第43回
声優
ひと口に「仕事人」と言ってもその肩書や業務内容はさまざま。そして香港にはこの土地や文化ならではの仕事がたくさんある。そんな専門分野で活躍する人 たちはどのように仕事をしているのだろう? 各業界で活躍するプロフェッショナルたちに話を聞く。
( 取材・武田信晃/月1回掲載)
コナンやルフィも吹き替え
アニメの主人公と声優の声は密接に結びつき、この主人公ならこの声というイメージがあるだろう。周恩恩さんは香港で第一人者として活躍する声優だ。
現在は『名探偵コナン』の江戸川コナン、『ワンピース』のモンキー・D・ルフィなどを担当。また香港映画では、出演するのが香港人俳優でもあえて声優が声を吹き替えるケースがあるほか、中国本土の女優が出演する場合は広東語に吹き替える。中国の女優、周迅は香港のアカデミー賞といわれる香港電影金像奨で主演女優賞など受賞したが、その声を担当したのが周さん。また、携帯電話会社『3』の留守番電話のアナウンスなど、私たちが気づいていないところで彼女の声を目の当たりにしているのだ。
周さんは香港演芸学院(HKAPA)で演劇の勉強をして俳優を目指していたが、卒業後すぐ俳優の仕事で食べていけるわけではなく、イメージコンサルティングの仕事をしていたという。そんな時「有線電視が1993年に開局し、知り合いから仕事を紹介してもらいました。シンガポールの番組を香港で放送するための、広東語の吹き替えでした。あっという間に時間が過ぎて、プレッシャーとか感じることなく終わりました」と笑う。
その後も吹き替えの仕事は続けていたものの声優業はメーンという意識ではなかった。「11年前にディズニーチャンネルが香港でも放送されることになりました。私はそれまでにもディズニー作品に携わっていたので声がかかったのですが、今度は声優だけではなく運営の方にもかかわることになったのです。このとき初めて、声のプロとしてやっていこうという意識が芽生えました」
彼女の声優としての技量を象徴するのは、1つのシーンで声色を使いわけ複数の登場人物を同時に演じてしまうことだ。しかも、「台本があがってくるのは吹き替え当日です」と事もなげに言う。
「コナン役は私が2代目なのですが、実は昔、交通事故に遭って一時吹き替えが出来なくなってしまったのです。放送スケジュールなど考えると代役を立てられてもおかしくありません。復帰まで半年を要したのですが、テレビ局が私を待っていてくれたのはうれしかったですね」といかに重宝されているのかが分かる。
香港に声優は700人ほどいるといわれるが、日本のような人材の厚みはない。「後進の育成に力を入れるため学校を創りました。今年10周年を迎えます。最初は4人の生徒で始めましたが今は40人を抱えています」と話す。「声優は体や表情は使うことはできないので、実力がはっきりと出ます。声の表現者になりなさいと繰り返し言っています」
長年の活動が実を結び声優になりたいという人も徐々に増えているようで、いずれ日本のようにアイドルのような声優が現れるかもしれない。