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最新号の内容 -20170310 No:1474
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注目株の指揮者とオスロ・フィル来港

 

 今、欧州の指揮者界で大注目のロシア系の名前(ファミリーネーム)といえば、2人のペトレンコです。1人は(ウクライナ系オーストリア人で)バイエルン国立歌劇場音楽監督のキリル・ペトレンコ、もう1人はロシア人のヴァシリー・ペトレンコです。

 ヴァシリーはロシア出身の注目株の指揮者で、英国リバプール管弦楽団で絶大な賞賛を受けて、今回、ノルウェーのオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者も兼任になりました。彼のディスクの録音は数多く、ナクソスレーベルで録音したショスタコーヴィッチの交響曲全集は世界的にもベストセラーになりました。

 一方、キリルは昨年ベルリン・フィルの次期音楽監督に指名されて注目を集めました。

 今年の香港芸術節(香港アートフェスティバス)では、ヴァシリー・ペトレンコ(以下ペトレンコ)が新しい相棒「オスロ・フィルハーモニー管弦楽団」を引き連れて来港します。

ヴァシリー・ペトレンコとオスロ・フィルハーモニー管弦楽団(写真提供・Hong Kong Arts Festival Society Limited


音楽のフルコース

 3月14日と15日のオスロ・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートは、どちらも非常に魅力的で甲乙つけ難いプログラムです。ペトレンコ自身の音楽性を確かめるには14日の方がよいでしょう。ノルウェーのグリークの超有名曲で始め、すでに何度か紹介したショスタコーヴィッチのチェロ協奏曲第1番、そして、長大でロマンチックなラフマニノフの交響曲第2番と、完全なフルコース。お腹いっぱいは確約のメニューです。

 「ペールギュント」で北欧の澄んだ空と空気を体感してから、一気に情熱ほとばしるショスタコーヴィッチのチェロ協奏曲第1番で思いっきり燃えることができます。そして後半はたっぷり1時間、名曲の交響曲第2番でラフマニノフの故郷を思う郷愁の綿々とした感傷に思いっきり浸ってください。


恋に落ちそうな音楽

 一方、15日は、同じノルウェーの作曲家で国外ではほとんど知られていないトヴェイトの作品です。「ハンダンゲルの百の旋律」という音楽は文字どおり百の旋律からなり、今回はペトレンコの抜粋による組曲になると思います。この音楽はコンサートで取り上げられることも滅多にないでしょうが、聴いたら一度で恋に落ちそうな可憐で優しい愛嬌満点の音楽です。しかし、民族調というのか軽やかなお祭り騒ぎの雰囲気が満載で、時々、メランコリックに故郷や過去の楽しかったことを思い出すような旋律が飛び出てきてハッとさせられたり、とにかく色彩豊かな音楽なのです。こんな多彩な作曲家がノルウェーから輩出されていたなんて驚くと思います。こういうほとんど誰も知らない音楽を発見できることがクラシック音楽の奥の深さだと思います。

 2曲目のエルガーのチェロ協奏曲は、春に聴くよりまさに晩秋の音楽かなと勝手に思うのですが、人生を見つめ直そうと思ったら、まずはこの曲を聴いてみてください、というくらいに内省的であり、感情の発露がほとばしる激しい音楽でもあります。チェリストの演奏を音楽会で実際に見ると、ものすごい迫力に圧倒されますが、これが女性チェロ奏者のために書かれたと知ると驚くでしょう。現在の女性チェリストの録音が高い評価を受けており、この曲を最も得意にしていたチェリストは英国の有名なジャクリーヌ・デュ・プレで、彼女がソロを担当した録音は今や殿堂入りしたディスクと言えるでしょう。

 エルガーはあの第2の英国国歌といわれる「威風堂々」の作曲家ですが、チェロ協奏曲は己に問いかけるような音楽で、英国の音楽ながら聴いていると北欧の音楽と聴き間違えるような雰囲気を持っています。


浮遊感を漂わせる旋律

 そして同日は3曲目に、その英国で絶大な人気を誇る北欧の作曲家でありフィンランドを代表する作曲家シベリウスの代表作、交響曲第2番を演奏します。シベリウスは自国のフィランドを中心に北欧諸国、英国、ドイツ、米国、日本で人気があり、よく聴かれる音楽です。交響曲第2番、交響詩「フィンランディア」やバイオリン協奏曲は毎日のように世界中で演奏されている名曲中の名曲です。

 ロシアの指揮者がシベリウスを指揮すると、チャイコフスキーのように聴こえてしまい、北欧音楽の凛とした矜持、シベリウスの心の一番奥から込み上げてくるようなエネルギーの爆発は、荒々しいだけの音楽だったり、感傷的すぎる音楽になってシベリウスの真骨頂は楽しめないのですが、ペトレンコであれば、もともと英国で音楽を完成させた指揮者で、力づくではない新しいタイプのロシアの指揮者ですので、シベリウスの浮遊感を漂わせる旋律ラインを上手に表現してくれると思います。

 ロシアや北欧を音楽で旅すれば、清々しい一夜になるかもしれません。
 

(本連載は2カ月に1回掲載)