外国勢力が関与か?
『りんご日報』などを発行する壱伝媒集団(ネクストメディア)の黎智英(ジミー・ライ)会長が民主派の政党や関係者に多額の献金を行っていたことが7月に暴露された。公にされた資料からは黎氏が民主派を財政面で支えていることが分かるほか、黎氏と米国との密接な関係も明らかになった。折しも普通選挙に向けた改革論議が進められており、外国勢力の干渉に対する中央政府の警戒がいっそう高まっている。(編集部・江藤和輝)
献金疑惑は「壱伝媒股民」(ネクストメディアの一般株主)と名乗る者がメディアやネット上で暴露したもので、7月22日付以降の香港各紙で立て続けに報じられた。2012年4月から今年6月までに9団体と14人に計4080万ドルを献金したことを示す小切手や領収書などが公にされた。政党あてでは民主党1000万ドル、公民党600万ドル、個人あてでは陳方安生(アンソン・チャン)元政務長官300万ドル、真普選連盟の鄭宇碩・召集人300万ドルなどが目立つ。 7月22日に壱伝媒集団傘下のネット番組「一錘定音」に出演した黎氏は暴露された書類が本物で、献金した事実を認めた。ただし香港を混乱させる目的や外国勢力の資金であることは否定した。選挙条例や立法会の議事規則では献金の申告が義務づけられているが、献金を受けたとされる民主派議員らはみな申告しておらず、献金を否定する者もいる。 汚職を取り締まる廉政公署(ICAC)は25日、献金問題について調査を開始した。先にICACに通報した民主建港協進連盟(民建連)の区議会議員、陳雲生氏はICACから立件の報告を受けたことを明らかにした。陳氏は民主党の“謹申氏、公民党の梁家傑氏、毛孟静氏、陳淑荘氏、工党の李卓人氏、社会民主連線(社民連)の梁国雄氏らについて献金を申告していないことから選挙条例違反と公職者行為失当の疑いで通報していた。 立法会議員個人利益監察委員会は30日、議員らに事件の釈明を要求すると決めた。委員会は現職議員5人について通報を受けたが、うち公民党の梁家傑氏は真普選連盟の代理で受け取ったと説明し証拠を提出したため、他の4人に対し2週間以内の釈明を要求。その後に再討論し調査するかどうかを決定する。4人のうち2人は党への献金を代理で受け取ったと述べ、2人は献金を否定している。 公にされた書類の多くには壱伝媒集団幹部のマーク・サイモン氏のサインが記されている。これまでに明らかになった情報では、サイモン氏は米共和党香港支部長を兼務、米海軍で情報工作に従事した経験を持ち、父親は米中央情報局(CIA)に35年間勤務していた。黎氏による政党への献金処理をすべて担当しているほか、壱伝媒集団幹部の名義で米政界への献金も行っている。 暴露された900件余りの資料からはサイモン氏がホワイトハウスあてにチェイニー副大統領(当時)の独占取材を依頼した手紙が見つかり、アメリカ新世紀プロジェクト(PNAC)主席の紹介を受けたと書かれていた。PNACはネオコンが組織したシンクタンクで反中国的な言論活動なども行っている。
資料の中には黎氏が米国のポール・ウォルフォウィッツ元国防副長官とミャンマー軍幹部とともに写った写真もあり、ミャンマー投資の視察とされている。ウォルフォウィッツ氏はネオコンの論客で知られ、退官後も米政界で対外情報工作にかかわっている。ウォルフォウィッツ氏と黎氏は5月末に香港で密会していたことが6月19日発売の週刊誌『東周刊』号外でスクープされていた。両氏は黎氏のクルーザーに乗って海上で5時間過ごし、サイモン氏も同行していた。時期的にみてセントラル占拠行動の住民投票や7・1デモに向けた準備と憶測されている。
黎氏と米国の密接な関係 8月4日には「壱伝媒股民」が再び各メディアにメールを送りつけた。添付されたファイルには黎氏やサイモン氏らのメールなど約100件の文書があり、献金を示すメールや米外交官とのやりとりなどが明らかにされている。6月の経費に関するメールでは献金約950万ドルとセントラル占拠の住民投票の宣伝などに300万〜350万ドルを費やしたことが書かれている。だがセントラル占拠発起人の陳健民氏と香港大学民意研究計画は黎氏からの献金を否定した。 ウォルフォウィッツ氏が12年3月に黎氏にミャンマーでの投資をサポートすると提案したメールもある。ウォルフォウィッツ氏の協力により黎氏はミャンマーの外務大臣らとも接触している。台湾でのテレビ放送ライセンス獲得でも在台湾米国協会の協力を得たことを示すメールがあるなど、米国が黎氏の投資をサポートすることによって間接的に民主派に資金を提供しているとも想像できる。また資金の往来をより複雑にして米国による資金提供を隠すためとの見方もある。メールでは記録のある04年以降、壱伝媒集団と在香港米国総領事館との尋常でない往来が示され、黎氏と歴代総領事ら外交官との密接な関係がうかがえる。 前述の『東周刊』はCIAと関係の深い全米民主主義基金(NED)が従来から香港でひそかに活動し、香港の政党・団体への資金提供や訓練を行っていたことも紹介。NEDのウェブサイトでは以前、03年に国家安全条例を撤回させたことを誇る記述があり、NEDが資金提供した香港人権監察と香港職工会連盟(職工盟)がデモを組織したことに触れていたという。 黎氏の政治献金が暴露されたのは今回が初めてではない。11年にはファイル交換ソフトFoxyで黎氏が06〜11年に政界・宗教界に総額約6000万ドルの献金を行ったことを示す個人帳簿が公開された。主な献金対象は公民党、民主党、社民連、前線、陳方安生氏、カトリック香港教区の陳日君・名誉司教など。 同年には内部告発サイト「ウィキリークス」が公開した米国外交公電で、民主派の代表的人物が在香港米国総領事館に積極的に情報提供していることも明らかになっている。ウィキリークスが公開した在香港米国総領事館の機密電文は1000件近くで、主に05〜09年の総領事による報告だという。このうち陳方氏、民主党の李柱銘(マーチン・リー)元主席、陳日君氏、黎氏の4人に関するものが100件を超えている。 中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(中連弁)の張暁明・主任は8月7日に行ったスピーチで民主派と外国勢力との関係に言及した。張主任は「香港の政治体制改革は国家の安全を考慮しなければならない」と強調したほか、中国が急速に成長する中で「国際上では中国を封じ込めようとする勢力があり、絶えずトラブルをもたらし、ごく少数の者が外国勢力や外部勢力と結託した活動を含め香港でも多くの事が発生している」と指摘した。今回の暴露事件はこうした中央の懸念を裏付けている。
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