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最新号の内容 -20140314 No:1402
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  SMBC経済トピックスでは、中国・香港ほかアジア地域において注目されている産業や経済の動向を紹介します。今回のトピックスは「中国におけるシェールガス開発の現状と今後の展望」です。中国では、深刻化する大気汚染の抑制やエネルギー安全保障等の観点から、石炭や石油に依存したエネルギー源構成の見直しが課題となっており、自国内に埋蔵されているシェールガスの開発を計画していますが、いまだ課題が多く、本格的な生産拡大には相応の時間を要するとみられます。
(三井住友銀行(中国)企業調査部 陸 蓓倩)



 

中国におけるシェールガス開発の
現状と今後の展望 



シェールガス開発に対する中国政府のスタンス

 中国では、深刻化する大気汚染の抑制やエネルギー安全保障などの観点から、石炭や石油に依存したエネルギー源構成の見直しが課題となっています。こうした中、政府は2012年に「シェールガス発展計画(以下、計画)」を公表し、自国に世界一の埋蔵量を有するとされるシェールガス開発に注力する方針を打ち出しました。計画では、2016年に商業生産を開始、2020年には国内の天然ガス消費量の2〜3割程度に達する600〜1000億立方メートルまで生産量を増加させるとしています(図表1)。


 もっとも、業界内では、2020年の目標値は政府の期待値に近いものではないか、との見方が多く、後述する国内シェールガス開発における課題も踏まえれば、短期的な生産量の拡大は政府自身現実的ではないと考えている可能性も指摘されています。また、主に開発を手掛ける国有大手石油企業も天然ガス開発事業においては、より難易度の低いタイトガスなどの分野へ資金や人材等を優先して投入しています。このように、中国におけるシェールガスの本格的な生産拡大には相応の期間を要するとみられます。

 

シェールガスの生産量拡大に向けた課題と取り組み

  中国におけるシェールガス開発が容易ではない背景には、以下のような課題があるとされています。

⑴開発事業の採算改善

 中国のシェールガスの出荷価格は、政府による天然ガス価格統制政策により安価に抑制されている上、以下のとおりシェールガスの掘削・販売にかかわるコストの低減が進んでおらず、開発業者の採算確保の目途は立っていません(図表2)。


①採掘コスト

 中国では米国と比較してシェールガスの埋蔵深度が深いほか、埋蔵地域のほとんどが山岳部であるなど、地形条件も複雑です。国有大手石油企業は、米国でシェールガス採掘実績を有する企業との提携などを進めているものの、中国の地形などに適合した安価な採掘技術はいまだ開発できておらず、採掘コストは米国の2〜3倍(国土資源部)とされ、米国で培った技術を中国でそのまま導入しても採算確保は容易でないとみられています。

 こうした中、中国政府は、開発事業に競争原理を働かせることで採掘コスト低減につながる技術革新を推し進めるべく、入札を通じて開発プロジェクトへの企業の参入を促進しています。さらに、政府はシェールガス掘削企業に対する補助金制度の導入や、天然ガス産業向け卸売価格の引き上げなどにより、開発業者の投資意欲向上や更なる新規参入の増加を促しています。
 もっとも、シェールガス採掘権の落札企業の中には、投資会社など、天然ガス開発ノウハウを有していないところも多く、開発に向けた本格的な動きは現時点では少ない状況です。

 

②輸送コスト

 中国のシェールガスは、四川省や貴州省など、中西部を中心に分布しており、主な需要地である沿海部に安価に輸送するためにはガスパイプラインが必要となります。しかしながら、中国ではこうしたインフラはいまだ整備途上にあるため、生産したシェールガスを圧縮の上、専用車両で運搬する必要があり、輸送コストがかさみます。

 これに対し、政府は2015年に向けて西気東輸パイプラインの複線化など、ガス輸送インフラの整備を強化する方針を打ち出しているほか、国有大手石油企業の中にはシェールガスパイプラインの建設に着手する動きもみられます。ただし、ガス輸送用のパイプラインが相応に整備されるまでは長期間を要するとされ、政府が進める開発事業の採算改善は当面実現しないとの声が多く聞かれます。

 

 ⑵水資源不足への対応

 シェールガス開発の採掘では水圧破砕技術を用い地層に割れ目を作るため、大量の水が必要となります。一方、シェールガス埋蔵量の多い中西部では降雨が少なく、水道インフラも十分整備されていないこと等から、慢性的な水不足となる地域が多いといった問題があります。現時点で具体的な解決策は見いだせておらず、水不足問題が中長期的な生産拡大に向けた最大のボトルネックとなるとの指摘もあります。

 

今後の展望

 中国のシェールガス開発においては、上述のとおり解決が容易ではない課題も多く、政府の志向するシェールガス生産の拡大目標は実現できない懸念があります。

 一方、エネルギー調達の多様化や自国生産を強力に推進する中国政府による補助政策の大幅な拡充、中国に適合したシェールガス掘削に係る急速な技術革新などにより事業採算の改善が進めば、生産量が急増する可能性もあります。中国のシェールガス生産の拡大は、国内のみならず、世界のエネルギー需給バランスに大きな影響を与えるともみられるだけに、参入各社の取り組みや中国政府の動向などが注目されます。

(このシリーズは2カ月に1回掲載します)


〈筆者紹介〉

陸 蓓倩(リク・バイセイ)

華東師範大学(在籍中に福岡大学への短期研修を経験)卒業後、三井住友銀行に入行。日々のリサーチの積み重ねから両国に対する理解を深めつつ、エネルギーのほか、石油化学や自動車業界のアナリストとして活躍。 

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