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最新号の内容 -20140509 No:1406
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迫り来る利上げの危機
下落する住宅価格
 

業界ではおおむね今年の住宅価格は10~20%の下落が見込まれている…

 不動産市場では過熱抑制策が維持されているのに加え、3月に米国の利上げ見通しが示されたことを受け、住宅価格の下落傾向も顕著となってきた。抑制策で取引が低迷していた市場では、新規住宅物件が割安で発売され、中古物件ではオーナーが続々と価格引き下げに応じるなどで取引回復も見られるが、その分、相場は下落している。香港金融管理局(HKMA)は先ごろ、米国の金融緩和縮小に伴う金利正常化で住宅ローンの負担が3割増す可能性もあり、住宅価格の下落幅は予想を超えると警告。不動産市場の焦点はこれまでのバブル抑制から新たなリスクへと移っている。(編集部・江藤和輝)

 

 国際通貨基金(IMF)は4月28日、特区政府に対し「米国の利上げ歩調による住宅相場の動きに留意すべき」と警鐘を鳴らした。住宅価格は2008年から約90%上昇しており、適切に処理しなければ大暴落を招くと指摘している。IMFは9日に発表した香港視察リポートで「段階的に抑制策を撤回するとともに、市況が急速に変化した場合は速やかに撤回しなければならない」と述べていたが、梁振英・行政長官は依然として抑制策を継続する姿勢を示していた。

 HKMAが3月末に発表した「通貨と金融の安定状況リポート」によると、世帯収入に占める住宅ローンの負担割合は昨年第4四半期で64・1%だが、仮に住宅ローン金利が3%引き上げられて比較的正常な状態に戻ったとすると負担割合は83%に達する。20年ローンの場合は返済負担が30・2%も増えることになり、大きな社会リスクになりかねない状況にある。市場ではおおむね今年の住宅価格の下落を見込んでいるが、HKMAは「状況は予想より早く進み、調整幅は予想を超える」と指摘している。

 特区政府地政総署は3月12日、新界の住宅開発用地競売が流札になったと発表した。放出されたのは大埔白石角の臨海高級住宅用地で、830戸の供給が可能。長江実業など7社が応札したが、最低希望額に達しなかったため政府は用地を回収することとなった。政府の公有地売却で流札となるのは10年9月以来、過去3年半で初めて。最高提示価格は29億ドル足らずのもようで、建築面積1平方フィート当たり4000ドル以下となる。これは09年の同エリアでの落札価格を45%も下回る。デベロッパーが不動産市場の先行きを悲観していることが示された。

 続く3月25日の新界2カ所の住宅用地放出が注目されたが、流札は免れた。このうち沙田の馬鞍山白石の用地は新鴻基地産発展が18億2600万ドルで落札。建築面積1平方フィート当たりでは4241ドルで、12年11月に長江実業が落札した近隣の用地が同5160ドルだったことから、約1年半で地価が17・8%下落したことになる。

 抑制策の影響で不動産取引は昨年第4四半期の約1万6200件から今年第1四半期には約1万4500件に減少。特に2月の住宅物件取引は08年の金融危機時より少ない。その後、住宅相場の下落は確定的となり、見切りをつけたオーナーが増えて中古物件では価格引き下げが相次いでいる。『香港経済日報』が集計した3月の10大団地の取引は285件で、2月の159件から79%増。過去10カ月で最高となったが、8カ所で平均価格が下落した。

 4月25日に発表された中古住宅価格の指標となる中原城市領先指数(CCL)は118・31で、過去最高を記録した昨年3月の123・66から4・33%下落している。不動産評価や市場統計作成などを行う特区政府差餉物業估価署が発表した2月の住宅価格指数は244・1(速報値)で、過去最高を記録した昨年8月の246・2から0・85%下落した。ただし返還バブルのピークである1997年10月の172・9に比べると41・2%高い。

 

公共住宅の入居資格を拡大

 不動産代理の美聯物業は先ごろ、最近多くの住宅用地が予想を下回る価格で落札され、中古住宅物件の売却額の引き下げ幅も拡大していることなどを挙げ、今年通年の下落幅予測を2月に発表した5 10%から1015%に修正、最大で20%下落するとの見方を示した。同じく不動産代理の中原地産の創業者である施永青氏はある講演会で新築住宅価格は1020%下落するとの見通しを示したほか、市民の負担能力に合わせると住宅価格は少なくとも40 50%下落しなくてはならないと指摘した。

 中原地産の統計では、市場の低迷がいよいよ家賃相場にも反映されてきたことが分かった。同社が指標とする85カ所の団地で3月の家賃を調べたところ、建築面積1平方フィート当たりの平均家賃は22・7ドルで、2月の22・8ドルから0・4%下落。2カ月連続で下落し、過去8カ月で最低となった。第1四半期の平均家賃は22・7ドルで、昨年第4四半期の23ドルから1・3%下落。2期連続の下落となり、累計で1・7%下落した。

 住宅価格の引き下げ圧力には政府による住宅供給拡大もある。住宅政策を検討する長遠房屋策略督導委員会が2月に提出した公開諮問の報告書では、今後10年の住宅供給量として47万戸を確認。うち公共住宅が6割の28万戸(分譲型8万戸、賃貸型20万戸)、民間デベロッパーによる開発が4割の19万戸を占める。

 特に低所得層の住宅問題は政府の最優先課題であり、賃貸型公共住宅の入居資格の条件が4月1日から緩和された。公共住宅への入居を申請できる条件は、収入上限が平均8・4%、資産上限が平均4・4%引き上げられた。4人世帯の場合の収入上限は8%引き上げて2万3910ドル、1人世帯では8・9%引き上げて9670ドルとなる。これによって公共住宅の入居申請資格が得られる家庭は1万6800世帯増えて14万7100世帯となる。ただし公共住宅の住民団体は、資格者が増えれば入居待ち時間がさらに長くなると懸念し、さらなる公共住宅建設を求めている。

 昨年末の賃貸型公共住宅の累積入居申請(当選待ち状態)は過去最高の24万3300件に達し、入居待ち時間は平均2・9年となっている。特区政府は賃貸型公共住宅の入居待ち時間を平均3年として承諾しているが、実は政府内部ではすでに4年前からこの目標は達成できないことが分かっていたもようだ。

 審計署が4月16日に発表した報告では、房屋署による10/11年度の予測で「3年の目標維持は難しい」となっており、12年の予測では「20/21年度には平均5年に達する」となっているが、これら予測は公表されていなかった。また今後10年間の供給予測は17万9000戸で、政府目標の20万戸を達成するにはまだ38ヘクタールの土地が不足しているという。待ち時間はさらに延びることが予想されており、市民の住宅難解消はまだ楽観できない状況だ。