2014/15年度財政予算案 7年後に構造的赤字
曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官は2月26日、2014/15年度財政予算案を発表した。梁振英・行政長官の施政報告(施政方針演説)で財政支出拡大を伴う貧困対策などが打ち出されたことから、予算案ではばらまきを縮小する必要があり、一過性の生活支援策に充てられる予算は前年度より約40%減少した。また長期的な財政計画を検討する「長遠財政計画工作小組」は3月3日に報告書を発表。高齢化による労働力減少などから早ければ7年後から構造的な財政赤字になると警告した。(編集部・江藤和輝)
市民の生活負担を軽減する一過性の措置として、個人所得税は1万ドルを上限に75%還付、父母・祖父母の扶養控除を引き上げ、不動産税は1軒1四半期1500ドルを上限に2四半期免除、公共住宅の家賃は1カ月免除、生活保護、高齢者手当、高齢者向け生活保護、障害者手当の受給者には1カ月分を追加支給する。不動産税と公共住宅家賃の免除は前年度より半減し、数年続いた電気料金補助が取りやめになるなど、生活支援措置の規模は前年度の330億ドルから約200億ドルに縮小した。 産業振興のうち金融センター機能を強化する措置としては上場投資信託(ETF)取引印紙税の全面的免除やインフレ連動型債券「iボンド」の第4弾発行、電子小切手導入などが盛り込まれた。特区政府は10年に香港株の割合が40%以下のETFの印紙税を免除したが、現在、香港で上場するETF117本のうち28本は取引額の0・1%に当たる印紙税を支払わねばならない。これらはETF全体の資産総額の45%、1日当たり平均取引高の26%を占める。印紙税を全面免除すれば取引がさらに刺激される見込みだ。iボンド第4弾は6月に発行する予定で、規模は最大100億ドル、1口1万ドルとなる。 梁長官の施政報告が低所得層を重視したのに対し、予算案では期待された中流層への配慮が見られなかったことなどで市民の反応は芳しくない。香港大学民意研究計画は予算案が発表された当日、世論調査を実施(対象1005人)。予算案について「満足」との答えが24%だったのに対し、「不満」との答えは45%に上った。昨年の「満足」30%、「不満」31%に比べ悪化し、「満足」の割合は03年以降で最低となった。予算案に対する評価(100点満点)は49・8で、曽長官が最初の予算案を発表した08年以降の過去7年で最低。曽長官に対する評価は54で、2月初めの調査より2・7ポイント低下した。 立法会では親政府派はおおむね予算案を支持しているが、民主派議員からは反発の声が上がっている。人民力量など急進派は反対を表明、公民党も反対に傾き、民主党は態度を保留している。社会民主連線(社民連)の梁国雄氏は、曽長官が市民皆年金に触れなかったことなどを批判し、予算案審議で議事妨害を行うと宣言。人民力量の陳偉業氏も、提案した1万ドルの現金支給や陸路入境税が盛り込まれなかったことに不満を表し、少なくとも200項目の修正案を提出すると予告。予算案での不合理な支出を削減するとして、財政長官や発展局長の給与、中国本土の特区政府事務所や観光プロモーションのコストなどを挙げた。
27年後に累積債務11兆ドル 高齢化に向けた長期的な財政計画を検討するために昨年設置された「長遠財政計画工作小組」は、約7カ月の研究を経て報告書を発表した。報告では人口の高齢化、労働力の低下、香港経済と歳入の伸びの鈍化に伴い、歳出伸び率が歳入伸び率を上回る状況が続けば構造的な財政赤字は避けられないと指摘。今後20、30年の域内総生産(GDP)の年平均伸び率を名目4・4%、実質2・8%、歳入伸び率を年平均4・5%とし、歳出伸び率について異なるケースを挙げて7〜15年後に構造的赤字に陥ると推算した。 返還後の政府の公共サービスによる支出伸び率は年平均約3%で、これを維持すれば21/22年度から構造的な赤字となり、同年度に9430億ドルに達する財政備蓄を切り崩すが、14年後の28/29年度には使い果たすこととなる。その後は借金で賄い、41/42年度には累積債務が約11兆ドルに達する見込みだ。 同小組は赤字を抑えるため①歳出の伸びを抑制②歳入基盤の安定③備蓄計画を策定④一般会計と特別会計を分離⑤財政備蓄の範囲明確化⑥資産運用強化⑦房屋委員会の財政維持——の7項目を提案。公共支出をGDPの約20%に抑えることや、凍結されている2200億ドルの土地基金を「未来基金」とし、黒字がある際には資金を注入することなどを挙げた。 一方で港珠澳大橋や高速鉄道が開通し中国本土との融合が深まればGDP伸び率は2・8%にとどまらず、同小組の見通しは悲観的過ぎるとの指摘もある。だが本土との融合を阻む動きが多い昨今、経済成長を楽観できないのもうなずける。 |
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