ペニンシュラの 日本人シェフ

 経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。
(インタビュー・楢橋里彩)

ザ・ペニンシュラ香港「Felix」
エグゼクティブ・シェフ 加地吉治さん
【プロフィール】
1975年、愛媛県出身。辻調理師学校卒業後様々なレストラン、ホテルで修業を積み、2007年よりペニンシュラグループに入社、2010年よりザ・ペニンシュラ香港のモダンヨーロピアンレストラン「Felix(フェリックス)」のエグゼクティブ・シェフに就任。趣味は、ハイキング、映画鑑賞、食べ歩き、芸術鑑賞。好きな言葉は嘉納治五郎の「自他共栄」

ペニンシュラの日本人シェフ

——いつオープンされたのですか。
1994年にオープンしたモダンヨーロピアンをコンセプトにしたレストランです。ヨーロッパの料理の技術、先人の偉大な料理人達が考案した料理などをベースに、自分なりにアレンジしたり、自分好みの味、風味に変化させてメニューを作っています、私が日本人ということもあり、日本からの旬の食材やアジアの調味料なども使った料理も提供しています。店内のデザインは世界的に活躍するフィリップ・スタルク氏が手掛けており、シルバーを基調にした落ち着いた空間で、客席は80席、個室が1室ございます。

——大きな窓にかかっているブラインドがとても印象的ですね。
これもデザインの一部なんですよ。夜景を撮影したいのでブラインドを上げられないかと聞かれるのですが、通常は下げたままです。ですが、旧正月、国慶節、年末の花火が打ち上げられるなどの大きなイベントのときは全開にしていますので、ぜひその際にお越しいただき、お楽しみいただければと思います。

——モダンヨーロピアンレストランなのに加地さんのような日本人の方が作られているのを知った時には驚きました。
よく言われます。知らない方も多いですね。このレストランで食事ができること自体、知られていないんですよ。ガイドブックなどには弊店のバーの紹介がされることが多いようです。ぜひ日本食材を使った和のテイストを感じる「モダンヨーロピアン料理」をお楽しみいただけると嬉しいですね。

——どのような料理を頂けるのでしょうか。
基本的にはフランス料理スタイルですが、自身が日本人ということもあって、日本の食材や調味料など和のテイストを加えながら新しい形のヨーロッパ料理を提供しています。メニューにはプレゼンテーションに面白みを持たせる料理と、味だけをシンプルに表現するものと大きく2つあります。それがバランスよくテーブルにのらないといけないのが大変ですね。こうしたスタイルは徐々に変化して作り上げていきました。最初はサプライヤーの方など繋がりが無かったので、今のような形には及ばずシンプルなメニューを作っていました。今は知り合いや情報が増えただけでなく、日本からの食材を安く手に入れることができるようになった分、積極的にメニュー開発をするようになりました。

——時代の流れとともに料理のトレンドはあるのですか?
ありますね。つくづく思うのは、時代とアーティストともに変わるファッションと、料理は同じものだということです。料理の基本は、肉を焼く前に塩コショウをふるものです。こうすることで味がよりなじみ、さらに水分が少し出しておくことで焼き色が付きやすいためです。私はまだこの方法をとっています。ですが時代が変わたり、料理人が変わりますと、考え方も変わっていくんですよ。たとえば塩、胡椒は最後にしないと水分が出てしまい肉が固くなり、味がなくなると考える料理人もいます。先に焼き固めて肉汁をとじこめてから塩コショウをかける、というような感じです。料理人もデザイナーと同じ様にお客の嗜好の流行を理解する目、プロセスの自分自身の持論を持ち合わせていないといけないと思っております。ちなみに、お皿一つにもしてもそうです。今のトレンドでいうと、和食器を使うのがはやっているんですよ。

——和食器がですか。
日本の陶器は海外のシェフのあいだでも大人気です。私が料理人になった頃はガラスの器を使う傾向が多かったですが、今は、日本の器を使うシェフが多くみられます。陶芸家も海外のシェフが使いやすい形、色などを研究しているそうです。またこの流行も彼らアーティストの努力が作り出したものなのでしょう。弊店の場合はテーブルがマーブルカラーなので、その色を邪魔しないようなシンプルな色にしています。例えば白、茶、淡い青などを意識して使っています。レストランのコンセプトと空間、皿、そして盛りつけたメニューの3層がいかにバランスよく彩られるかが大事なポイントなんです。

(この連載は月1回掲載します)

【楢橋里彩】

フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。
ブログ http://nararisa.blog.jp/

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