)で開発競争を続けています。微細化・3D化に向けては年間数千億円の設備投資が必要となり、技術力・資本力に優れた大手メーカーがシェアを拡大してきました。
DRAMではメーカー3社(韓国・米国)が容量シェア9割超を占める寡占市場となっています。一方でNANDでは、韓国・日本のメーカー2社がシェア7割を占めるほか、米国メーカー2社連合や韓国メーカーもそれぞれ1割程度のシェアを有し、DRAMと比べてプレイヤー数が多い状況です。
中国政府の半導体業界に対する支援
こうした中で、中国メーカーが政府支援を得てメモリ業界に参入してくる見込みです。中国政府は、スマートフォン向け等の半導体の調達で年間約2000億米ドルの貿易赤字を喫していることを問題視して、2014年には「国家集積回路産業発展推進綱要」を発表、中国での半導体業界を立ち上げるべく積極的な支援を行う方針です。これを基に中国の中央政府と地方政府は、合計10兆円を超えるといわれる金額の半導体メーカー向けファンドを立ち上げています。ファンドの使途としては、メモリやプロセッサ半導体メーカーの生産ライン構築や半導体設計会社の研究開発に対する資金支援等があります。
また、韓国・米国のメモリメーカーや台湾のプロセッサ半導体生産受託企業は、中国スマートフォンメーカーへの販路確保等を目的として中国内に生産拠点を立ち上げており、量産を開始している先もあります。
中国半導体メモリメーカーの動き
中国地場メモリメーカーの中には今年に入って、今後累計5兆円相当の設備投資を行って中国本土内(武漢、南京等)にメモリ工場を新設、約2年後に量産を開始するとの計画を発表する先も出て来ています。また、量産技術を引き上げるべく、中国内の外資メーカー工場から技術者を引き抜いています。高い市場成長率を見込んで3D NANDを中心に量産する他、DRAM量産も行う計画であるとみられます。
このため、ウエーハ投入枚数でみた生産能力では、NAND・DRAMともに2020年頃には中国地場メモリメーカーは合計で業界全体の1割程度のシェアを確保する可能性も指摘されています。
もっとも、今後5年間を展望すれば、中国地場メモリメーカーの量産歩留まりの水準は低く、産出量は限定的になるとの見方が大勢です。背景としては、①メモリ量産に必要な特許を確保すること、②量産歩留りの確保に向けて数百もの工程ステップからなる生産プロセスを装置・部材サプライヤー等との協働により微調整すること、③NANDでは周辺部品メーカー(コントローラ等)と共に仕様を調整すること、等が必要となり、これらを実現するには時間を要するとみられることがあります。また、中国メーカーが2年後に量産する3D NANDの技術は、日本や韓国等の先端メーカーが計画している製品と比べて2〜3世代の差があり、コスト競争力等での格差が残るとみられます。
半導体製造装置・部材メーカーへの影響
こうした状況下で、日系メーカーが高い市場地位を確保している半導体製造装置・部材業界においては、中国地場メモリメーカーによる生産ライン新増設や部材調達の拡大を受けて売上が拡大するとみられます。装置・部材メーカーにとっては、中国での生産・サービス拠点の設立・増設といった拠点戦略にも影響してくるだけに、中国メーカーの今後の戦略・生産技術に関する動向が注目されます。
(このシリーズは2カ月に1回掲載します)
〈筆者紹介〉
神谷 直良(かみや なおよし)
三井住友銀行 企業調査部 香港駐在:
2006年より企業調査部(東京)で電機・通信業界等を担当。2014年より香港に赴任し、現在は主に台湾・韓国・中国(華南地域および香港)の電機業界の調査や情報発信を手掛ける。
本資料は情報提供を目的としたものであり、何らかの取引を誘引するものではありません。本資料の情報を、法律、規制、財務、投資、税務、会計の面でのアドバイスとみなすことはできません。また、情報の正確性・完全性を弊行で保証する性格のものではないほか、内容は経済情勢等の変化により変更されることがあります。なお、本資料の一部または全部を無断で複製・転送等することは禁じております。