ウィーン・フィル弦楽アンサンブル

 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーで構成される「ウィーン・フィル弦楽アンサンブル」とバイオリニスト・五嶋みどりさんによる演奏会が44日、香港で開催された。世界的音楽家の夢の競演ともいえるその公演で、ウィーンフィル弦楽アンサンブルのメンバーの1人として参加したチェロ奏者、ベルンハルト・ヘーデンボルク・直樹さんに話を聞いた。(文・綾部浩司/取材協力・LCSD

ベルンハルト・ヘーデンボルク・直樹さん

 1979年オーストリア生まれの直樹さんは、スウェーデン人でバイオリニストの父と日本人でピアニストの母を持つ。幼少より音楽性を認められ、12歳でソリストとしてデビュー。93年以降さまざまな国際コンクールで受賞し、2011年にウィーン国立歌劇場管弦楽団に入団。14年よりウィーン・フィルのメンバーとなる。兄の和樹さんもウィーンフィルのバイオリンメンバー、弟の洋さんはピアニストという、まさに音楽一家だ。

 「ウィーン・フィル弦楽アンサンブルは今年創立175年を迎えるウィーン・フィルの気の合ったメンバー同士が集まって結成しました。アンサンブルの創設者でバイオリン奏者のダニエル・フロシャウアーさんが五嶋みどりさんと米ジュリアード音楽院で共に学んだ仲だったことがきっかけで、今回初共演となったのです。5公演だけでしたが、とても楽しい時間を共有できました」と話し、将来の再共演にも意欲的だ。

五嶋みどりさんとのリハーサル(筆者撮影)

 ソリストとして印象が強いみどりさんだが、直樹さんは演奏を通じて「みどりさんは室内楽の演奏が本当にお好きだ」と直感したという。「みどりさんにはグループの中でお互いが弾き合って一緒に音楽を作っていく、という室内楽の本質的なグループ感が体に染みついていらっしゃいますね。1人ひとりが消えることがなく、いわば家族が一緒にひとつのものを作り上げるのが室内楽ですが、それは自分が在籍するウィーン・フィルの演奏の根本でもあるのです」

 音楽一家は欧州ではあまり珍しいことではないが、兄弟そろって世界最高峰のウィーン・フィルの楽員、さらに日本人の母をもつ音楽家は貴重な存在だ。「子供のころから自然に音楽に触れ合う環境にいたことが自分にとってはラッキーでした。音楽が好きになるにはCDでもラジオでもいいから、たくさんの音楽と触れることが大切だと思います。おいしいものをたくさん食べると舌が肥えてきて、さらにおいしいものへの願望が出てくるのと少し似ているかもしれません」とも話してくれた。

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