経済のグローバル化が進む中、自らの組織のために粉骨砕身するリーダーたち。彼らはどんな思いを抱き何に注目して事業を展開しているのか。さまざまな分野で活躍する企業・機関のトップに登場していただき、お話を伺います。(インタビュー・楢橋里彩)
匠の技を伝え快適な空間づくり
1993年に大洋工芸(装飾会社)の香港支店転勤で赴任しました。その時は企業の一デザイナーとして働いていましたが、中国への返還の年に撤退することになったんです。せっかく香港の仕事や生活にも慣れてきたころだったので惜しくて。香港での需要も感じていたので、ここに残ることを決めました。
会社も理解してくれて、のれん分けと言う形でだったので問題なく引き継ぎしました。最初はオフィスを持つのも厳しかったので家とオフィス兼用でスタート。歯ブラシをくわえながら朝から図面を書きを始め、夜中まで毎日必死で仕事をしました。
信用をしていただくために何をすればいいか? を問い開業時は一人でしたから目の届かない仕事量にならないよう規模を大きくせずすべてが見える範囲でデザイン、品質、納期管理を徹底的に行ったことだと思います。設計施工は手作りなのでトラブルもつきもの。それを最小限に抑えながら精度の高いものを作ることを常に心がけています。
日本と変わりのない精度です。日本の大工や職人はプロ中のプロ。いわゆる職人技というものです。大工技術の歴史と誇り、 意識の高さに関しては日本は非常に優れている。その技に背景が異なる香港の職人たちがいかに近づくことができるかというのが大きなポイントになると思います。
あると思います。日系だから安心だしデザイン提案、品質、納期管理も期待できると思われているのでしょう。 最近、住居改装の話があり、リビングに掘りごたつを提案したんです。大変面白がられ弊社に決めてくださいました。掘りごたつという概念は香港ではなかなかないですよね。でもデザインする上で心がけるのは、もし自分がここにいたら心地よいかという感覚。日本人としての感性をフルに生かしてデザインしています。
約300店舗です。500〜600平方フィートなら、図面を書き始めて着工するまでほぼ1カ月くらいです。ただ香港では中国本土の工場で作ったものを組み立てるやり方が主なので、慣れるまでは大変でした。納期のないものは電話で確認しても見えないから工場に直接行く。それでないと失敗することもあります。手作りの難しさって最終的な完成度が人によって微妙に違うことです。感性が違うと出来上がりのレベルも異なるので、そこが大変ですね。
確かにそうです。ショップ自体も入る機会はありませんから(笑)。すべて駐在員時代から培ってきたノウハウを生かしています。どうしたらランジェリーがより美しく見えるか。緻密な計算で配置します。お客さまがスムーズに入りやすい、ゆっくり選びたいと思うような空間づくりですね。
ある日本のブランドが旗艦店を出す話があり、日本の施工チームが香港にきて職人に教えたものの工法が違うので職人が動けませんでした。最終的に徹夜が連日続いた上に商品陳列をしてもまだ工事をしていました。根本的なやり方が異なる人たちにいかに伝えることが難しいか。私も学ばされた機会でした。
今の若者はきつければすぐ辞めてしまう。私はできるだけ手がけた店のオープンにスタッフを連れていくようにしています。実際に自らが携わり出来上がったものを目にするとやはりうれしいものです。その感動をを実感してほしいと思っています。
室内の消臭防臭の材料販売の代理店、普及活動をしています。香港は建物内の有害物質の取り締まりの許可が日本と比べて緩いのです。今後、香港でも多くの快適な空間を生み出すための活動をしていきたいと思います。(この連載は月1回掲載します)
【楢橋里彩】フリーアナウンサー。NHK宇都宮放送局キャスター・ディレクターを経てフリーに。ラジオDJとして活動後07年に中国に渡りアナウンサーとして大連電視台に勤務。現在はイベントなどのMC、企業トレーナー、執筆活動と幅広く活躍中。 |
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