粤港澳大湾区
李克強・首相の号令で珠江デルタ・香港・マカオを一つの経済圏とする「粤港澳大湾区」構想に期待が高まっている。
3月5日から15日まで開催された第12期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第5回会議の政府活動報告で李克強・首相は、「粤港澳大湾区都市群」の発展推進に言及した。粤港澳大湾区構想は珠江デルタと呼ばれる広東省の9市に香港、マカオを加えた大珠江デルタを一つの経済圏とみなす相互発展計画。実現すれば中・大型国家規模の経済成長率(GDP)を有する一大経済圏の誕生となるため、今後の進展に期待が高まっている。
粤港澳大湾区構想は2009年に発表された珠江デルタ発展計画「珠江三角州地区改革発展規画綱要(2008〜2020年)」と10年に調印された「粤港合作框架協議(広東省と香港の協力枠組み協定)」を基盤とするもので、11年には香港特区政府も珠江デルタ香港・マカオからなる「環珠江口宜居湾区」の建設計画の諮問を行い、広東省・マカオと緊密な協力関係を目指す姿勢を明らかにした。
広東省・香港・マカオを一つの経済圏として発展させる計画は08年に「粤港澳特別合作区」構想として浮上していた。同年、全人代に出席するため北京を訪れた曽蔭権(ドナルド・ツァン)行政長官(当時)と広東省の汪洋・党委書記(当時)や黄華華・省長(当時)が会談を行い、三地域で構成された自由貿易圏ともいえる「粤港澳特別合作区」構想が明らかになった。この特別合作区の主な機能は自由貿易圏と似たものではあるが、自由貿易圏は一般に独立関税地域間での協力を指すのに対し、広東省は独立関税地域ではない。こうした障害に加え一国二制度を前提としながら、広東省、香港、マカオの制度上、行政単位上の壁を最大限に乗り越えてヒト、モノ、カネの往来を自由にしようというもの。
この会談で汪書記は特別合作区をニューヨーク、東京の都市圏と肩を並べる世界クラスの大経済圏にする目標を掲げ、広東省政府による専従チームを組織して大規模な調査研究を行った。同年は改革開放政策の実施から三十年を迎えた節目の年であり、それまでの生産拠点と販売窓口という広東省と香港の三十年来の関係から大きな転換を図る計画としても注目を集め、その後の珠江デルタ発展計画の中に「香港・マカオとのさらなる緊密な協力推進」という項目が設けられた。
そして今回、李克強・首相が粤港澳大湾区の発展計画に言及したことで全人代広東省代表団の会議では活発な討論と具体的な計画が示された。主な内容は、インフラを強化し国際海運・物流センターを構築、高速道路網や海路、空路を整備するととともに中国本土と香港・マカオの金融市場との双方向開放を拡大し、香港を筆頭とする「金融核心圏」を形成する。国家レベルの協力調整システムによって中央からより多くの改革権限や政策支援を受け、資本取引での人民元兌換、人民元の越境使用、外為管理改革などの先行実施を推進。さらに、広東省が科学技術産業の中心となり、広東省・香港・マカオ科学技術戦略連席会議システムを設置するほか、大湾区の開発基金を設立して重要プロジェクトを支援するなど。
粤港澳大湾区全国政協委員で香港理工大学の唐偉章・校長は、粤港澳大湾区は人口規模や経済規模が欧州の中・大型国家の規模に相当するため、三地域の協力によって香港が直面する人口と土地資源、工業支援の制約を補い、ハイテク分野の発展が見込めると期待を寄せるが、一方で香港の位置付けや乗り遅れへの懸念も取りざたされている。全人代香港代表の陳勇氏は「一部の香港人は香港が国家の発展に参入するのを『計画に組み込まれた』とみなし、一部官僚は『小さな政府』意識を抱えている。これらは香港の発展を阻む」と批判。積極的な参入を提唱している。
(この連載は月1回掲載)