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サッカーを見に行こう
香港で人気のスポーツと言えば、真っ先に挙がるのがサッカー。現在、アジアの強豪と言えば日本やオーストラリアだが、実は香港リーグがアジアで最も長い歴史を持つプロリーグだということをご存じだろうか? 今季は数年ぶりにリーグ参加クラブ数が計12チームに増え、競争度と娯楽性が高まった。開幕から約2カ月がたち、盛り上がる今季の見どころを本紙連載『サッカー界のコロンブス アジア放浪記』でおなじみのプロサッカー選手、伊藤壇さんに聞いた。
(構成・編集部/撮影・馮耀威)
伊藤壇(いとう・だん):
1975年生まれ、北海道出身。Jリーグ「ベガルタ仙台」を経て2001年から海外へ。これまでプロ選手としてプレーしたのはベトナム、香港、タイ、マレーシア、ブルネイ、インド、ミャンマー、ネパール、モンゴルなど16カ国・地域(日本を含む)。アジアにこだわり続け、未知のリーグを目指し各地で「初上陸の日本人選手」として活躍している。最近はオフシーズンを利用し、講演、サッカークリニックのほか、執筆活動も行っている。今後はクラブチームやプレーヤーをはじめ、企業などの「アジア戦略」に関するアドバイザリー業務も展開する予定。日本からアジアへの進出だけでなく、アジアから日本を目指すケースもサポートしていく。最も多くの国でプレーしたサッカー選手としてギネス世界記録申請も検討中。
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香港サッカーの魅力
★迫力あるプレーを間近で観戦
香港は世界ランキングでは100位圏外と成績はふるいませんが、そうしたランキングとリーグのレベルは必ずしも一致しません。実際はJ2やJFLほどの水準を保っています。
香港リーグの一番の魅力は、選手とサポーターの距離が近いことですね。日本に比べ、どのスタジアムもピッチと観客席が近く、迫力あるプレーが間近で見られますし、試合後に選手にサインや記念撮影も頼みやすいと思います。ピッチに声援がよく届くので、プレーヤーとしてもモチベーションが上がります。リーグは外国人プレーヤーと中国本土籍の選手が多いのが特徴です。彼らは香港人に比べフィジカル面で優れており高いパフォーマンスをみせファンを魅了しています。香港籍を得て、香港代表として活躍する外国人選手もいるんですよ。
★各地にクラブの本拠地
私が香港でプレーしていたころはホーム、アウェーゲームにかかわらず、1つの会場(旺角スタジアムか香港スタジアム)で行われていました。当時はダブルヘッダーが当たり前で、1回入場すれば2試合(4チーム)観戦できたんですよ。数年前から地域活性化の一環として各クラブが本拠地を決めるようになりました。今は香港各地のスタジアム12カ所でホーム&アウェー式で行われていますが、これによって地元サポーターも増え、観客動員数増加につながっているようです。各チームの本拠地や試合日程は香港サッカー協会の公式サイトでも案内しています。
★有名クラブや日本代表も来港
香港は英国領だった歴史から、サッカーでもイングランドスタイルが根付いています。ロングボールやボディコンタクトが多いのもその影響でしょう。香港リーグの公式戦以外に、サッカーファンにとってうれしいのは、英プレミアリーグをはじめとする外国のクラブを招聘するプレシーズンマッチが多いことです。私はこれまでにほぼアジア全域でプレーしてきましたが、これほど対外試合が多い所はありません。私自身も傑志時代にACミラン、ニューカッスル・ユナイテッドと対戦しました。外国の有名監督やトッププレーヤーと接する機会が多いのは、選手にとってもファンにとってもうれしいことですよね。
それから、日本にいるときよりも日本代表の試合が見やすいかもしれません。ワールドカップやアジアカップ、五輪などの国際大会ではアジア予選が必ず行われますが、香港と日本が同組になることがあります。香港ではチケットも比較的入手しやすいので、読者の皆さんにはぜひスタジアムに足を運んでいただきたいですね。
地元の人気プレーヤーたち
