粤港澳大湾区を視察
珠江西岸に注目
梁振英・行政長官は4月19~21日、視察団を率いて粤港澳大湾区都市群を訪問した。政府高官、行政会議メンバー、策略発展委員会と経済発展委員会の委員ら35人が参加し、広州、肇慶、中山、江門、仏山、珠海の珠江西岸6市を訪問。各市政府や広東省発展改革委員会を訪問し、都市の発展状況と位置付け、道路・鉄道などのインフラ整備状況などを視察した。
(編集部・江藤和輝)
珠江デルタと香港・マカオからなる粤港澳大湾区都市群の発展計画は第13次5カ年計画(2016~20年)で初めて盛り込まれ、李克強・首相が今年の政府活動報告で言及して以来、大きな関心を呼んでいる。視察団の出発前に特区政府政制及内地事務局の譚志源・局長は「粤港澳大湾区はすでに京津冀(北京、天津、河北省)、長江デルタと並ぶ国家3大戦略地域の1つとなった。他の2地域と異なり唯一1国2制度にかかわる地域であるため、香港は主導役を担いスーパーコネクターとしての役割を発揮することができる」と意義を示した。
視察初日は広州市南沙で交通インフラ整備の進ちょく状況を視察した後、広東省の馬興瑞・省長との座談会が行われた。馬省長は広東省、香港、マカオの協力の方向性として①各自独特の優位性を整理②機能に応じたエリア分け③市場化、法制化、国際化のビジネス環境に向けた基礎づくり④世界級の生態文明を持つ大湾区都市群を構築――の4つを挙げた。梁長官は他の都市との相互補完による発展を目指す上での香港の優位性について①社会・経済・法制度の国際化②国際的な人脈③金融・専門サービスなど優位性のある産業が広東省と相互補完できる――と説明。さらに観光、科学技術の分野でも役割分担による協力の余地は大きいと付け加えた。
2日目は広州南駅と仏山市、肇慶市、江門市を訪れた。広州―香港間高速鉄道の終着駅となる広州南駅では、広州鉄路の王華・総工程師が広州と深&`が粤港澳大湾区内の2つの総合ハブとなる中長期計画を説明。両ハブで計画されている高速鉄道は10本で、うち6本が開通。在来線は10本で、うち7本が開通。さらに13カ所の物流センターが計画されている。香港区間が開通すれば広東省内の各地級市まで2時間、近隣省・自治区の各省都まで3時間、長江デルタ、京津冀、成渝(重慶市、四川省)の各経済区の主要都市までは8時間で結ばれ、5億人余りの人口をカバーするという。一行は同駅から高速鉄道に乗って30分で肇慶東駅に移動し、肇慶新区と江門市大広海湾経済区規画館を訪れた。肇慶新区は珠江デルタと西南地域、東南アジアとを結ぶ重要な窓口であり、貴州省や広西チワン族自治区に向かう交通の要衝でもある。大広海湾経済区は珠江デルタと広東省西部、西南地域との接点で、生活サービス産業、先進製造業、現代漁農業を振興している。
一行は最後の訪問地となった珠海市で粤港澳大湾区都市群発展計画交流会に出席。梁長官は今回の視察で珠江西岸の都市を集中的に訪問したことに触れ「港珠澳大橋が来年開通すれば香港と珠江西岸都市との所要時間は短縮し、輸送コストは低下する」と指摘。また政府活動報告の粤港澳大湾区に関する部分で「香港マカオの独特の優位性を発揮」と述べられたのに対し、香港の「高度な国際化」と金融・専門サービス業という優位性を挙げた。交流会後の記者会見では、今後2~3週間以内に意見をまとめ、5月末に国家発展改革委員会に提出、その後も諮問作業を行って修正し、9月末から10月にかけて計画を完成させる予定を明らかにした。特に香港がいかに粤港澳大湾区の都市、広東省企業と連携して「一帯一路」沿線諸国に進出していくかが焦点になるという。
港珠澳大橋と高速鉄道
香港、珠海、マカオを結ぶ港珠澳大橋の香港区間は予定より1年遅れの今年末に完成する見通しだが、開通日は広東省、香港、マカオの3地政府で討議した上で決定される。一方、広州―香港間高速鉄道香港区間は18年第3四半期の開通を予定しているが、香港と中国本土の出入境審査を1カ所で行う「一地両検」の実現方法が依然物議を醸している。
「一地両検」は深&`湾口岸の方式を参考に出入境管理所を香港に設置するとみられる。本土の執法人員は西九龍に建設している駅の制限エリアでのみ本土の出入境条例に基づいて手続きを行うこととする。深&`湾口岸は蛇口に設置されており、香港の入境事務処職員が常駐し制限エリアで香港の法律を執行することが認められているのとは逆のケースだ。全国政協常務委員の唐英年氏は3月、北京での会議でこの問題に触れ、「本土の人員が香港で執法することへの不満を理由に西九龍駅での一地両検実施に反対している人がいる。これは反対ありきで、大多数の香港人の利益を損ない、香港が国家の一部となるのに大きな打撃を与えている」と述べた。
政府活動報告で言及されて以来、粤港澳大湾区での香港の位置付けや乗り遅れへの懸念が取りざたされている。北京理工大学の胡星斗・教授は「粤港澳大湾区計画で香港は国際金融センター、海運センターの役割を担う」とみる。広東省は先進ハイエンド製造業センター、マカオは観光レジャー・センターを担い、3地の相互補完によって各地の優位性が発揮されると説明した。
中山大学の鄭天祥・教授は「香港はこれまで金融業の発展だけに取り組み、株式市場や不動産市場を重視して産業空洞化を招いた」と述べ、大湾区計画は香港にとって形勢を変える絶好の機会とみる。また全人代香港代表の陳勇氏は「一部の香港人は香港が国家の発展に参入するのを『計画に組み込まれた』とみなし、一部官僚は『小さな政府』意識を抱えている。これらは香港の発展を阻む」と批判し、計画への積極的な参入を提唱した。
視察団に参加した経済発展委員会の黄友嘉・委員は、「国家の長期的な目標は資本市場と現代サービス業の発展である。香港は国際金融センターであり、専門サービス業は国際的水準であるため、大湾区を通じてその特徴を発揮し国家の需要に沿ってともに発展できる」と指摘。本土の資本市場の発展停滞で中小企業の資金難や市民の貯蓄に投資先がない問題があるが、資本市場の発展は人民元の国際化にかかわる。オンショアとオフショアが歩調を合わせなければならず、これは1国2制度を備えた粤港澳大湾区だけにできることだという。香港では一部の者が本土との経済融合に抗い、ひいては1国2制度に影響すると憂慮しているが、黄氏は「香港が大湾区に参加しなければ取り残され、国際的地位は低下する」と警鐘を鳴らした。