初めて迎えた子犬
仮面女子犬の梅ちゃん
我が家からすべての一時預かりの子犬たちが巣立っていった。ワーワー騒ぐ子犬たちに成犬たちもすっかりコントロールされていたが、久しぶりに平穏な日々が戻った。
住みこみで犬たちのシッターをしてくれている女性は、子犬のうち一匹と強い縁を感じていたため、私は何度もその子犬をそのままここで育てたいと申し出たが、却下されてしまった。今までも、亡くなった犬たちも猫も含めて彼女がいてくれたからこその今。外国籍の家政婦だからという理由で、犬を飼う資格がないと決めつけられた彼女。故郷に帰るときは連れて帰ると言う彼女が、必ず実行することを私は知っている。ならば子犬をもらい受けるか、と思い、ネットで子犬を探していた。
本来子犬をもらい受けることがなかった私だが、犬たちにも新しい世代を迎えてよいかと思った。もらうなら犬の健康状態にかかわらず保護している団体「毛孩守護者Paw Guardian」からと決めた。そこで、我が家の状況を伝えた上で子犬をシッターさんと見に行った。彼女に決めてもらおうと思っていたが、あまりピンとくる子がいなかったらしい。しかし、ここまで来たのだ、あまり大きすぎない雌犬を数匹抱っこし、おとなしく抱っこされる3カ月半の子犬を引き取ることに。
円(yen=日本円)と名付けられていたこの子は4姉妹。母犬は野犬で妊娠末期に車にひかれ、心ある人から通報を受けた毛孩守護者が救助に駆けつけ、母親は帝王切開で子犬を分娩後、生まれた子犬を見せてもらってから亡くなった。お母さんの代わりに大切に育てようと思った。
さて、新しい名前についてはヘルパーさんが発音しやすい名前を考え、長女犬の辛い性格からチリと名付けたように、今度はシニカルな犬に育つようにと酸っぱい梅を考えた。うちでは梅ちゃんと呼んでいる。毛孩守護者のボランティアさんにも名前を変えたことを報告すると「寒梅という強い梅があるね」と言ってくれた。
この子犬は家に来てから数日本当におとなしく、おしとやかだった。ああ、やっと普通の犬が家に来たね! と歓喜していたが、それはまったくの仮面だった。仮面女子犬の梅は徐々に本性を現し、4日目からは末犬やおバカな兄犬にガンガンほえるようになり、しっぽをかんだり、走り回って騒ぎだした。ついに私の口から出た言葉は 「Bad Dog!!」、そしてそれを毎日梅に言うことになる。
おとなしい、普通の犬か――。幻の3日間だったと思う。彼女が、先日亡くなった17歳の長女犬チリに代わり女帝の座に就くことは間違いないだろう。