「一致性評価」および「二票制」の影響が注目される中国医薬品業界

「一致性評価」および「二票制」の影響が注目される中国医薬品業界

 SMBC経済トピックスでは、アジア地域において注目されている産業や経済の動向を紹介します。今回のトピックスは中国医薬品業界です。中国の医薬品市場は、所得水準の向上や医療制度の整備、高齢化の進行などを背景に、年率+10%を上回るペースで拡大しており、今後も当面は同様のペースで成長が続くとみられています。一方、金額ベースで6割超のシェアを占めるジェネリック医薬品について、市場には効能が十分ではない製品も多く流通しており品質に対する国民の不安が高まっていること、医薬品が消費者に届くまでに複数の卸売業者を経由するため販売価格が高止まりし、国や国民の医療費負担が重くなっていること、などの課題を抱えています。これらの課題を解決するため、中央政府は、製薬業界においてはジェネリック医薬品の効能が先発薬と一致することを確認する「一致性評価」の厳格化、卸売業界においては1つの製品の流通に複数の卸業者が関与することを禁止する「二票制」の導入を進めています。この結果、2018年にかけて製薬業界、卸売業界それぞれで業界再編が進んでいくと見込まれ、動向が注目されています。
 (三井住友銀行 企業調査部<香港駐在> 貫井 孟)


中国医薬品業界の特徴

図表:中国医薬品市場の市場規模推移

 中国の医薬品市場は、所得水準の向上や医療制度の整備、高齢化の進行などを背景に、年率+10%を上回るペースで拡大しています。今後についてみても、一部の都市では医薬品の普及が一巡しつつあるものの、内陸部を中心に多くの地域で医薬品は普及途上であるため、当面はこれまでと同様のペースで成長が続くとみられています。

 一方、中国の医薬品業界は品質管理、流通構造それぞれの面で課題を抱えています。

 品質管理面では、ジェネリック医薬品が金額ベースで6割を上回る市場シェアを占めていますが、市場には効能が十分ではないジェネリック医薬品も多く流通しており、近年では医薬品の品質に対する国民の不安が高まってきています。これは需要が急速に拡大するなか、医薬品の供給が不足していたため、中央政府が医薬品の供給拡大を優先し、品質管理を後回しにしてきたことが要因とされています。

 また流通構造面では、医薬品が消費者に届くまでに複数の卸売業者を経由するケースが多くなっています。製薬会社は多くの場合、省ごとに実施される入札制度を通じて製品を卸す必要があるため、価格競争によりマージンは圧迫されているものの、消費者向け販売価格は、複数の卸売業者のマージンが上乗せされるため高止まりしており、流通の非効率性から国や国民の医療費負担が重くなっている状況にあります。

 これらの課題を解決するため、製薬業界および卸売業界では現在、中央政府が主導する格好で以下の取り組みが進められています。

製薬業界 〜 「一致性評価」の厳格化

 製薬業界では1511月、当局から「一致性評価」に対する新たな方針が公表されました。一致性評価とは、ジェネリック医薬品の効能が先発薬と一致することを確認する制度のことで、今回の公表で各製薬メーカーは、取り扱うジェネリック医薬品の一致制評価の結果を2018年までに提出することが義務付けられました。近年では個別の検査基準も引き上げられており、総じて運営は厳格化されています。

 市場では、医薬品が不足する結果となる程の厳しい検査は行われないとい見方もありますが、粗悪品から徐々に排除されていく可能性が高い上、検証には1アイテムに当たり数百万元のコストが発生することから、資金力の弱い中小メーカーは一部アイテムの取り扱いを放棄する可能性もあるとみられています。

 このため、日系を含む外資系医薬品メーカーや、地場でも高品質の製品を提供できる大手製薬メーカーにとっては、今後は粗悪品との価格競争が緩和され、プレーヤーの集約度度も高まることで、収益環境が改善していくと期待されています。

卸売業界 〜 「二票制」の導入

 また中国の医薬品卸売業界では、「二票制」(Two Invoice System、「両票制」とも言われる)の導入が進められています。これは、医薬品の流通段階において、医薬品メーカーから卸売企業、卸売企業から医療機関の2回のみ領収書(伝票)発行を認める制度で、結果的に1つの製品の流通に複数の卸業者が関与することが禁止されることとなります。現在、福建省など特定の省・市から試験的に導入されており、一致性評価と同様に2018年までに中国全土で実施することが目標とされています。

 卸売業界では、全国を網羅するプレーヤーがおらず地域ごとの棲み分けがなされている上、卸売業者が一定のマージンを確保した上でメーカーから仕入れる商習慣が一般的であるため、競争力に劣る中小の卸売業者の収益も確保され、多重構造が解消されなかった経緯がありました。但し二票制の導入が進むことで、二次卸等を担う中小の卸売業者はビジネスを失い市場から淘汰され、プレーヤーの集約が進む可能性が高いと見込まれています。

 製薬メーカーサイドからみれば、当面は二票制により、地方に製品を供給する際には中小の卸売業者と直接取引をすることとなり、与信コストが上昇する懸念があるという点には留意が必要ですが、中期的にはプレーヤーが集約し流通の効率化が進む見込みです。

今後の焦点

 このように、中国医薬品業界では、2018年にかけて製薬業界、卸売業界それぞれで中央政府主導の業界再編が進んでいく見込みです。卸売業界では資金力や政府の後押しを背景に国有大手が再編の中心になるとみられますが、製薬業界における品質管理の強化を通じた再編は、グローバルスタンダードの製品を扱う外資系医薬品メーカーにとって、市場シェアを現状の2割から拡大する機会となる可能性もあり、各社の動向が注目されます。

(このシリーズは2カ月に1回掲載します)

〈筆者紹介〉

貫井 孟(ぬくい はじめ)
三井住友銀行 企業調査部 香港駐在:
2010年より企業調査部(東京)で石油・ガス業界等を担当。2015年より香港に赴任し、現在は主に台湾・韓国・中国(華南地域及び香港)素材・消費財業界の調査や情報発信を手掛ける。

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