米国の尻ぬぐいは中国に任せた

米国では最近まで少なくとも年内に2回の米利上げがあると予想されていた。6月中旬、米FRBの思惑通りに株高を背景に利上げを実施することが出来た。しかしながらNYの株価が史上最高値を更新するほど、米景気の腰は強く見えないのだが、いったい何が起こっているのだろうか?
(ICGインベストメント・マネジメント代表・沢井智裕)

米国の尻ぬぐいは中国に任せた

米連邦公開市場委員会(FOMC)は短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を年0・75〜1・00%から1・00〜1・25%に0・25%引き上げた。年内に更にもう1回を見込み、次回の利上げは9月との見方が強い。そしてFRBは2018年も3回、19年も3回程度の追加利上げを見込んでいる。19年中には米短期金利が2・75%に到達する。

しかし米FRBの本当の悩みは極端に肥大化した資産である。これは米国に限らず日本銀行(BOJ)や欧州中央銀行(ECB)にも見られる現象だ。FRBの資産の肥大化はなぜ起こったのだろうか? これはリーマンショック以降、停滞する景気を刺激するために金利を下げてサポートしようとしたが、それでも不十分であったため、中央銀行が自ら株式や債券を購入したことによるものだ。中央銀行が株式や債券を購入するという行為は、中央銀行が買い手(つまり投資家)になることから、売り手に対して売買代金を支払わなくてはならない。従って売り手は、売買代金を手にすることから、手にした代金を市中の経済活動で使うことが出来る。つまり景気が良くなるという解釈である。
米FRBは一体、いくらの株式や債券、そして不動産(実際には不動産証券が大部分)を購入したのだろうか? 積り積もって4兆ドル(米ドル、以下同じ)超に膨張してしまった。中央銀行の資産の膨張は決して褒められたことではない。なぜならば中央銀行の仕事は資産運用ではなく、物価の安定や雇用の促進であることから、いずれは買い入れた資産を手放さなくてはならない。株式や債券といった金融商品には投資リスクが伴う。大量に保有している株式や債券を巨大な公的機関が売却に動いたら、金融市場に与える悪影響は図りしれない。

それでも保有する株式や債券への投資で大損をしたらどうなるのだろうか? 最終的には国民から集めた税金(公的資金)で穴埋めするしかなくなる。中央銀行の資産の肥大化は、それだけ危険なのである。従って公的機関が自己勘定でリスク商品を資産として保有するのは、リーマンショックのような未曾有の有事が発生している場合のみである。しかし10年後の現在でもまだ「異常事態」にあるのが日米欧の中央銀行の姿なのである。金利がゼロというのも本来の健全な金融政策とは言えない。だから中央銀行は3〜4%程度の金利水準に早く戻したいのである。それが米FRBが利上げを急ぐ理由である。

救世主が現る

今年に入って米FRBは「いかに資産を縮小するか」を議論し始めた。資産の縮小が実現できれば中央銀行の健全性が維持できるので、その中央銀行が発行している通貨の価値は上昇する。この場合はドル高が予想される。長期的視点で見てドル高優位と見られているのは米国の景気云々よりも中央銀行の健全性が日本銀行や欧州銀行より高いと見られているからだろう。

実際、FRBは資産圧縮の基本計画も公表。保有債券は市場で売却するのではなく、満期を迎えた債券への再投資を減らすことで資産を縮小。そして資産圧縮規模は米国債が月額60億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)などは月額40億ドルを上限とし、3カ月ごとに上限を引き上げて1年後には米国債が月300億ドル、MBSなどは月200億ドルとしている。

ただ米FRBはそれでも不安を抱える。米失業率は4・3%と完全雇用状態とみられる4・6%を下回る。一方で物価上昇率は目標の2%に届かないままだ。現状1・7%程度の物価上昇率に対し、18年でさえ2%に届くかどうか分からない。つまり景気の腰は依然として弱いものと予想されている。それでも米FRBが継続して利上げを出来る理由はNYの株高だ。利上げを行った6月14日もNY株は一旦は売られたものの史上最高値、21374ドルを付けている。

トランプ氏と習氏の密約

背後には4月に行われたトランプ大統領と習近平・国家主席の密談があったのではないだろうか? 中国は第2四半期に入って金融緩和を徹底している。今年に入って香港の不動産が再び騰勢を強めていることからも明らかである。またユダヤ人コミュニティの情報では、昨年来の海外におけるM&Aをはじめとした資本移動に関しても、かなり緩和されていると聞く。

中国も株高や人民元相場の安定を背景に実質的な金融緩和に動いている訳だ。トランプ大統領は習主席との会談の後、対中強硬政策が緩和され、共和党右派から叱責されていた事実を踏まえても何らかの密約があったのは間違いない。会談前のトランプ大統領の「対中輸入品には45%の関税を掛ける」「中国を為替操作国に認定する」といった暴言は消え失せた。恐らくこの密約には「関税と為替操作国の認定」を免れる一方で、「中国の金融緩和」を要請したのではないだろうか?

