香港ポスト ロゴ
  バックナンバー
   
最新号の内容 -20140704 No:1410
バックナンバー

中国本土からの供給に反発も
電力問題で議論

香港に電力を供給している広東省の大亜湾原発(写真:新華社)


 将来の香港の発電燃料の構成に関する公開諮問が6月18日に終了した。諮問文書では9年後の燃料構成について天然ガスによる発電を拡大するか、一定の割合の電力を中国本土から供給するかの2種類の案を提示した。電力会社は本土からの買電には安定供給の問題があるとして、天然ガス拡大案を強力に推しているが、特区政府には2社の財閥系電力会社によって支配されている香港の電力市場を開放する狙いがある。(編集部・江藤和輝)


 

 特区政府環境局が今後の発電燃料の構成に関する公開諮問を開始したのは3月19日。香港の発電燃料の構成割合は2012年現在で石炭53%、深圳市の大亜湾原発からの輸入23%、天然ガス22%、その他2%となっている。二酸化炭素の排出削減に向けて石炭火力発電所は17年から徐々に閉鎖するため、将来的な燃料構成について検討する必要がある。諮問文書では23年以降の燃料構成について①中国本土の南方電網からの買電30%、大亜湾原発20%、天然ガス40%、石炭など10%②天然ガス60%、大亜湾原発20%、石炭など20%——の2案を提示。いずれの案でも発電コストは08〜12年に比べ倍増するという。この2案については識者から①は本土からの電力供給が50%を占めるため、送電網の損傷で安定供給が脅かされる可能性があり、②は価格が上昇している天然ガスに過度に依存する問題が指摘されている。

 特区政府環境局は3カ月で7万通を超える意見書が寄せられたと発表。同局が行った公開諮問での意見書はゴミ処理費徴収で3500通、飲料ボトルの回収費徴収ではわずか600通だったのに比べると今回は多くの意見書が集まった。

 立法会経済発展事務委員会で5月26日に行われた討議では、南方電網から購入する案については多くの議員から電力供給の安定性への影響に関して質問が出た。特区政府環境局の黄錦星・局長は「最終的に本土からの買電が必要となった場合は供電の安定性について香港の電力2社と同じレベルを要求する」と強調したほか、マカオは90%の電力が南方電網から供給されているが、安定性は99・9999%で香港より高いと指摘。さらに政府は本土からの買電が香港の電力市場開放の第一歩になるとみていると説明した。

 香港に2社ある電力会社の1つである中華電力は5月21日、環境局に意見書を提出し天然ガスの利用を拡大する②案への支持を示した。中華電力は①について本土の電力供給の安定性は香港に及ばないと指摘。南方電網の昨年のユーザー1戸当たり平均停電時間は138分であるのに対し中華電力は2・3分とのデータを挙げ、本土からの電力供給への依存が高まれば停電リスクが高まり、国際都市としての香港の地位に影響するとの懸念を示した。

 もう1つの電力会社である香港電灯の尹志田・最高経営責任者(CEO)も5月29日、本土からの電力購入に反対の立場を示した。先に環境局の黄局長は本土からの電力購入が「香港の電力市場開放の一歩になる」と述べたことに対し、尹CEOは電力市場を開放しているオーストラリアでは電気料金は08年に比べ約60%上昇したことなどを挙げ、「市場を開放しても電気料金が下がるとは限らない」と指摘。また近年発生した大規模な停電を例に、送電網を開放すれば電力供給の安定性に影響すると述べた。また、尹CEOはシェールガス開発や南シナ海のガス田開発によって天然ガスの発電コスト伸び率は低く抑えられると指摘した。こうした折、香港電灯の系列である和記黄埔(ハチソンワンポア)が諮問文書の意見書に記入するよう求めるメールを社員に送っていたことが明らかになった。メールには①について信頼性などの問題を指摘した図解を添付しており、香港電灯に有利な案を支持させるよう誘導している嫌いがある。


原発の利用拡大も挙がる

 電力2社が世論誘導の動きを見せる中、環境局は6月5日、誤解に反論した。先に中華電力と香港電灯が南方電網の電力供給の安定性は香港より低いと指摘したが、環境局の劉明光・副秘書長は「本土では通常、停電が起きるのは支線の送電網故障によるもの」と強調。香港が給電を受けるのは幹線の送電網であって、安定性が高いことをあらためて述べた。また天然ガス発電施設の建設コストについて中華電力は1基40億〜50億ドル、香港電灯は1基約35億ドルで、100億ドル余りを要する本土からの送電施設の建設より安いと主張している。だが劉秘書長は、23年に本土からの電力購入が30%を占めるとしたら150億キロワットに相当するのに対し、天然ガス発電施設は1基20億キロワットに過ぎないと指摘した。天然ガス価格はすでに天井を打ったとの香港電灯の指摘にも保証はないと述べた。

 経済界からの意見としては、香港経済民生連盟が意見書を提出。電力供給の安定性、コストパフォーマンス、環境保護の3つの基準を考慮し、中でも安定性は最優先条件と指摘し、本土からの買電案では南方電網からの供給の安定性に懸念を示した。香港工業総会も政府の2案はいずれも理想的でないと指摘した。

 一方で原発の利用拡大を提唱する声もある。香港核学会の陸炳林・主席は、香港は自然資源や土地が限られているため再生エネルギーを開発する可能性は低く、天然ガスのコストも高いため、原発の割合を引き上げることを提案。現在は大亜湾原発が中華電力を通じて香港に電力を供給しているが、大亜湾原発に隣接する嶺澳原発は発電施設を2基増やす計画であり、完成後は香港の原発による給電の割合を約50%に拡大できると説明した。大亜湾原発・嶺澳原発安全諮問委員会の何鍾泰・主席も、政府が諮問文書で原発の割合を縮小している点を「福島の原発事故による心理的圧力」と指摘し、原発の割合拡大を促した。

 香港の電力供給は、香港島などに給電する香港電灯と、九龍側などに給電する中華電力というように、2社が給電エリアを明確に分けて独占している。両社は公共事業という性格から固定資産投資に対し一定の割合に当たる利益を政府から保証されている。旧・香港政庁が1994年に交わした協定では13・5%(実質的には15%)の利益が15年にわたり保証されていた。つまり固定資産である発電施設が拡大すれば利益も大きくなるわけで、両社は電力需要がどうあれ常に設備拡張を望む。投資による電力コスト上昇は市民の負担する電気料金に転嫁される仕組みだ。実際に中華電力の発電能力は96年に需要を55%も上回っていることが明らかにされた。08年の更新で利益保証は9・99%に引き下げられたものの、保護体制に変わりはない。政府は旧態依然とした電力市場に競争原理を導入するため送電網開放の可能性も検討し、将来的に多くの電力供給業者が参入できる体制を目指している。だが電力2社の抵抗の下、果たして市場開放は進むだろうか。