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(三菱東京UFJ銀行 香港支店 業務開発室 アドバイザリーチーム)
今月の質問
最近、中国では、税関信用喪失企業に対して複数政府部門が共同懲戒措置を導入したと聞きました。その具体的な内容について教えてください。
#104 税関信用喪失企業に対する共同懲戒について
3月29日付けで、税関総署・国税総局・外貨管理総局を含む33の政府部門は「税関信用喪失企業に対する共同懲戒の実施に関する覚書」(発改財金[2017]427号、以下、「本覚書」)を公布した。これは、税関規則に違反する企業に対し、複数の政府部門から処罰が課されることにより、企業が慎重に法令を遵守しながら日常業務に従事し、税関管理上の反則行為を最大限抑制する狙いで公布されたものである。本稿では、「本覚書」の内容について、簡単に紹介したい。
⑴ 背景
中国政府は、近年、社会信用体制の構築を急務としてきた。その一環として、税関総署は、2014年12月に「税関企業信用管理暫定弁法」(税関総署第225号令)を制定し、従来、AA類からD類に格付けしていた全ての輸出入企業の分類を「高級認証企業」、「一般認証企業」、「一般信用企業」および「信用喪失企業」(注1)に変更した。
現状、税関管理上の格付けが最高ランクである「高級認証企業」に対しては、輸出入書類審査の簡素化、輸出入通関の優先対応、輸入通関完了前の域内貨物搬入許可のほか、AEO相互認証国(地区)(注2)との通関利便性措置の適用等、さまざまな優遇措置を与えている。2016年10月には、税関総署とその関連部門は「税関高級認証企業に対する共同奨励の実施に関する覚書」(発改財金[2016]2190号)を公布し、企業の法令遵守行為を奨励するため、優れた税関信用記録をもつ輸出入企業に対する複数の政府部門からのインセンティブ措置を打ち出した。
一方、税関管理上、最も低いランクに格付けされた「信用喪失企業」に対しては、これまでも輸出入書類の審査強化や輸出入貨物の現場検査の厳格化等による取締りを強化してきたが、「本覚書」の公布により、企業の信用を失墜させる行為に対して、複数の政府部門による多様な懲戒手段が講じられることとなった。
⑵「本覚書」の概要
「本覚書」では、輸出入貨物の現場検査強化や加工貿易企業に対する重点管理等、既に実施されている税関の懲戒措置に、複数の政府部門による措置を加えた計39項目の懲戒措置を打ち出している。なお、各政府部門は、全国信用情報共有プラットフォーム(注3)から、税関が適時公示する信用喪失企業の情報を参照し、各職務権限に基づいた共同懲戒措置を実施する。以下、「信用喪失企業」の経営に悪影響を及ぼすとみられる懲戒措置について、主に4方面から紹介する。
①各政府部門による企業ランクの格下げ
⒜ 外貨信用管理上のA類企業から降格。密輸活動に関与している場合、最低ランクのC類に降格
⒝ 検査検疫信用管理上のA類企業から降格。密輸活動に関与している場合、最低ランクのD類に降格
②各政府部門、およびその他検査強化
⒜ 検査検疫局:輸出入貨物に対する検査率の引き上げ
⒝ 税務局:輸出還付に対する審査強化
⒞その他:融資与信、株式発行、社債発行時の重要参考要素とする
③市場参入制限
⒜輸出入割当額の配賦を制限
⒝政府補助金および社会補助金への申請を制限
⒞政府調達及び工事入札への参加を制限
⒟医薬品、食品安全業界への進出を制限
⒠危険化学品の製造、管理、保管およびそれらに関連する認証取得を制限
④企業管理職に対する強制措置
⒜関税または罰課金を滞納している企業の法人代表者が、規定通りに税金を完納する、または担保を提供する前の出国を阻止
⒝裁判所の令状があっても、関税または罰課金責任を履行しない場合、法人代表者の多額保険購入、飛行機による移動、その他公共交通手段で一等席を指定して移動する等、生活や勤務上、不要な消費行為を制限
⒞密輸罪を犯した企業の法人代表者、取締役、監査役、上級管理職の別の企業での上級管理職就任を制限
なお、税関が、1年間違法行為がない「信用喪失企業」を「一般信用企業」に格上げした段階で、各政府部門も同様に、共同懲戒措置の適用を解除または終了する。
⑶まとめ
税関の発表によると、2017年2月末時点で、税関登録企業約97万9200社のうち、高級認証企業約3400社に対し、信用喪失企業は約3600社。輸出入事業に携わる企業が日常業務をスムーズに行うためには、税関の信用格付け条件を十分に遵守し、共同懲戒措置の対象とならないよう細心の注意を払う事が肝要である。
※注1…信用喪失企業など税関信用分類の認定基準はhttp://www.bk.mufg.jp/report/chi200403/314121702.pdfを参照
※注2…AEO相互認証は、税関間の相互認証協定に基づき認証事業者(AEO)に対し優遇供与する制度で、中国は、既にEU加盟国にシンガポール、韓国、香港、スイスを加えた32国(地区)とAEO相互認証済み
※注3…各政府部門が企業信用情報を共有する目的で構築されたプラットフォーム
(執筆担当:多田 依真)
(このシリーズは月1回掲載します)
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