音楽教室経営
ひと口に「仕事人」と言ってもその肩書や業務内容はさまざま。そして香港にはこの土地や文化ならではの仕事がたくさんある。そんな専門分野で活躍する人たちはどのように仕事をしているのだろう? 各業界で活躍するプロフェッショナルたちに話を聞く。 (取材・武田信晃/月1回掲載)
音楽に触れる機会を提供したい
広東ポップが圧倒的な強さを誇る香港だが、そんな中でもクラシック、ジャズ、ロック、ブルースなども確かな地位を築いている。香港においてもホテルやライブハウスに行けば多様な音楽の生演奏を聴くことが可能だ。
今回紹介する甲谷久一さんは、ミュージシャンとして音楽活動をしながら中環で「Mark-1 Music Centre」という音楽教室を経営している。甲谷さんの音楽のバックグラウンドをひも解くと「6歳からクラシックピアノを学びました。中学校に入ると吹奏楽でトロンボーンとコントラバスを担当し、ほぼ同じころにギターも覚えました。高校時代にバンドを組んだのですが、ベースをする人がいなかったので私が引き受けたんです。ドラムもやりました」。結果、多種の楽器を担当できる万能型ミュージシャンとなった。大学時代はプロのスタジオ・ミュージシャンとして活動していた。
来港のきっかけは香港在住15年以上の人なら懐かしい「新星堂」の駐在員だ。「1998年に来港して店の運営をしながら、余暇を使って音楽活動をしていたのですが、知り合いから『音楽スタジオを買わないか?』という話があって、退職して購入することにしました」。それが今のMark-1で、音楽も教えていたが、レコーディング、ミキシングなどまさに音楽スタジオとしての色が濃かった。また、楽器のレンタル、レーベルの運営、CDの輸出入なども行っていた。
2012年からは音楽教室に特化。スタジオ収入の減少分は生徒を増やして穴埋めしなければならないが、「大きな転機となったのは、フレンチ・インターナショナル・スクールで非常勤講師として音楽を教えたことです。私の授業を評価してくれた親が子供にさらに教えたいということで、どんどん口コミで増やすことができました」。
今では約35人の生徒を抱える。60%が欧米人、25%が日本人で、残り15%が香港人を含めたその他だ。年齢構成でおもしろいのは、中年のサラリーマンなど年齢層が比較的高い人が少なくないことだ。「昔、音楽をやっていた人、バンドをやりたかったけどできずに、その思いを今になって実現している人などですね。子供の比率は全体の約3割ですが、子供たちの様子をみて自分も演奏してみたいと言う親もいます」
フリーレッスン制で、ギター、ベース、ドラムを中心に金管楽器を受講することが可能で、1時間400ドル(出張の場合は100ドル増)。忙しい人のために35分、40分で受講することも可能。機材はスクールに全てあるので持参する必要はない。
音楽教室以外に自身の音楽活動もあってスケジュールは多忙だ。100回を超えた「Listen Up」というイベントは2カ月に1回、甲谷さんがお勧めするミュージシャンをフリンジクラブで紹介しており、そのプロデュースも行っている。
香港で音楽を学ぶ魅力について、「どこかのクラブハウスなど人前で演奏するという意味では、香港は日本と比べても敷居が低いです。音楽は楽しむものですから、授業を通じて音楽に触れる機会を提供したいと思っています」と笑った。
【Mark-1 Music Centre】
所在地:101, 1/F., Wing Fu Building, 18-24 Wing Kut Street, Central, Hong Kong
電話: 9356 9481
webサイト: www.mark-1music.com.hk