《98》企業取引におけるサプライチェーンファイナンスの活用(前編)


《98》

企業取引におけるサプライチェーン
ファイナンスの活用(前編)

 昨今、新聞・雑誌やインターネット等で「サプライチェーンマネジメント」という言葉を目や耳にする機会が増えている。このサプライチェーンマネジメントの中で、企業の生産活動における資材の安定調達、利益率の向上、そして資材調達コストの削減に寄与するべく、金融機関が提供するソリューションについて、その仕組みとメリットを中心に紹介したい。
(みずほ銀行グローバルトランザクション営業部 東アジア室 小塚 聖・金子 裕資)

 

サプライチェーンマネジメントとは

図1 サプライチェーンの全体像

サプライチェーンマネジメントとは、企業の生産活動における資材調達から製品販売までを一連で把握し、その効率性や生産性を向上すべく業務プロセス全体を管理(マネジメント)することで、企業に高収益をもたらすための経営管理手法と捉えることができる。製品の製造・販売に係る企業内・グループ内のプロセスはもとより、資材調達の相手(サプライヤー)や、最終製品の販売先との関係までも含め、商流全体を俯瞰した形でマネジメントすることを意味している。

 販売先との関係については、販売後の代金回収に対するリスクや、掛売りを行う際の回収までの期間にかかる資金繰りとの兼ね合いから、かねて検討され、銀行としてもそれらの企業ニーズに対してリスクヘッジや資金調達の手段を提供してきた。

 一方、サプライヤーとの関係に視点を移してみると、企業自身の生産活動を最適化するために、なんらかの手段が必要だと考えられないだろうか。本稿では、特に企業とそのサプライヤーとの関係に焦点を絞り、企業として検討すべきポイントやニーズと、それに対して銀行が提供できるソリューションに触れていきたい。

企業とそのサプライヤーがお互いに求めること

 企業が自身のサプライヤーから資材を調達することは、企業の生産・事業活動における第一歩であり、これをないがしろにしては企業自身の収益確保や収益性の向上は当然ながら覚束ない。そして、サプライヤーにとっても、自身が生産した製品を販売する相手との関係が重要であることも言うまでもない。しかしながら、両者の間には相反するニーズがあることも事実であり、これらをいかに解決し、継続的な関係を築いていくかが重要になる。

 図2は、資材を調達する企業(以下、「バイヤー」)とそのサプライヤーの相反するニーズの一例を図に示したものである。

図2 バイヤー・サプライヤー間で相反するニーズ

 まず、バイヤー側から見た場合、以下のニーズが挙げられる。

⑴自身が必要とする際に安定的に資材の供給が受けられること
⑵購入代金の支払いを遅くすること
⑶資材調達価格を抑えること

 これに対しサプライヤーの側のニーズは以下のようになる。

⑴安定的に、より多くの製品を販売できること
⑵販売代金の回収を早くすること
⑶販売価格を上げること

 バイヤーからすれば、なるべく支払いまでが長期間で、低い価格での資材調達が実現できれば自身にとって有利になるが、それはすなわちサプライヤーのニーズに逆行することにもなる。

 特に、サプライヤーがバイヤーよりも規模が小さく、会社としての体力・耐久力が弱い場合、サプライヤーに不利な条件を一方的に押し付けることは、いずれサプライヤーを消耗させ、最終的にはサプライヤーの経営を圧迫することにつながる。そうなれば、バイヤーのニーズである安定的な資材調達が不可能になってしまう。

 一方で、サプライヤーのニーズを単純に叶えようとすれば、今度はバイヤー自身にデメリットがある資材調達となり、結果として企業自身の収益確保や収益性の向上が遠のいてしまう。

 このように、サプライヤーとバイヤーは、互いに共存が必要でありながらも、相反するニーズを抱えなくてはならないジレンマに陥っていることが多い。その結果、概してサプライヤーの方が相対的に小規模なケースが多い製造業においては、バイヤーがサプライヤーに対してサポートをしつつ、自身のニーズも満たす解決策を提示することが、サプライチェーンマネジメントの中で着目されるポイントとなってきているのである。

企業自身のニーズを満たしつつサプライヤーをサポートする手段

 それでは、金融機関がこの相反するニーズを満たすべく提供することができるソリューションについて考えたい。すなわち、バイヤーは支払いまでが長期間で、低価格での資材調達が可能になり、サプライヤーは低コストで支払期日前に資金を回収することを可能にするソリューションである。これは、一般に「サプライヤーファイナンス」と呼ばれている。

 サプライヤーファイナンスとは、銀行がサプライヤーの保有する特定のバイヤー向けの売掛債権を買い取る仕組みを提供するものである(図3)。これにより、通常サプライヤーは支払期日まで資金の回収を待たなければならないところを、本来の支払期日より前に資金を得ることが可能となる。一方、バイヤーは支払期日に銀行に対して支払いをするということになる。

図3 サプライヤーファイナンスの仕組み

(次回に続く)

(このシリーズは月1回掲載します)

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