香港の個人所得税の申告手続

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香港の個人所得税の申告手続

 月1回のこのコーナーでは、香港・日本・中国等を中心とした税金等に関する問題についてご紹介させていただきます。香港の課税年度は4月1日から翌年3月31日までとなりますので、毎年4月初旬からが個人所得税の申告時期となります。今回が初めての申告になる方もいらっしゃるかと思いますので、香港の個人所得税の申告手続の概要を解説いたします。

申告時期および申告方法の概要

 香港では毎年4月上旬に香港税務局より雇用主(会社)に対して雇用主支払報酬申告書(BIR56AおよびIR56B)が送付されます。これらは、会社が役員・従業員に支払った給与・賞与・諸手当等の情報を申告するための申告書となります。会社は、発行日から1カ月以内に課税期間中(4月1日〜3月31日)に役員・従業員に対して支払った給与、手当等の情報を記載して申告する必要があります。

 従業員には、5月上旬に給与所得税申告書(BIR60)が送付されてきますので、雇用主から交付を受けた雇用主支払報酬申告書を参照の上、原則1カ月以内に申告を行うこととなります。

 給与所得税申告書を提出後、通常は11月〜12月頃に、税務局より納税者に対して納付税額に関する通知書が郵送されてきます。納税者は通知書記載の税額を期限内に納税する必要があります。香港では予定納税制度がとられており、翌課税年度も当課税年度と同額の課税所得があるものとみなして、当課税年度の確定税額と翌課税年度の予定税額を合わせて納付することになります。簡単に言うと、来港初年度の納税時には、2年分の税額を納税しなければならないこととなりますので、その分の納税資金の確保が必要となります。なお、通常は申告書を提出した年度の確定税額全額と翌年度予定納税分の75%を翌年1月、残りの25%を翌年4月に支払うことになります。

日本払いの給与に係る納税について

 香港駐在で日本法人と香港法人の両方から給料をもらっている方もいらっしゃると思います。このような場合に日本と香港のどちらで税金を納めれば良いかどうかが問題となります。

 この点、日本の国内法では、日本居住者は所得が生じた場所が日本国の内外を問わず、そのすべての所得に対して課税されることとされています。一方、非居住者については日本国内において生じた所得(日本国内での勤務に対する給与)に限って課税されることとされています。居住者か非居住者かの判定は難しい議論もありますので詳細は割愛しますが、一般的には日本本社から香港法人に出向している方は日本の非居住者となり、また、日本国内での勤務に対する給与はありませんので、日本国内での納税は不要となり、日本払いの給与も含めた給与の全額を香港にて申告し、納税することとなります。

会社負担の家賃について

 香港のマンションの家賃はかなり高額のため、出向者の家賃の全部または一部を会社が負担していることが多いと思われます。この場合、家賃相当額を給与に含めて支給するとそのまま給与総額の一部となって課税されてしまいますが、会社と家主とで賃貸借契約を締結し、それを社宅として無償貸与している場合には、給与総額の10%相当額のみが所得に加算されることとなりますので、誤って全額を給与所得として申告しないように留意が必要です。

税額計算について

 以下の2つの方法で計算された金額のうち、いずれか少ない金額が税額となります(簡略化のため人的控除以外の控除はないと仮定しています)。

①総所得から人的控除等を控除した後の課税所得に累進税率(2〜17%)を乗じた金額
②総所得に標準税率15%を乗じた金額

実際の税額計算は税務局が行いますので、納税者は送付されてきた給与所得税申告書(BIR60)に必要事項を記載するだけでよいのですが、税額を事前に知りたい場合や税務局が算定してきた税額を検証したい場合には、自分で計算を行ってみるのも一つの手です。香港税務局のサイトでも、家族構成、給与額、家賃額等を入力するだけで税額のシミュレーションができますので、そちらを使用してもよいかと思います。

まとめ

 出向者の場合、税務申告や納税もすべて会社が実施してくれることもあると思いますが、あくまでも納税義務者は従業員個人となりますので、申告額の誤りや申告期限の超過等が発生しないように、制度の概略を理解しておくことが重要です。

(このシリーズは月1回掲載します)


筆者紹介
フェアコンサルティング(香港)
東京、大阪、香港、上海、蘇州、台湾、ベトナム、フィリピン、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、インド、メキシコ、オーストラリアを拠点に多数のグローバル企業のサポートを行っているフェア コンサルティンググループの香港拠点。同グループは国税当局や大手会計事務所出身で経験豊富な公認会計士、税理士スタッフが、日系企業が抱える諸問題を解決するための税務・財務戦略を企画・立案・実施支援しています。
〈連絡先〉
Manager  山口和貴 
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