香港には「球星(スタープレーヤー)」と呼ばれるローカル選手もいます。中でもこの2人は海外のチームやメディアからも評価が高い選手です。私は傑志時代にチームメートとして彼らと一緒にプレーしましたが、当時からポテンシャルが高く、ともに将来香港サッカー界を引っ張っていく存在になることを確信していました。(伊藤さん談)
★司令塔務める「小さな巨人」
林嘉緯は所属チーム「傑志」のみならず、香港代表でも司令塔を務めるミッドフィールダー。小柄だが、卓越したテクニックやFKに定評があり、「小さな巨人」と呼ばれる。プレースタイルは中村俊輔を彷彿させる。2007年に北京五輪アジア二次予選で日本代表と対戦した際には、反町康治監督(当時)に「香港の素晴らしいタレント(才能ある選手)」と称賛された。香港リーグのベストイレブンにもたびたび選ばれている。
★香港で「C7」と言えば彼のこと
陳肇麒は香港代表として活躍するストライカー。ポジションは元々ミッドフィールダーだったが、恵まれた体格を買われフォワードへと転向を勧められ、それ以降頭角を現す。18歳で傑志のスタメンに定着し、南華に移籍後の2009/10シーズンにはMVPを獲得した。南華時代の背番号と頭文字から「陳七」や「C7」という愛称で呼ばれる。C7は周星馳(チャウ・シンチー)監督・主演映画の題名にちなんだもの。やんちゃなキャラクターで知られ、タレントと浮名を流してゴシップ誌の紙面をにぎわせることもしばしばだが、将来を嘱望されたプレーヤーの1人だ。2009年の東アジア競技大会では日本代表を破り、香港の金メダル獲得に貢献。2012年には中国の「広東日之泉」に移籍した。
★香港サッカー情報・主なリンク~
香港サッカー協会(HKFA)公式サイト: http://www.hkfa.com/
傑志: http://www.kitchee.com/
南華: http://southchinafc.com/
公民: http://citizenfc.com/
横浜FC香港: http://yokohamafc-hk.com/
香港代表はアジアカップ予選参戦中
香港サッカー協会は2014年7月に創立100周年を迎える。その香港サッカー界を背負って立つ香港代表は目下、AFCアジアカップ2015予選で健闘中だ。10月15日には香港スタジアムでアラブ首長国連邦(UAE)と対戦した。2013年10月17日時点のFIFA世界ランキングは同組のUAEが71位、一方の香港は148位と力の差は歴然としているものの、このE組予選では目下、3戦全勝のポイント9で首位に立つUAEに次いで、ともにポイント4のウズベキスタン(2位)と香港(得失点差で3位)が競っている。
香港代表を率いるのは韓国人のキム・パンゴン監督=写真右。キム監督は韓国リーグの蔚山現代などで活躍した後、2000年から香港リーグに移籍しプレーした元選手。オールスターチーム「香港リーグ選抜」メンバーに選ばれたこともあり、実力、人気ともに認められた存在だ。近年来、国際試合の前に「Die for Hong Kong!」と宣言するほど熱い指導を行っており、選手はもちろん、サポーターからの信頼も厚い。
傑志
Kitchee
1931年創立という長い歴史を持つビッグクラブ。2010/11シーズンに47年ぶりのリーグ優勝を決め、翌年も連覇した。対外試合を多く行っており、2011年には創立80周年記念および東日本大震災被災地への支援を目的とした親善試合を開催。スペインの「ビジャレアル」を招聘した同試合には元日本代表の中田英寿氏も出場した。今季早くも優勝候補と目されている。写真は林嘉緯。(昨季は2位)
太陽飛馬
Sun Pegasus
元朗を本拠地とする地域密着型クラブ。2008年に元々は南華のBチームとして発足し、当時は選手のほとんどが南華から移籍したメンバーだった。その後、同一オーナーによる2球団を認めないとのリーグ規定から、オーナーが変わり名称も変更された。2008/09シーズン後半には元日本代表の野人こと岡野雅行(現J2鳥取)が加入し、大きな人気を呼んだ。(昨季は5位)
南華
South China
創立から100年を超える香港で最も伝統あるクラブとして知られる。「少林寺」の通称を持ち、リーグ優勝は41回に及ぶ。国際大会の経験も豊富で、AFCアジア・カップウィナーズ・カップなどに出場した。香港代表キャプテンで、香港映画『我要作Model』にも出演したイケメンディフェンダー、陳偉豪らスタープレーヤーが多く所属している。写真は2008/09シーズンのMVPの李威廉。(昨季は優勝)