世界最大級の投資銀行であるブラックロック社のロイド・ブランクファイン氏(CEO)は、中国を引き合いに出してこのようなコメントを出している。「中国に到着すると、空港や道路、携帯電話サービスなどの状態にいつも感心する」。米国にもインフラ整備が必要との認識である。ここでもわざわざ中国を引き合いに出している。金融緩和政策は米中政策の一致である。トランプ氏は「ロシアゲート問題」が浮上して窮地に追い込まれることは既に目に見えていた。失脚の可能性があるのだから、NY株史上最高値や好景気を証明するための利上げは何としても実現したかったはずである。トランプ大統領は色々な意味で歴代の米大統領とは一味も二味も違う。

 

トム:世の中には様々な疑惑があるもんだなあ。ロシアと中国、アメリカと中国。表向きは仲が悪そうだけど、裏では繋がっているんだよな。

ジェリー:日本の政治もそうでしょ? アメリカ追従型の政治でここまで来て結局、安倍さんもトランプさんを信用出来なくなって、日本独自の外交を展開せざるを得ない状況に追い込まれているんでしょ?

トム:安倍ちゃんには最初から期待してないよ。他に誰もいないから仕方なく選んでいるんだからね。他に支持政党がないから、仕方がなく自民党、他にましな内閣がないから安倍内閣。これが今の日本人の本音だろ。

ジェリー:日本も隣国の中国や韓国とうまくやって行かないと。本当に北朝鮮からミサイルが日本本土に着弾するわよ。金正恩・主席は側近に洗脳されて「長距離弾道弾ミサイルが完成すればアメリカにも楽勝ですよ」って言われているんでしょ? 海外事情は側近が情報統制してんだから。

トム:なんだそれって単純だな。新興宗教よりも怖いよな。

ジェリー:そう、単純なのが怖いのよ。あなたも「喜び組」とかに簡単に引っ掛かったりしないでよ。

トム:何それ? そういうのをハニートラップって言うんだよ。セラミック松村じゃないんだから。

ジェリー:誰それ? 京都セラミックの京セラだったら知ってるけど。どこの株式市場に上場している銘柄なの?

トム:お前は知らなくてもいいんだよ。京セラじゃなくて、松セラ。上場なんてしてないよ。ただ歯が白いだけだからさ。夜中に笑顔だけは止めてくれ〜って。こちらもロシアゲートに負けずに捜査中なんだよな。

【ロシアゲート事件】
トランプ大統領がロシアと繋がりがあるという疑惑のことで、昨年11月の米大統領選挙の時にロシア政府がトランプ陣営に有利な働きかけを行ったとされる問題である。当初はでっち上げととらえられていたが、連邦捜査局(FBI)元長官のジェームズ・コミー氏が議会証言で、ロシアとの関係をめぐって辞任したマイケル・フリン前大統領補佐官についてトランプ大統領から「捜査中止を示唆する」表現が使われたことに端を発している。この証言から今度はコミーFBI長官の解任騒動が始まった。この解任騒動でロシアとの疑惑問題が一気に火がついた。ロシアゲートとは1974年に当時のニクソン大統領が辞任に追い込まれた「ウォーターゲート事件」になぞらえたものである。今後、大統領弾劾もあり得るとされており、調査が進行中である。

筆者紹介

沢井智裕(さわい・ちひろ)
ICGインベストメントマネジメント(アジア)代表取締役
ユダヤ人パートナーと資産運用会社、ICGインベストメントマネジメントを共同経営。ユダヤ系を含め約2億米ドルの資産を運用する。
2012年に中国本土でイスラエルのハイテク企業と共同出資で
マルチメディア会社を設立。ユダヤ人コミュニティと緊密な
関係を構築。著書に「世界金融危機でも本当のお金持ちが損を
しなかった理由」等多数。 (URL: http://www.icg-advisor.net/)

※このシリーズは月1回掲載します

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