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最新号の内容 -20130426 No:1381
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GDP押し下げ要因に
鳥インフルを警戒

 

出入境管理所では鳥インフルへの対策を強化(写真・政府新聞処)

 中国本土での鳥インフルエンザ(H7N9型)感染拡大を受け、香港では警戒が高まっている。本土のメーデー連休で拡散が懸念されるほか、影響は不動産市場にも及んでいる。香港大学は鳥インフルが域内総生産(GDP)伸び率を押し下げるとみているほか、銀行などではGDP伸び率予測を下方修正する動きもある。また葵涌にある港湾コンテナターミナルでは作業員による大規模ストライキが発生。コンテナ処理能力が低下し貿易活動への打撃が予想される。ユーロ危機の再燃懸念や中国経済の減速などにさらなる不安定要因が加わり、回復基調が見込まれていた今年の香港経済は楽観できない状況だ。    (編集部・江藤和輝)

 

不動産市場の冷却化加速 


 香港大学経済・商業策略研究所は4月9日、香港の第1四半期のGDP伸び率予測を3・9%と発表。年初に発表した2・9%を上方修正した。昨年、景気後退に瀕した香港経済は内需の改善で今年に入って好転したことによる。鳥インフルは2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の経験から政府が抑制できるとみているが、今年通年のGDP伸び率を0・1〜0・2ポイント押し下げると予想。港湾のストも輸出入に影響を与えるものの、まだ実際の影響を推し量るのは難しいという。

 一方、香港上海銀行(HSBC)は16日に発表したリポートで、香港のGDP伸び率予測を下方修正した。今年の伸び率は先に発表した4・7%から3・7%に、来年については4・6%から4・4%に引き下げた。香港経済の成長を後押しする本土経済の回復状況が当初の予想より弱いと指摘している。

 4月中旬までに香港域内では鳥インフルの感染は確認されていないが、4月29日〜5月1日の本土のメーデー連休にはウイルス拡散リスクが高まるため、出入境管理所では増員し検温強化などの予防対策を進めている。深圳市とのボーダーにある文錦渡税関では11日から生きた家きん類に対するH7型ウイルス検査を実施している。1000羽につき30羽をサンプル調査し4時間以内に結果が得られる。結果が出るまで市場に流れることはなく、1羽でもウイルスが見つかれば即時輸入を停止する。食物環境衛生署は先に街市(公設マーケット)管理要員に対して活鳥売り場を2時間に1回巡回するよう要求。1日3回だった同売り場の洗浄も4回に増やし、さらに食物環境衛生署職員が1回洗浄するという。

 市民の鳥に対する懸念から活鳥需要は約50%減少し、卸売価格も下落が見られている。漁農自然護理署の統計では本土から香港への活鳥供給量は3月28日〜4月7日に1日当たり平均約7000羽だったが、8日には31・4%減の4800羽にまで減少。卸売価格は4月1日に比べ24・8%下落。地場の供給量も61%減、卸売価格は21・2%下落した(4月9日付『香港経済日報』など)。

 不動産市場では2月末に打ち出された抑制策や3月からの各行の住宅ローン金利引き上げの影響で住宅取引が減少してきた。さらに4月に入り鳥インフル感染拡大が確認されたのを受け、SARS流行時のように冷却化が加速した。4月最初の週末に当たる6〜7日の中古住宅物件の取引は前週末に比べ20〜25%減。新築物件の取引も同25%減の約33件で、春節(旧正月)の2月9〜10日の約16件を除けば今年に入ってからの週末で最低となった。

 不動産コンサルタントのDTZは4月17日、不動産価格は今年通年で10%下落するとの見通しを発表した。中小型住宅物件の価格は2月のピーク時から5%下落、下半期にはさらに5%下落するとみる。欧州債務危機や鳥インフルが拡散すれば下落幅はさらに拡大すると指摘している。JPモルガン・アセットマネジメントが16日に発表した調査でも、今年最大のリスクとして「香港の不動産バブル崩壊」を挙げた個人投資家が最も多く、63%を占めた。

 

港湾ストで貿易に打撃
今年は深圳に抜かれる?

 葵涌コンテナターミナルでは港湾作業員らが過去15年にわたって賃上げがないことに不満を持ち、コンテナターミナルを運営する香港インターナショナル・ターミナルズ(HIT)に対し約20%の賃上げを要求。作業員のほか民主派の香港職工会連盟(職工盟)、学生ら100人余りが3月28日からターミナルの通路をふさぎ抗議活動を開始した。抗議活動は一時約2000人の規模にまで拡大した。 

 政府の調停で4月16日までにHITの請負会社と労組側は3回の労使交渉を行ったが合意に至らず、スト参加者らは17日、立法会議事堂とHITの親会社である長江実業の本社ビル「長江中心」(セントラル)までデモ行進し、100人余りが無期限に長江中心の前で座り込みを始めた。労組側は長江実業の李嘉誠・会長の介入を求めている。

 職工盟は4月2日から数回にわたりスト参加者1人につき約1000〜1500ドルを生活手当として支給している。資金は職工盟傘下の各労組のほか、民主党や公民党のメンバー、セントラル占拠行動を計画している香港大学の戴耀廷・副教授や市民の寄付によるという。ストは職工盟が会員を取り込むためとの批判や、政治目的を指摘する声もある。

 ストの影響でターミナルの稼働効率は通常の50%に落ち込んだともいわれる。HITが4月5日までに処理した貨物は予定より1〜5日遅れ、香港停泊を取り消した船舶は54隻、香港に向かっている途中の12隻が停泊先を変更。シンガポールや深‮&‬`で積み降ろしを行っている船舶も多い(6日付『明報』『大公報』など)。

 HITは14日、多くの作業員が仕事に戻り稼働状況が徐々に回復していると発表した。現在はコンテナ業の閑散期に当たるため1日の処理量は2万5000個で、すでに86%に当たる2万1500個まで回復。ただし1日当たり240万ドルの損失という。一方、労組代表は処理量の回復を否定、コンテナが他の港湾に流れHITはプレッシャーを受けていると指摘した。

 04年まで世界一を誇っていた香港の港湾コンテナ取扱量は近年、上海、シンガポールに次ぐ世界3位を維持している。香港港口発展局が発表した1〜3月の取扱量は前年同期比4・6%減の543万1000個だったが、4位の深圳は同3・7%増の528万8100個で香港との差はわずかだ。業界ではかねて今年通年の統計で香港は深圳 に抜かれるとの予想が出ていたが、ストの影響でその可能性は高まっている。