公民
Citizen
創設は1968年。中堅の印象が強いが、実は2004/05シーズンにトップリーグ(一部)に初昇格したチーム。昇格直後は「登り竜」と呼ばれる快進撃を見せ、以降は一部に定着した。2006年には五輪代表に最も多くの選手を輩出したことでも話題に。現在は日本人フォワード、中村祐人=写真=が所属している。中村はポルトガルでもプレーした経歴を持ち、活躍が期待されている。(昨季は8位)
屯門
Tuen Mun
1963年創立の屯門区を代表するクラブ=白のユニホーム。長く地区リーグに参戦していたが、2010年に1部に昇格した。地元サポーターの熱い応援が有名で、ホームゲームの集客率は90%以上。観客動員数は南華に次ぎ、トップクラスを誇る。また南華の連勝記録を止めるなど、大一番に強い。2008年に伊藤壇が所属していた屯門普高と名称は似ているが関係はない。(昨季は3位)
天行元朗
I-Sky Yuen Long
1958年創立。クロフォード・マレー・マクレホース第25代香港総督からの支持も得た由緒あるチーム。1960〜70年代はトップリーグに参戦し輝かしい成績を残していたが、1980年に資金不足を理由にリーグから撤退。2002年に地域活性化を目指す区議会の推薦を受けて地区リーグに復帰。順調に成績を伸ばし、今季から1部に返り咲いた。(昨季は2部優勝)
標準流浪
Biu Chun Rangers
母体である「香港流浪」は1958年にスコットランド籍のスポーツジャーナリスト、イアン・ピトリー氏によって創立された。アジアで最も早くプロとして活動を始めたクラブで、1960年代には香港リーグ初のスコットランド人選手を生んだ。これまでに元中国代表の范志毅ら数々の有名選手がプレーしており、現香港代表監督のキム・パンゴン氏も選手兼監督を務めていたことがある。(昨季は6位)
東方沙龍
Eastern Salon
1932年に創立され、香港で最も長い歴史を持つクラブの1つ。1992/93シーズンにゼロ失点の全勝優勝を果たす。これを皮切りに、リーグ3連覇して王座に君臨。「東方王朝」と呼ばれた。現在はフロントに香港リーグの往年のスターが顔をそろえ、香港で最も人気のあった外国人選手で、後に香港代表としても活躍したクリスティアーノ・コルデイロ氏が監督を務める。(昨季は2部3位)
皇室南区
Royal Southern
香港島南区を本拠地とするチーム。地区活性化の目的から2002年に区議会と香港サッカー協会の協力で香港初の地区リーグが創立された。その際に、南区区議会傘下のチームとして活動を開始。その後、順調に成績を上げ、2011/12シーズンに2部リーグで優勝し、1部への歴史的昇格を果たした。地域チームながら、下位低迷という大方の予想に反し初年度4位の好成績を残した。(昨季は4位)
横浜FC香港
Yokohama FC Hong Kong
2012/13シーズンから香港リーグに加盟した。香港のユース代表メンバーが多く所属している。現在は日本人4選手(吉武剛、福田健二、村井泰希、原田慎太郎)が活躍中。キャプテンの吉武は昨シーズン、香港リーグのベストイレブンに選出された。若手育成で定評のある李志堅・監督が掲げる今季の目標は4位以内。また、カップ戦のタイトル獲得も目指す。(昨季は9位)
日之泉JC晨曦
SunrayCaveJC Sun Hei
1986年創立で比較的歴史が浅いが、2000年代前半は数々のタイトルを手にし、香港サッカー界の覇者となった。2004/05シーズンは、リーグ優勝、シニアシールド杯、リーグ杯、FA杯という主要4タイトルを獲得。さらにプレシーズンに7人制大会も制しており、「5冠王」と呼ばれた。香港スターのジャッキー・チェンやアラン・タムもオーナーの1人という。(昨季は7位)
愉園
Happy Valley
1950年に創立された古豪で、「右の南華、左の愉園」といわれた。かつては香港代表経験を持つベテランが多く、AFCカップなど国際大会の常連だった。リーグでは常に上位チームだったが、創立60周年を迎えた2010年に成績不振から創立以来初めてという降格を味わい、過去3シーズンは2部に甘んじた。1部復帰の今季は巻き返しが期待される。(昨季は2部2位)