経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。（インタビュー・楢橋里彩）
ワイン教育機関に日本酒課程
香港ワインアカデミー
創立者、ワイン＆酒エデュケーター ミッキー・チャンさん
【プロフィール】
香港出身。ワイン教育機関WSET、英国ワイン＆リキュール学会のマスターソムリエの認定を獲得。SSI（日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会）の認可を受け、香港にて国際日本酒きき酒師のカリキュラムを開講。2008年より中国、マカオ、台湾、香港などのレストラン、ホテルなどで講義や、国際的な大規模きき酒コンテストの審査員を務める。
――御校の具体的な事業内容を教えてください。
主にワインの知識を学び高める場として２００９年に私を含めた３人で創設しました。世界最大のワイン教育機関ＷＳＥＴ（Wine&Sprit Education Trust）の認定プロバイダーとして珍しいワインを取り扱うなど、常に最先端の知識と情報を学べる環境を提供しています。
――ワイン界で最高峰と言われる資格を取得しようと多くの受講生が来ているようですが、どのくらい学生がいるのですか？
主に初級、中級、上級の３つに分かれ、初級は多くの人に気軽に学んでもらいたいので30人前後ですが、レベルが上がるにつれて少人数制で、徹底した教育をするため上級クラスでは15人ほどで行います。レベルにもよりますが一コマ４～６時間です。受講生は社会人が圧倒的なので平日の夜間クラスは多いですね。７割はワインコレクター、好奇心から学びたいと思ってこられる人、残りの３割はレストランなどのサービス業や物流業界の方がより知識を向上するために学んでいます。
――ここまでワインの人気が高まっている理由はなぜでしょうか。
最大要因はワインやアルコール度数30％以下の酒類の関税引き下げですね。それまでも一般的にワインは好まれていましたが、免税になったことは特に大きいですね。
――経済状況のアップダウンというのはアルコール市場にどのような影響をもたらすと思いますか。
当然ですが景気が良いと人々はアルコールの消費が高まります。低迷しているときはその逆になりますよね。ただしワインの教育分野に関しては違うんですよ。例えば、もし景気が良かったら、向上心が高まり、新しいことを学びたいという気持ちになります。認定資格を取得していくことでよりプロフェッショナルになろうとするのです。一方で景気が悪いときはどうなのか？ 実はこの時も同じ心理が働くことが多いのです。つまり不景気だからこそ、何か学んでステップアップしたい、より有利な業界での職を求めて知識を増やしたいという向上心ですね。とはいえワインに関連する物流、小売業などはやや厳しい状況はあります。昨今の経済の不安定で販路拡大が厳しくなっているからです。さらに飲食・小売業界の回復しておらず、ワイン市場がやや飽和状態でもあります。わが校では、こうした流れを見込んで２０１２年から香港初の「日本酒課程」を開講しました。私自身が日本全国の酒蔵巡りなどをして歩き回っており、日本酒の奥深さ、味わいが好きだったんですね。香港でもブームがくると見込んで開講したものです。好きが高じて利き酒師の資格を取得したいと頑張っている方、日本食レストランに勤務している方が知識を高めたいなど多くの方が受講しています。
――今では日本酒を食中に楽しまれる香港の人が増えてきました。大きな変化ですよね。
日本食が浸透したことで香港の食生活、食習慣も大きく変わろうとしています。以前は食中に飲むことは多くなかったですが、今では街のいたるところに日本食レストランが見かけられます。香港では立ち食い寿司バーができたり海鮮丼専門店が行列をなしているなど、今まで以上に本格的な寿司、刺身を求めるようになってきました。魚の味を知ることによってよりマッチした日本酒を求めるようになっていると思います。
――チャンさんご自身も日本酒きき酒師ですが、香港の日本酒市場にはどのような可能性がありますか。
ブームが来る前から私は将来的に必ず日本酒人気の高まりが来ると信じていました。今はさらに進化した日本酒の楽しみ方を利き酒師として提供したいと思っています。最近ではフードペアリングで、中華などとのコラボレーションで日本酒を楽しんでいただこうとレストランやホテルなどでも提案、レクチャーを開催したり、スペイン料理のタパスとともに楽しむことも提案しています。日本酒ブームをさらに盛り上げていくためにも、レストラン、ホテル業界と提携して、日本酒の新たな魅力を提供できるように仕掛けていきたいですね。（この連載は月１回掲載します）
【楢橋里彩】
フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。
ブログhttp://nararisa.blog.jp/
