2011-2012課税年度の香港税務行政の概要
香港特区政府税務局(Inland Revenue Department=IRD)はこのほど2011—2012課税年度(2011年4月1日〜2012年3月31日)の税務行政の状況をまとめたアニュアルリポートを公表しました。このリポートは香港の税務行政を歳入、徴収、税務調査など、さまざまな角度から分析したものであり、香港税務の執行状況を知る上で納税者にとって有益な情報が含まれています。今回はその概要をまとめました。(デロイト・トウシュ・トーマツ香港事務所 佐藤康治)
香港の租税体系と収入の状況
2011—2012課税年度においてIRDは2383億ドルの租税を徴収し、前年度に続き過去最高額を更新しました。これは実に前年度比293億ドル(14%)の増加に相当します。増加の主たる要因は事業所得税と給与所得税の増加によるものでした。事業所得税は27%増の1186億ドルと急増し、給与所得税も17%増の518億ドルとなりました。他方、印紙税収入は13%減少し、444億ドルとなっています。税目別の収入の状況は表1のとおりです。租税収入は特区政府の一般歳入の71・6%を占めており、近年この比率は70%前後で安定しています。
アドバンス・ルーリング制度の利用状況
アドバンス・ルーリング制度とは、税務条例(Inland Revenue Ordinance=IRO)の規定が特定の状況においてどのように適用されるかを事前にIRDと納税者との間で決定する手続きのことを言います。これにより法の適用に関して納税者の予見可能性が高まり、法的安定性が増すことになります。この制度を利用するためには費用がかかり、所得源泉地に関するものは3万ドル、それ以外の事項は1万ドルの予納金が必要です(処理時間が規定時間を超過すると追加費用がかかります)。当局は、すべての関連資料が提出され、追加資料の提出を要しない場合には、申請から6週間以内に決定を下すよう努力しています。
租税条約ネットワーク
二重課税の問題はある納税者の同一の所得に対して香港と別の国がそれぞれ課税する場合に生じます。租税条約ネットワークを拡充することは香港居住者/企業の二重課税の状況を改善するのに役立つとともに、香港と相手国間の貿易や投資交流を促進します。
納税者はさまざまな方法で税金を納めることができますが、近年、電子的な方法(テレフォンバンキング、ATM、インターネットバンキング)による納税が広まってきています。2011—2012課税年度の納税件数のうち57%が電子的な方法によるものでした。 税務調査の執行状況
香港の税務調査はIRDの中のField Audit and Investigation Unitと呼ばれる組織により行われます。税務調査は申告書提出後に行われる査定(Assessment)とは異なり、租税回避や脱税といったケースを摘発することを目的としています。2011—2012課税年度においては1804件の調査が行われ、68億ドル(ペナルティーを含む)の租税が徴収されました。 最後に 香港の税収内訳を見ると、香港という地域の特殊性が浮かび上がってくるようです。香港税制は低税率と国外所得免除方式(すなわち香港源泉所得のみに課税)を特色とし、所得を課税標準とする税金が税収の過半を占めます。また、付加価値税がなく、賭博税が無視できない金額であるのも特徴の一つです。単純比較はできませんが、日本は所得税、法人税、消費税が三大基幹税であり、消費税の重要性が年々高まっています。企業の国際競争力を高めるため法人税率のさらなる引き下げが検討されている一方、消費税率を二段階で10%に引き上げる改正法案が2012年8月に成立しました。日本の租税収入の規模・構成がこれからどうなっていくのか気になるところです。 ※本記事には私見も含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。 (このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
佐藤康治(さとう・こうじ) Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所税務部門マネジャー、日本国公認会計士 総合商社税務部、欧州系銀行(投資銀行部門)の勤務経験を有し、税理士法人トーマツではM&Aに関する税務コンサルティングに従事。2012年7月よりDeloitte Touche Tohmatsu香港事務所に赴任。 東京大学経済学部卒。 連絡先:kosato@deloitte.com.hk
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