香港経済—今月のポイント
①香港の2017年1〜3月期の域内総生産(GDP)前年同期比伸び率は4・3%と、11年4〜6月期以来の高い伸びを記録した。主に個人消費と不動産投資の伸び加速が寄与した。
②外部環境の改善が続けば、貿易にプラスとなろう。また、雇用情勢の安定や金融市場の良好な環境も個人消費の伸びを支える要因になると予想される。
③17年通年の香港のGDP伸び率は2・8%に上方修正する。今後数四半期の経済成長率は基数が高かったため鈍化するだろうが、実体経済の状況は前年を上回る見込みである。
④物価については、今年初めの食品価格の下落が全体の消費者物価指数(CPI)の鈍化につながっている。このため、17年通年のCPI上昇率予想は従前の2・4%から1・8%に引き下げる。
1〜3月期の経済成長率加速
1〜3月期の経済成長率は4・3%
個人消費と不動産投資の伸び加速を受け、1〜3月期の香港のGDP前年同期比伸び率は4・3%と、2011年4〜6月期以来の高い伸びとなり、市場予想の3・7%、前四半期の3・2%を上回った。
個人消費の伸び率は16年10〜12月期の3・6%から17年1〜3月期には3・7%に加速。6四半期ぶりの高い伸び率となった。住宅・建設投資の伸び率は7・5%から9・6%に加速。15年4〜6月期以来の高い伸び率を記録した。
貿易は財の輸出が9・2%増、輸入が9・9%増。輸入伸び率がここ4年で最大の伸び率を記録したことで純輸出はGDPを1・1ポイント押し下げた。
もっとも、貿易の増加はサービス需要や雇用を押し上げ、間接的に経済成長に寄与した側面はある。実際、失業率は16年12月の3・3%から17年3月には3・2%に低下し、15年5月以来の低い水準にとどまった。
今後は外部環境の改善が続けば貿易にプラスになる。足元の経済指標はユーロ圏と米国の17年の経済成長加速を示唆している。また、中国本土の経済成長率も安定を維持するであろう。
雇用情勢の安定や金融市場の良好な環境は個人消費の伸びを支え、個人消費は引き続き香港経済の成長をけん引するとみられる。
1〜3月期のGDP発表前に弊行はすでに香港の17年のGDP伸び率予想について、16年の2%から2・4%に加速すると予想していた。ただし、1〜3月期の消費、投資、貿易がいずれも拡大したことを踏まえ、17年のGDP伸び率予想を2・8%にさらに上方修正する。これは、政府予想の2〜3%の上限に近い水準である。今後数四半期の経済成長率は前年同期の基数が高くなることで鈍化が予想されるが、17年通年の実体経済の状況は昨年を上回る見込みである。
物価については、1〜3月期のCPI平均上昇率は0・6%。異常気象や中国本土の食品価格の下落で食品価格の上昇ペースが鈍化したためである。これを踏まえ、17年通年のCPI上昇率予想は従前の2・4%から1・8%に引き下げる。
香港株式市場の展望
概要
①中国本土式の流入継続で5月上旬の香港株は高値圏での推移となった。
②香港株は過去4カ月すでに大幅に上昇。トランプ政権や中国本土資金流入動向の今後の変化に注意する必要がある。
③香港金融管理局(HKMA)が新たに打ち出した不動産価格抑制策によるデベロッパーへの影響は限定的とみられる。
④セクター別では、中国本土のインフラ、保険を有望視。一方、短期的に本土の銀行と不動産セクターは注意が必要であろう。
中国本土の資金流入継続で5月上旬の香港株は高値圏で推移
5月初旬の連休明け後、香港株式市場は売買代金が徐々に増加。ハンセン指数は2万5000ポイントの節目を突破し、安定的に推移した。この期間、中国本土と香港の相互取引の枠組みの下での本土資金の流入額は8営業日続けて20億人民元を上回る水準を維持。4月下旬に比べて改善が鮮明化した。本土資金は科技、中国本土の保険、銀行セクターに向かい、関連のセクターを株価を押し上げた。また、米国株の上昇も投資家心理の支えとなった。
ハンセン指数は年初から4カ月続けて上昇。上昇幅は累計で3300ポイントに達し、足元のRSIはすでに買われ過ぎのシグナルを示している。こうした騰勢が続くのは難しく、今後の上昇余地は限定的になっている。テクニカルな調整に加え、米国のトランプ大統領の政治リスク高まりに伴う米国株の調整というリスクとも高まっている。今後はトランプ政権のリスクや本土資金の変化に注意すべきである。
本土資金の売買代金に占める比率は3月以降、10%以上の水準を維持している(3月と4月は10・0%、5月上旬は10・2%)。本土資金の流入が依然後退していないことを示している。こうしたことを踏まえ、ハンセン指数は2万4700〜2万5500ポイントでもみ合い、H株指数は1万100ポイン〜1万750ポイントのレンジで推移すると予想される。
HKMAの新たな不動産価格抑制策のデベロッパーへの影響は限定的
HKMAは5月、銀行の不動産ディベロッパーに対する融資比率の上限を地価コストの50%から40%に、建築コストの100%から80%に引き下げると発表。全体の貸付額の上限は、物件完成後の予想価値の60%から50%に引き下げると発表した(実施は6月1日から)。今回の調整幅は必ずしも大きくないうえ、大手デベロッパーの負債比率は低い状況にある。加えて、デベロッパーは債券発行など他の資金調達ルートを利用したり、他のデベロッパーと提携したりするなどで借入需要を抑えると考えられる。このため、今回の措置のデベロッパーへの影響は限定的とみられる。
セクター別では、中国本土のインフラ、保険を有望視。一方、短期的に本土の銀行と不動産セクターは注意が必要であろう。
中長期的な有望視セクター
⑴中国本土のインフラセクター;先に開催された「一帯一路」国際会議では、7800億人民元以上の金融支援が発表された。うち1000億元はシルクロード基金に新たに注入され、インフラセクターは引き続き恩恵を受けると予想される。
⑵保険セクター:中国本土の保険会社の1〜4月の保険料収入は赤い伸びを維持。加えて、金利上昇の環境は保険会社の運用収益率引き上げ、準備金支出引き下げに+で、業界全体の見通しはポジティブである。
一方、金融バブルを防止するため、当局は監督を強化している。このため、銀行セクターは短期的に下振れリスクに注意する必要がある。また、不動産価格抑制策の効果は比較的遅れて今年後期に現れてくる可能性があり、下期の不動産契約販売の伸びは鈍化する可能性がある。不動産セクターの調整は留意すべきであろう。
(恒生銀行「香港経済月報」5月号、「香港股市展望」5月18日付より。このシリーズは2カ月に1回掲載します)